語り合える友達が欲しい『木根さんの1人でキネマ』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー
こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。
今回は、白泉社の総合エンタメアプリ「マンガPark」で連載中の漫画『木根さんの1人でキネマ』をレビューします。著者はアサイさん。単行本は本稿執筆時点で3巻まで刊行中。映画好きな方に、ぜひ読んで欲しい作品です。
『木根さんの1人でキネマ』 1~3巻 アサイ / 白泉社
こじらせてしまった映画鑑賞趣味
本作の主人公は、木根真知子。30代独身OLで、趣味は映画鑑賞。……と聞くと、いたって普通の趣味のようですが、木根さんの映画好きは、ちょっとだけ普通ではありません。ジャンルが偏っていて、観る本数も回数も半端なく多い。彼女の趣味は、ちょっと「こじらせてしまった」レベルなのです。
子供のころテレビの日曜洋画劇場で観た『ターミネーター』に心奪われ、人が死んだりドンパチしたりする映画ばかりを観るようになってしまったのが運の尽き。その趣味が周囲の誰にも理解されない歴史を積み重ねてきたため、会社など外では「擬態」によって本性を隠しているのです。
周囲に理解されないならと、感想はブログ「1人でキネマ」に書き続けています。インターネットであれば、同じ趣味嗜好の人と出会える……なんて、甘い話でもありません。オープンスペースですから、意見の違う人とも時間と距離を超えて出会ってしまいます。次々飛んでくる、自分とは異なる意見。ついつい木根さんは
「ネットは糞ね!!」
と大声を上げてしまうのです。
でも、本音は「映画友達欲しいよぉおおお!!」
趣味というのは、なかなか他人には理解されません。どっぷり浸かるほど、理解されづらくなります。自分が惚れ込んだものほど、他人から批判されたら腹が立つというものです。趣味のベクトルが近い人であっても、ちょっとした違いが論争のきっかけになったりします。
でも、木根さんの本音は「映画友達欲しいよぉおおお!!」なのです。「ここがよかった」「あそこがよかった」と、語り合い共感できる友達が欲しい、というのは趣味をこじらせてしまった人なら誰でも思うことかもしれません。たぶん、意見の違いに反発するのではなく、「そういう意見もあるのか」と、違いを楽しめるようになるといいのでしょうけどね。
そんな木根さんと映画にまつわる悲喜劇が、1話完結型で展開されるのがこの作品です。私もいろいろとこじらせてしまったほうなので、あるある過ぎて、なんども腹を抱えて笑ってしまいました。
なお、各話のタイトルは、基本的に1つの作品または1つのシリーズになっています。1巻掲載のタイトルを列記すると、以下のような具合です。確かに、人が死んだりドンパチしたりする映画ばかりです。
1本目 ターミネーター3
2本目 バッドボーイズ2バッド
3本目 インディ・ジョーンズ
4本目 スター・ウォーズ
5本目 ゾンビ映画
6本目 バック・トゥ・ザ・フューチャー
もちろん各話では、他の映画のことも話題になります。その一覧は各巻の最後に[参考キネマ一覧]という形になっており、なかなか壮観です。偏っているとはいえ、それなりにメジャーな映画も多いので、これなら理解者、現れそうなもんだけどなあ? ……と思ってしまった私も偏ってる?