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第二の人生は胸を張って生きていこう『魔導具師ダリヤはうつむかない』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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今回は漫画『魔導具師ダリヤはうつむかない』をレビューします。異世界へ転生した主人公が、魔導具作成の専門家として第二の人生を謳歌するお話です。原作は甘岸久弥(あまぎし・ひさや)さん。もとは「小説家になろう」の投稿作品で、本稿執筆時点でも週1ペースで連載されています。KADOKAWA・MFブックスで商業出版され、3巻まで刊行中。イラストは景(けい)さんです。

漫画版は、マッグガーデン「コミックブレイド」とKADOKAWA「コンプエース」の2誌で同時に連載されるという、ちょっと珍しい展開になっています。コミックブレイド(ブレイドコミックス)版のコミカライズは住川惠(すみかわ・めぐみ)さん。コンプエース(角川コミックス・エース)版のコミカライズは釜田(かまだ)さん。どちらも9月に1巻が出たばかりです。

コミックブレイド(ブレイドコミックス)版には英語で「~Dahliya Wilts No More~」というサブタイトルが、コンプエース(角川コミックス・エース)版には小説版と同じ「~今日から自由な職人ライフ~」というサブタイトルが付いています。コンプエース(角川コミックス・エース)版の構成は小説版にかなり忠実ですが、コミックブレイド(ブレイドコミックス)版は時系列順に再構成されています。私は、どちらかと言えばブレイドコミックス版のほうが好きなので、本稿ではそちらを中心にレビューします。

『魔導具師ダリヤはうつむかない~Dahliya Wilts No More~』作品紹介

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父親のあとを継ぎ魔導具師になる

本作の主人公は、ダリヤ・ロセッティ。女性です。前世では日本の一般家庭に生まれ、家電メーカーに就職し、激務で過労死。その記憶を残したまま、魔物が住み魔法が使える中世風のファンタジー世界で生まれ変わります。物心がついたころには、すでに母親は不在。父親は魔導具師で、魔石などを用い誰でも安全に魔法が使え便利な暮らせる道具の発明家です。ダリヤは幼いころ、キラキラと輝く魔導ランタンの光を見せてもらい、父親と同じ魔導具師になることを決意するのです。

前世の記憶がここで生きてきます。ドライヤー、給湯器、卓上コンロ、冷蔵庫などのいわゆる家電製品から、防水布、レインコート、ハンドソープディスペンサーのような電気を使わない道具まで、ちょっとこの世界の普通の人では思いつかないような便利グッズを、のちに、次々と生み出していくことになるのです。

とはいえ、前世の記憶は「そういう物がある」程度のもので、ダリヤが設計を知っているわけではないし、電気もない、石油化学もありません。魔法や魔石、魔物から生成される素材も、万能ではありません。そんななか、ダリヤは創意工夫と諦めない根気で、新しい魔導具を生み出していくのです。

第二の人生はもう、うつむかない

……という世界設定をベースに、本作で繰り広げられるのは人間ドラマ。兄弟子との婚約、父親の急逝、そしてなんといっても、婚姻届を書く直前の婚約解消(ちなみに小説版と角川コミックス・エース版は、いきなりこのシーンから始まります)。「真実の愛」とやらを見つけてしまった婚約者の、常軌を逸したわがまま。次々起こる、嫌なこと。しかし、ダリヤはうつむいてばかりだった前世を思い出し、二度目の人生は胸を張って、生きたいように生きようと誓うのです。

これは私の体感でもあるのですが、不思議なもので、姿勢というのは思考と直結しているようです。背中を丸めうつむいて下ばかり見ていると、ネガティブな思考に。背筋を伸ばし、胸を張り、前や上を見るようにしていると、ポジティブな思考になります。そして、ネガティブ思考だと不幸の連続に苦労しますが、ポジティブ思考だと幸運が舞い込んできます。まあ、同じ事象に遭遇しても、気の持ちようで全然違うということでもあるのですが。

ダリヤが「もううつむかない」と決めた日以降も、嫌なことは起こります。でも、友人が助けてくれます。ギルドの人たちも助けてくれます。イケメンとの運命的な出会いもあります。便利な魔導具を使った人々の笑顔と感謝。そして、美味しいお酒と美味しい食べ物。こうしてダリヤは第二の人生を謳歌していくのです。人生、楽しんだもの勝ちですね!

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