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『ブルーピリオド』感想解説|RABマロン話題の漫画レビュー

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マロンさん『ブルーピリオド』レビューバナー

どーもマロンです! 春になり暖かくなってきましたね。しかしまだ足りない! もっともっと、熱くなれよーーーーー!!!!ということでヤケドするほど熱い作品をご紹介します。

それがこの作品『ブルーピリオド』です!!

山口つばさ原作。『月刊アフタヌーン』にて連載中。
成績優秀であり、リア充な主人公の矢口八虎(やぐち やとら)は勉強も遊びも効率的にこなし、充実的な日々を過ごしていたが、どこか虚しさを感じていた。ある日一枚の絵に心を奪われ、美術に目覚める。無謀とはわかりつつも東大よりも難しいとされる美大に挑戦する!

『ブルーピリオド』書影

新時代の主人公 矢口八虎

まず注目したのは不良でありながら、成績優秀、クラスメイトからの人望も厚く人気者という新しい主人公像! 普通の漫画であれば”不良が美術を始める”でも充分ギャップのある作品だが、ここで”努力型リア充男子”(帯に書いてあった)という新ジャンルを打ち出してきた。
最近の漫画は主人公の設定が複雑さを増してきた気がします。それは従来の漫画のセオリーである”キャラクターはわかりやすく”という考えへのカウンター的なキャラであると考えられます。”不良=勉強ができない”や”オタク=社会不適合者”という、ある意味記号的なキャラクターの使い回しに読み手が飽きてきたというのもありますが、人間そんな簡単じゃねぇ、という作家の叫びでもあるように思えます。
複雑な人間性は行動原理に矛盾が生まれ、漫画として時には分りづらくなってしまうが、この複雑な人間性がブルーピリオドとうまくマッチングしているのだ。
主人公は合理的であり、現実主義である。しかし「絵では食っていけない」という現実を跳ね除け八虎は美術の道へ進むという矛盾を見せる。”情熱”と”理屈”の矛盾する二つの感情がせめぎ合う人間、それが”不良”であり”優等生”である矢口八虎なのである。

誰しも一度はある!? 情熱が理屈を上回る瞬間

八虎は美術室の一枚の絵に心奪われ、情熱が理屈を超えてしまいますが、実は自分にも似たような経験があります。僕はオタクでありブレイクダンサーという世間的には相反する二つ持っています。オタクは元々だったのですが、ダンスのきっかけはTV番組の「めちゃ×2イケてるッ!」で岡村隆史さんがブレイクダンスをしているのに衝撃を受け、大学のダンスサークルに入る決心をしました。当時は僕も古い考えも持っており、”ダンス=不良の遊び”のイメージがあり、ダンサーとオタクは狩る者と狩られる者、サークルに入るという事はまさにオオカミの群れに飛び込んでいく程の勇気が必要でした。
しかし、それを可能としたのはそれを上回るダンスへの好奇心とこんなにも熱くなれる自分への喜びでした。きっと八虎も同じ気持ちだったんじゃないかなーと読みながら思ってしまいました。

名言多数!? 美術の魅力を言語化

この作品は実に言葉の使い方が上手いと思います。美術というのは何が良いのかわからない、そこは読者もつい構えてしまうところですが、まずは始まりの一言

「俺はピカソの絵の良さがわかんないから」

この一言で読み手との感情が一致して物語に入りやすくなる。

「これは俺の感動じゃない」「『好きなことは趣味でいい』これは大人の発想ですよ」「理論は感性の後ろにできる道だ」と初めて読むセリフなのにストンと心に入ってきて、抽象的な美術の世界にも没頭できる。むちゃくちゃ上手いなーと!
端々に出てくる美術の用語なども知れば知るほど面白い!というかこれだけ説明が必要な物語がこんなにサクサク読めてしまうのはネーム力が半端ないのだろうとも感じます。
物語へダイブしてしまう感覚は是非とも体感してほしい。

好きな事をするのは喜びであり、苦しみである

八虎が度々物語で対面するのは好きな事を貫く苦しみ、好きだからこそ手を抜いてごまかせないし、挫折したら立ち直れない程のショックを受けるのではないかという不安。作品を生み出せる事はこの上ない幸福を感じるが、思うように描けない苦しみ、自分の作品が他人の作品に劣っていると感じると内臓が煮えたぎるように悔しい。そんな創作へのヤケドするほど熱い気持ちが作品から溢れている。
美術には正解がない。それが面白さでもあり、難しさでもある。正解があればそれに向かって勉強すればいいのだが、美術はそうはいかない。今まで合理的に、そして効率を一番に考えてきた八虎は学生生活では全てを手に入れてきた。しかしそんな八虎だからこそ美術は最も難しい世界であり、美大の受験には正解を打ち出す天才達(ライバル)がいる。八虎は美術の世界では”持たざる者”なのだ。
その持たざる者である八虎が努力でその差を埋めようと命を燃やしている感覚が、この作品の熱の元であり、魅力となっています。

自分は一体何者なのか

若者達特有の悩みで”何者にもなれない自分”というものがある。自分はきっと何かできる可能性を秘めていると信じたいが、それが何かはわからないというもの。
本編では絵を通して「ちゃんと人と会話できた気がした」と語ったように、今まで何も無かった八虎はようやく自分が”何者”かになれた気がしたのではないでしょうか。
自分探しとは永遠のテーマです。今やスマホでほとんどの事はできてしまう時代、情報に飲み込まれ、いつしか自分という存在が希薄になってしまう人も少なくはありません。
この漫画を読んだあなたは情熱で突き進み、絵を通して自分は何者なのか見つけていく八虎の姿に震え、一歩踏み出すでしょう。この熱さは伝染する!読むと動き出したくなる漫画『ブルーピリオド』是非読んでみてはいかがでしょうか?

紹介した作品はこちら

『ブルーピリオド』

作品の詳細を見る
『ブルーピリオド』 1~6巻 山口つばさ/講談社

RABマロンの描く”矢口八虎”!

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