剣と魔法でロボットなファンタジーのクリエイター物語『ナイツ&マジック』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー
今回はヤングガンガンで連載中の漫画『ナイツ&マジック』をレビューします。剣と魔法のファンタジー世界で、ロボット好きな少年が自分専用機を作っちゃうお話です。単行本は本稿執筆時点で9巻まで刊行中。原作は「小説家になろう」への投稿連載を経て、主婦の友社(現・主婦の友インフォス)ヒーロー文庫から商業出版を果たした天酒之瓢(あまざけの・ひさご)さんで、同じく9巻まで刊行中です。キャラクター原案は黒銀(くろぎん)さん。コミカライズは加藤拓弐(かとう・たくじ)さん。2017年にはTVアニメ化もされています。
『ナイツ&マジック』作品紹介
『ナイツ&マジック』 1~9巻 天酒之瓢・加藤拓弐・黒銀/スクウェア・エニックス
事故死した敏腕プログラマーが異世界転生
本作の主人公は、少年エルネスティ・エチェバルリア、通称エルです。前世は敏腕プログラマーでロボットオタクの倉田翼、でした。交通事故で死んだ倉田は、前世の記憶を残したまま、異世界へ転生します。そこは、剣と魔法のファンタジー世界……なのですが、本作の世界は少し毛色が異なります。それが、魔法で操縦する人型巨大ロボット「幻晶騎士(シルエットナイト)」の存在です。
前世がロボットオタクの少年エルは、初めて見るシルエットナイトに大興奮。シルエットナイトを動かす魔法術式はプログラミング言語で見られる論理法則そのものだし、それを処理する魔術演算領域(マギウス・サーキット)は仮想的なコンピュータと、まるで転生が天命であったかのような世界設定です。
僕も乗りたい!
と、エルは目をキラキラと輝かせます。
ところが、シルエットナイトを操縦する「騎操士(ナイトランナー)」の養成学校へ入学したエルは、操縦するには身長制限があることを知ります。前世では大人でしたが、エルはまだ初等部。友人からも「小さくて可愛い」と言われる、背の小ささです。シルエットナイトに乗れるようになるまで、まだしばらくかかりそうなことを知り、エルはしばし落ち込みます。
「ないなら作ればいい」という発想の転換
しかし、友人の発言に触発され、エルは発想を転換するのです。
ないなら作ればいいのです!
僕に合う僕だけの幻晶騎士を!
つまり、国から支給されるシルエットナイトを、好き勝手に改造しちゃおうと目論むのです。「ないなら作ればいい」という発想は、まさにプログラマー、あるいはクリエイター的と言っていいでしょう。「乗る」ために「作る」ことまでもが、夢ではなく現実にできてしまう世界。そう聞くと、なんてご都合主義的な物語だ、と思うかもしれません。
ただ、その夢を実現するため、剣や魔法の鍛錬を積み重ね、勉強にも熱心に取り組む姿も本作では描かれています。目をキラキラと輝かせ、喜々として取り組んでいるので、あまり大変そうには見えないのですが、よくよく考えると尋常ではない努力を積み重ねているのです。「好きこそものの上手なれ」ということわざがありますが、まさにそれ。
そういう意味で『ナイツ&マジック』は、“「異世界転生」×「メカオタ」本格ロボットファンタジー”であるのと同時に、ものづくりに没頭するクリエイターの物語でもあると思うのです。
『ナイツ&マジック』 1~9巻 天酒之瓢・加藤拓弐・黒銀/スクウェア・エニックス