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“イヌワシ”は少年兵を指揮して残酷な世界を生き抜く『マージナル・オペレーション』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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今回は『マージナル・オペレーション』をレビューします。オタクでニートだった青年が好条件に釣られて民間軍事企業へ就職してしまい、戦場で出会った少年兵・少女兵を指揮してギリギリの作戦(marginal operation)を戦い抜いていく物語です。

原作小説の著者は、芝村裕吏(しばむら・ゆうり)さん。設定原案は、しずまよしのりさん。コミカライズ担当は、キムラダイスケさん。講談社「アフタヌーン」での連載が2021年3月号で完結、最終16巻が2月22日に発売されたばかりです。なお、原作小説は星海社FICTIONSから刊行されていますが、本稿執筆時点で残念ながら電子版が存在しません。

アフタヌーン公式作品紹介ページ

『マージナル・オペレーション』作品紹介

マージナル・オペレーション

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完結『マージナル・オペレーション』 全16巻 芝村裕吏・キムラダイスケ/講談社
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いかにも怪しい民間軍事企業の人員募集広告

本作の主人公は新田良太(あらた・りょうた)。通称アラタは、ラノベとゲームと漫画が好きなオタクです。専門学校を卒業したのち7年間、親のスネをかじるニートでした。一念発起してようやくデザイン事務所へ就職しますが、給料日前にいきなり倒産。無職に逆戻りしてしまいます。

このままでは家賃も払えないとネットで次の就職先を探していたら、表示された民間軍事企業(PMSCs:Private Military and Security Companies)の人員募集広告に目が留まります。会社名は「自由戦士社」。いかにも怪しい。秋葉原の古書店に貼られていた「勤務地:シリア」という求人貼り紙(※実際の事件です)と同じくらい怪しい。

しかし、「書類審査後契約金支払い」で「業務は主にデスクワーク」「未経験可」という好条件に、アラタはまんまと釣られてしまいます。以下のような酷い条件があらかじめ明示されていて、アラタもそれを認識しているのに。

勤務地 紛争を抱える何処かの国
業務内容 直接的軍事行動またはその支援
命の危険 有り

面談を通過すれば契約金が出るし、給料はなんといままでの3倍。2年契約で海外勤務だからしばらく帰ってこれないけど、貯金も相当できるだろうと、アラタはこの怪しい会社の面談を受けに行ってしまうのです。

「CGの残念なシミュレーションゲーム」

面談では全員が、任地への派遣前に簡単なテストを受けてもらうと言われます。目の前に置かれたボタンを押すだけ。ただしそのボタンは、ある国の死刑執行部へネットで繫がっており、押すと銃殺刑が執行されるという仕組みだと説明されます。

さらなる説明を求め声を荒げたり、「マジなのか…?」「いや…嘘だろ…」などとつぶやきためらう周囲の人たち。そんな中、アラタはまったく意に介さず無造作にボタンを押し、席へ戻るのです。恐らくこれは、上官を疑ったりためらったりせず、命令に従うことができるかどうか、という適正を判断されたのでしょう。

ゲーム、それも射撃戦(おそらくFPS:First Person Shooter)が得意なアラタは、そのボタンの先、画面の向こう側でなにが起きているのか? という想像力が希薄になっていたに違いありません。訓練キャンプでもそれは変わらず、アラタは「CGの残念なシミュレーションゲーム」を遊んでいるような感覚でした。

画面の向こう側にあるのは本物の戦場だった

ゲーム感覚のまま、殲滅戦を指揮するアラタと同僚。完全撃破を喜んでいたら、面会したいという人たちが現れます。整列した屈強な男たちから敬礼され、感謝の意を告げられ、ようやく気付きます。これは訓練ではなく、実戦だったのだ、と。

アラタが「CGの残念なシミュレーションゲーム」だと思っていた画面の中で、戦術単位「P」や「S」、そして「E」と無機質に表示されていたシンボルは、実在する人間たちでした。アラタたちは、「P」は小隊(platoon)、「S」は分隊(squad)、「E」は敵(enemy)を意味することすら知らされていなかったのです。

では、反撃せず逃げるだけだった、あの「E」たちは……? と、アラタは自分のオペレートによってなにが起こったのかを、ようやく悟ります。「CGの残念なシミュレーション」はゲームではなく、画面の向こう側にあるのは本物の戦場だったのです。

戦場にいたのは、少年兵・少女兵たちだった……

残酷な現実を知り、吐き、泣き、消沈するアラタ。しかし、自分がなにをしたのか確かめてやると、立ち上がります。「味方を死なせたくない」と強く願うようになったアラタが次に派遣された戦場では、なんと少年・少女が銃を持ち戦っていたのです。

そんな彼ら彼女らとともに世界を転戦することになるアラタは、いつしか「子供使い」と呼ばれるようになる――という物語です。自身が銃を持ち戦うわけではなく、現場指揮官をさらに後方で指揮する「オペレーター・オペレーター」が主役という、ちょっと珍しい設定の作品となっています。

少女兵のひとり、ジブリールとの心の通い合い、といった要素もこの作品の魅力の一つ。戦場を鳥瞰しているかのような指揮をするアラタを、ジブリールは「イヌワシ」と呼び慕うのです。残酷すぎる世界の中の清涼剤。いや、ジブリール(ガブリエル)だから、天使ですね。

マージナル・オペレーション

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完結『マージナル・オペレーション』 全16巻 芝村裕吏・キムラダイスケ/講談社
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