マンガで職業探訪 第2回「雑誌編集者」
週刊「JIDAI」編集部 松方弘子様
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
安野モヨコさんのマンガ『働きマン』の中に描かれている松方さんの働きぶりを、涙を堪えながら読ませていただきました。何を隠そう、この原稿を書いている私自身が雑誌の編集者。同業として身につまされる描写が続出し、共感→没頭→動揺 へと至り……。本来は、マンガを通して知られざる職業の実態を紹介することが、この連載「マンガで職業探訪」の主旨ですが、こうして手紙の体裁を取ることで冷静さを保っている次第です。
60万部を発行する週刊「JIDAI」編集部で働かれている28歳(元巨乳)の松方さん。編集部のエース記者として日々の仕事に邁進され、スクープを取れば「仕事モードオン!!」となって、他を寄せ付けない集中力を発揮。メイクも落とさず会社に寝泊まりする姿に、思わず今の自分(31歳・匿名希望)を重ねてしまいました。
世間一般のイメージと違わず、編集者とは過酷な仕事だと思います。締め切りに追われ、昼夜問わず働きづめ……。自分も松方さんと同じように、「正直しんどい」、そして何度も「やめよう」と思いました。
でも、『働きマン』を読んで気づいたのです。「嗚呼、大変なのは編集者だけじゃない。働くということは、どんな人にとっても大変なのだ」と。そう、『働きマン』は、すべての働く人に贈る“仕事論マンガ”なのですね!
自分が一番心を打たれたのは第2巻、書籍販売部の営業マン・千葉さんのエピソードです。
千葉さんの仕事は、本を作ることではなく “売る”ことです。書店を一軒一軒訪ね、自社の本を入荷してもらえるように店主に働きかけます。本が書店の棚に平積みで陳列されたり、特設コーナーが設けられたりするのも、すべて千葉さんのような営業マンの努力の賜物なのです。
しかし、千葉さんはあるときから“本に思い入れを持つこと”をやめました。努力して営業をかけた本が売れたとき、その著者に感謝の言葉すら述べてもらえなかったからです。自分はどうせ黒子なんだ、評価されないんだ。どんなに頑張っても、頑張らない奴と給料は一緒。だったら淡々と仕事をこなしていこう……。
そんな彼を変えたのが松方さんでした。松方さんは、自分が売りたいと思った本を千葉さんに猛プッシュします。
当初は醒めていた千葉さんも、彼女の熱意にほだされ、かつて思い入れを持って仕事をしていた頃の自分を取り戻していきます。そして、千葉さんは上層部と粘り強くかけ合って初版部数の増加を取り付け、本は大ヒット!
千葉さんが著者に感謝の言葉をかけてもらったシーンでは、読んでいるこちらも号泣でした……。
そう、編集者であろうと営業マンであろうと、人を動かすのはいつだって熱意です、愛なんです! そして、誰だって自分の仕事を、いや、自分という存在を認めてほしいと願って働いています。『働きマン』には、そんな仕事の真理が詰まっているのです。
「自分はなんのために働いているんだろう?」「仕事なんてもうイヤだ! 辞めてやる!!」……そう思ったときに読み返したい、「仕事モードオン!!」のスイッチを入れてくれる座右の書として、終生大切にさせていただきます。
敬具
『働きマン』 安野モヨコ / 講談社