高校演劇に青春を燃やせ!『まくむすび』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー
今回は、『まくむすび』をレビューします。マンガをずっと描いてきた少女が、高校入学とともに演劇の世界に引きずり込まれていくお話です。著者は保谷伸(ほたに・しん)さん。徳間書店「コミックゼノン」からマンガ家デビューし、これまで『キミにともだちができるまで。』(全5巻)、『マヤさんの夜ふかし』(全3巻)などの作品を世に送り出してきました。本作は「週刊ヤングジャンプ」で今年の3月から連載を開始、この7月に1巻が出たばかりですが、8月中旬にはもう2巻が出るそうです。
『まくむすび』作品紹介
- 『まくむすび』 1巻 保谷伸/集英社
- 『まくむすび』を試し読みする
たった一言で世界は変わる
本作の主人公は土暮咲良(つちくれ・さくら)。高校へ入学したばかりの1年生です。彼女は小さなころからマンガを描き続けていましたが、友人に見せたときの
ぜんぜんわかんないや
という一言に傷つき、描いたマンガを誰にも見せられなくなっていました。発した本人にはまったく悪気がない、しかし、受け取る側には重い重い一言で、楽しかった創作の世界が暗転してしまったのです。
高校に入り「変わろう」と決意し、創作活動を諦めようとしていた彼女は、処分するはずだった創作ノートを間違えて学校へ持ってきてしまいます。そのノートが偶然、演劇部の先輩の目に留まったのが運の尽き(?)でした。先輩はそのマンガを無断でアレンジし、新入生歓迎会の部活紹介で演じてみせたのです。
なんで私の作品をあんなことに使ったんです!
と先輩を詰問する彼女は、
漫画としてはとても読めたものじゃないが
だが…
素晴らしい戯曲だった
ありがとうこんな素敵な世界を綴ってくれて
という先輩の一言によって、再び創作の世界へ足を踏み出していくことに……いや、最初は拒絶していたのです。が、ノートを返してもらうために体験入部し、つい即興演劇をやってしまい、創作の楽しさを思い出しかけ……それでもなお彼女は、入部を躊躇していました。
演劇は誰かにやらされるもんじゃないと思うから
などとうそぶいていた先輩が、放課後の教室まで押しかけ教壇で「ロミオとジュリエット」を演じ始めるまでは。結局、彼女は創作の世界に魅了され、先輩に手を引かれ、演劇部へ入部することになるのです。嗚呼、これぞ青春。
自分の表現がだれかに喜ばれるということ
先輩が彼女を勧誘する際に語っていたとおり、なにかを表現することは実は恐ろしいことです。それは創作に限った話ではありません。私自身、大勢の前に立たされ、大勢の視線に晒され、声が出なくなり、頭が真っ白になった経験が何度かあります。
また、表現することによって、誰かを傷つけることもあります。怒りを買うことも。誤解を生むことも。嫌われることも。そして、辛辣な批評をぶつけられることも。逆に、喜ばれることも、感謝されることもあるのです。
しかし、本作の主人公が高校に入るまで描き溜めていた創作ノートの山のように、誰にも見せずにいたらそれは存在しないのと同じこと。「好き」の反対は「嫌い」ではなく「無関心」だという言葉があります。同じように、表現という行為で一番辛いのは、誰からも反応が得られない、無関心な状態であることだと、私は思うのです。
自分の表現が、いつも良い反応を得られるとは限りません。それでも私は、自分の表現がだれかに喜んでもらえたらいいなと思いながら、今日もキーボードを叩くのです。
- 『まくむすび』 1巻 保谷伸/集英社
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