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最速の探偵と呼ばれるワケは?『掟上今日子の備忘録』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は、講談社『月刊少年マガジン』で連載中の漫画『掟上今日子の備忘録』をレビューします。さまざまな事件を美人探偵が解決する、コミカルなミステリー作品です。原作は西尾維新さんの小説「忘却探偵シリーズ」で、キャラクター原案はVOFANさん。コミカライズ担当は浅見ようさん。2015年には新垣結衣さんの主演でテレビドラマ化されています。

『掟上今日子の備忘録』

『掟上今日子の備忘録』 1~4巻 西尾維新・浅見よう / 講談社

寝ると記憶がリセットされる

本作の主人公は「置手紙探偵事務所」の所長・掟上今日子(おきてがみ・きょうこ)25歳。事務所名の「置手紙」と姓の「掟上」は、読みは同じでも漢字が違います。メガネをかけた小柄な女性で、まだ若いのになぜか総白髪です。原作で「同じ服を着ているところを見たことがない」と言われるほどのお洒落さんで、お金にはうるさい性格です。

そんな彼女の最大の特徴は、寝ると記憶がリセットされてしまうこと。少しうたた寝しただけでも、寝る前までのことを忘れてしまうのです。そこで彼女は腕や足など自分の体に、記憶を失った自分への「置手紙」をバックアップとして残しています。もし仕事中に寝てしまい記憶が失われたとしても、事件解決のためのヒントは残されているというわけです。

「置手紙」は太ももやお腹など、普通に服を着ていたら隠れている箇所にも書かれています。躊躇なくスカートをたくし上げたり、服をめくってお腹の字を確認したりと、人目を気にせず自分を取り戻そうとする姿は、ドキッとさせられます。実にあざとい。

忘却探偵だから最速の探偵

だから彼女は探偵業を営んではいても、原則として1日で解決できる事件しか引き受けません。とはいえ謎解きの手際も見事なので、「あなたのお悩みを一日で解決します!」が売りの「最速の探偵」と呼ばれているのです。そして同時に、機密が漏れる心配がない「忘却探偵」としても重宝されています。

探偵への依頼主(兼助手兼語り部)は、隠館厄介(かくしだて・やくすけ)という男性(25歳)が務めることが多いです。名前からして不穏な彼は、周囲で事件が起こるとなぜか疑われてしまう冤罪体質の持ち主。あまりに何度も巻き込まれるため、自衛策として名探偵ホットラインを持っているほどです。

隠館厄介は「最速の探偵」掟上今日子に何度もお世話になっているのですが、寝ると忘れる掟上今日子からすると、毎回が初対面。お世話になるたび「初めまして」と渡される名刺が、隠館厄介の密かなコレクションになっています。ただ、これは、お世話になっている回数を示すとともに、トラブルに巻き込まれている回数でもあるわけで。そう考えてみると、恐ろしい。

ちょっとうらやましい?

さて、掟上今日子は「寝ると忘れる」という自分の特性を、事件解決のために活用することがあります。推理が行き詰まると、煮詰まった思考をリセットするため、仕事中でも仮眠してぜんぶ忘れてしまうのです。なんと便利な体質。

そのとき役立つのが、例の「置手紙」。依頼人である隠館厄介の目の前で躊躇なくスカートをたくし上げたり、服をめくってお腹の字を確認したり。ちょっと彼がうらやましく思えるときも? 覚えていないはずの隠館厄介との距離も、なぜかだんだん縮まっていくように感じられます。掟上今日子の思わせぶりなセリフには、妄想が膨らみます。ちくしょう。

なお、ストーリーの主軸になっているのは「Case:隠館厄介」ですが、Extraパートでは隠館厄介以外の依頼人も登場します。ただし、Extraパートは1話完結のオムニバス形式。実は、原作小説ではシリーズ2巻目の『掟上今日子の推薦文』はまるごと1冊、警備員の親切守(おやぎり・まもる)が依頼人の物語です。

ところが、漫画になっているのは、本稿執筆時点で第1章「鑑定する今日子さん」だけ。親切守の事件のその後が気になる方は、ぜひ原作小説も読んでみましょう。きっと漫画版も、もっと楽しめるはずです。

『掟上今日子の備忘録』

『掟上今日子の備忘録』を試し読みする

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