田中圭一、年内で漫画家廃業!? その真相と後継者を独占取材!
3月も終わる某日午後、ぶくまる編集部に1件のメールが届いた。差出人は漫画家・田中圭一先生。
「実は2015年12月をもって、漫画家を廃業しようと思っている。ついては、どこかで正式に発表の場を設けたい」
田中圭一氏と言えば、手塚治虫をはじめ、様々な漫画家のタッチを真似るパロディー漫画家であり、近年では京都精華大学の教授を務めながら、「ペンと箸 ―漫画家の好物―」「わが生涯に一片のコマあり」など、インタビュアーとしての活躍もめざましい。また、自身のうつ病体験を元にした「うつヌケ ~うつトンネルを抜けた人たち~」をWEB連載するなど、三~四足のわらじを巧みに履きこなしている方でもある。
普段のマルチな活躍ぶりを考えると、あまりにも突然すぎる宣言だ。
とにかく、我々ぶくまる編集部は、急遽、田中氏に会って話を伺うことにした。
以下は、ぶくまる独占取材の全てである。
ぶくまる(以下、ぶく)「そもそも、どうして突然の廃業宣言を?」
田中圭一(以下、田中)「〆切に追われ、やっと3月最後の原稿が上がった明け方に、近所を散歩してまして。舞い散る桜を見上げていると、ふと今まで自分が行ってきた所業の罪深さがまざまざと思い出され、まっすぐ立っていられないほどになりました。自分でも驚きでしたが、五十肩のように、こういうのは突然やってくるものなんですね。もう潮時だと、その時に思ったんです」
ぶく「罪深さとは?」
田中「手塚治虫先生は言わずもがな、名だたる漫画家先生の画風を真似て、しかもそれで下ネタパロディーを描くなんて、本来なら許されるわけがないでしょう。今まで訴訟問題にならなかっただけでも、すごいことです。関係者の皆様の器の大きさとご慈悲に心から感謝すると同時に、お詫びのしようもございません」
取材中、自身の過去を振り返り、罪の重さに耐えきれなくなってきたのか、涙をこぼす田中氏。
悟ったように天を仰ぐ瞬間もあった。
あまりの動揺に、カメラマンの手もぶれてしまった。
我々は、初めて見る田中氏の一面に戸惑いながらも、質問を続けた。
ぶく「しかし、今も雑誌やWEBで多数の連載を抱えている状態ですが、それらはどうされるのでしょうか?」
田中「実はこの廃業のことは、TPP問題がたびたび話題に上がるこの数年、ずっと考えていたんです。そのため、仕事に穴をあけないよう、水面下で後継者を育ててきました」
衝撃に次ぐ衝撃。後継者となる漫画家が、既にいるというのだ。
田中「この機会に、皆さんにご紹介させてください。2代目・田中圭一となる漫画家を」
その名は、臼手 ソヨ(74)。2代目が女性、しかも思いのほか高齢なことにも驚きだが、なんと本業は東北某山のイタコだという。
田中「ソヨ婆とは昨年の夏、避暑に訪れた清里のペンションで知り合いました。話をするうちに意気投合し、また彼女のイタコ力(いたこりょく)が起こす奇跡の数々に感動して、2代目をお願いすることにしたんです。ずっと悩んでいた後継者探しに、一筋の光が射した瞬間でした。あ、もちろん、手は出していませんよ」
まだ正式デビュー前であり、しかも本業に支障が出るということで、残念ながら顔はお見せできないが、田中氏よりもさらに20歳上ということで、この手からはこれまでの人生の山や谷を乗り越えてきた、ソヨ氏の豊富な人生経験をうかがい知ることができる。
田中「彼女はすごいですよ。なにしろ、今は亡き漫画家先生を口寄せで降霊してマンガを描くんですから」
田中氏が何を言っているのかを理解するまでに、3分ほどかかってしまった。
まるで、いつものようにセクハラまがいの下ネタでからかわれているような、にわかには信じがたい話だったが、田中氏の涙と、熱っぽい口ぶりに気圧され、聞き手である我々も思わず頷くほかなかった。
取材中、突然、空に手をかざしたソヨ氏。作業前に必ず行う儀式であるらしい。天から巨匠たちのパワーを享受しているようだ。この手が、果たしてどんな作品を生み出すのか。
田中氏も、これが現実的ではない、突拍子もない話であることは分かっているようだ。論より証拠ということで、実際にソヨ氏が作業している仕事場と、貴重なラフスケッチを見せていただくことにした。
なんと、御年74歳にして、デジタル作画である。イタコ業界にもIT化の波が押し寄せているらしい。
さらに、ソヨ氏が扱うことにより、ペンタブには「筆圧感知機能」に加え「霊圧感知機能」が備わるという。
漫画家の霊圧をペンタブが感知することによって、より本人に近いタッチを再現できるらしい。ちなみに、口寄せは故人だけでなく、存命中の漫画家も可能であるそうだ。
そして、ラフスケッチがこちら。
確かに、ややつたなさの残る描線ではあるが、今後のポテンシャルを充分に感じることができた。
田中「ただ、まだ不慣れなもので、チャネリングがうまくいかないこともあります。これは作家とキャラのチャネル不良が起こってしまった絵ですね」
作家とキャラが噛み合わないこともあるようだ。確かに、このラフスケッチの中だけで、5~6人ほどの漫画家が降臨してしまっている。
最初は半信半疑であったが、この取材中に部屋の壁にビシッとヒビが入ったり、描き途中のネームの中に描かれた、とてもここではお見せできないようなイヤラシイ喘ぎ声が、実際に隣室から聞こえてきたりと、不可思議な現象によって、取材をたびたび中断せざるを得ない(そして聞き耳を立てざるを得ない)ほどであったのだから、信じるしかないだろう。
田中「今は僕のアシスタントを務めていますが、年内には独り立ちさせるつもりです。皆さんにご満足いただける作品を世に出すまで、ソヨ婆は僕が責任をもって育てあげますよ」
臼手 ソヨ氏がデビューする時には、またぶくまる編集部が独占取材させていただく約束を取り付け、我々は田中氏の仕事場を後にした。
そんな田中圭一先生の、漫画家生活最後の単行本『神罰1.1』が、4月5日に発売となる。彼の今生ラストとなる魂のきらめきを、ぜひその目で確かめてほしい。
『田中圭一最低漫画全集 神罰1.1』 田中圭一 / イースト・プレス
※これは田中圭一先生とぶくまる編集部による、エイプリルフール企画です。『神罰1.1』はどうにか訴えられずに、好評発売中です。