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本がないなら紙から自分で作ってしまえ!『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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今回は漫画『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』をレビューします。本が大好きなのに地震で本の下敷きになって死に、文明の発達が遅れた異世界へ転生した病弱な少女が、なんとしても本を読む! という一念で前世の知識を活かし物作りに悪戦苦闘するお話です。TVアニメ化もされ、今年の秋クールで放送されたばかりの作品です。

原作小説の著者は香月美夜(かづき・みや)さんで、「小説家になろう」での投稿連載がTOブックスから書籍化されています。イラスト/キャラクター原案は椎名優(しいな・ゆう)さん。コミカライズは、TOブックスが「ニコニコ静画(マンガ)」で展開しているウェブコミック「comicコロナ」などで連載されており、第一部(全7巻)と第二部(2巻まで刊行中)は鈴華(すずか)さんが、第三部(2巻まで刊行中)は波野涼(なみの・りょう)さんが作画を担当しています。

なお、第二部より第三部のほうが半年ほど早く連載が始まっており、本稿執筆時点では第二部と第三部が同時に連載・刊行されているので、読む順番には注意が必要です。この辺りの事情については、第三部の1巻に載っている香月さんのあとがきで、長い話なので第一部の連載ペースでコミカライズを続けると完結まで30年かかってしまうため、という理由が明かされています。

『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』作品紹介

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本が読みたいのに、どこにもない!

本作の主人公は、マイン。前世は、本須麗乃(もとす・うらの)という名前で、卒業間近の女子大学生でした。本に囲まれて生きることに幸せを感じ、「どうせ死ぬなら本に埋もれて死にたい」と思っていたほどの本好きですが、震度3か4くらいの地震で本棚に押しつぶされ本当に死んでしまいます。死んだ麗乃は、マインという5才の女の子の体に、麗乃の記憶を持ったまま、マインの記憶も引き継いだ上で転生します。

そこは中世ヨーロッパ風の異世界。熱を出して寝込んでいた転生直後のマインは「本さえあればどんな環境でも我慢できると思う」と考え、姉のトゥーリに「『絵本』がほしいの!」とお願いしますが、そもそも「本」という概念が通じないことに苛立ちます。そして、家族が外出している隙に家捜ししますが、本はおろか文字が記されたものすら存在しないことに気づき、絶望し、泣き出してしまうのです。

我々の世界では、活版印刷技術が発明されたのは15世紀とされています。マインの住む世界は、少なくともそれより前の文明段階ということになるのでしょう。つまりここでの本は、手で書き写す「写本」か木版印刷で複製するしかなく、非常に高価で一般庶民に流通するものではない、ということになります。街の雑貨屋でたまたま見つけた本も、貴族の質草で厳重に管理されており、マインがお願いしても触らせてもらうことすらできない有様です。

手に入らないならば、どうするか? マインは「自分で作るしかないでしょ!」と決意します。本を読みたいから、自分で紙から作る……なんというかそれ、本末転倒ではありませんか。いや、自作自演?(ちょっと意味が違います)

ないなら自分で作るしかない!

ともあれ、羊皮紙やインクは高すぎる。ならばパピルスだ、粘土板だ、などと前世の知識を総動員してトライし続けるマイン。その副産物というべきでしょうか、生活環境改善のためアボカドっぽい実を潰して搾った油から作ったシャンプーや、姉に作ってあげた髪飾りなどが商人の目にとまり、マインは作った物や製法情報の取引を行っていくことになるのです。

前世の知識を活かし……というのは、以前レビューした『魔導具師ダリヤ』もそうですが、異世界転生モノでは比較的よくある話。ただ、マインはあまりに虚弱過ぎて、自分ではまともに街中を歩き回ることすらできないし、無理をするとすぐ熱を出してしまう、なにかを作るにしても誰かに頼るしかない、という、ちょっと厳しめのハンデを負っている点が本作の大きな特徴と言えるでしょう。

前世の知識についても、製法を詳細に覚えているわけではないし、なにかを作ろうと思ってもそもそもその道具を用意するところから、とか、釘を手に入れるのも一苦労、とか、毎回かなりのハードモード。それでもマインは、なんとしても本を読む! という強い意志のもと、少しずつ、コツコツと、ハードルを乗り越えていきます。

本作は、そんなマインの成長譚です。

なお、電子版にはカバー下の表紙も収録されていますが、マインが「やっぱり紙の本っていいよね!」とほくそ笑んでおり、電子版で読むと苦笑いできます。ムフー。

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