攻撃力皆無な逆境からのスタート『盾の勇者の成り上がり』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー
こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。今回は、KADOKAWA「コミックフラッパー」で連載中の漫画『盾の勇者の成り上がり』をレビューします。原作小説はアネコユサギさんで、「小説家になろう」での連載から2013年にMFブックスで書籍化されています。キャラクター原案は弥南(みなみ)せいらさん。コミカライズ担当は藍屋球(あいや・きゅう)さん。本稿執筆時点で単行本は11巻まで刊行中で、テレビアニメ化企画も進行中。異世界に勇者として召喚された主人公がいきなり罠に嵌められ、どん底スタートから這い上がっていくさまを描いた作品です。
『盾の勇者の成り上がり』 1~11巻 藍屋球・アネコユサギ・弥南せいら / KADOKAWA / メディアファクトリー
主人公は異世界召喚された四聖勇者の1人、なのに
本作の主人公は岩谷尚史(ナオフミ)、ただのオタクな大学生です。ある日、図書館で見つけた『四聖武器所』という古い本を読むと、いきなりファンタジー世界風の異世界へ召喚されます。なぜか盾を装備している状態のナオフミは、同時に召喚された剣の勇者、弓の勇者、槍の勇者とともに、「古(いにしえ)の四聖勇者様」と呼びかけられます。次元の亀裂「波」から大量に這い出てくる凶悪な魔物から、世界を救済して欲しいと請われるのです。
舞台の設定に高揚するナオフミ。視界の端にアイコンがあり、意識を集中させるとステータスウィンドウが開くという、ほとんどゲームのような状況です。ナオフミ以外の勇者はみんな、召喚前に現世でこの世界とよく似たロールプレイングゲームを遊んだことがある様子。ナオフミだけが、こんな世界観のゲームは知らないと不思議がります。
国王から、伝説の武器は勇者自ら育てなければならないが、別の武器の近くにいると反発して成長が阻害されると説明され、別々にパーティーを組むことになった四聖勇者。ところが、なぜかナオフミだけ
「盾の勇者には人望がない」
などと、意味のわからない疎まれ方をします。他の勇者からも、盾は負け組とか、勇者向きじゃないとか、さんざんな言われようです。
ナオフミと旅する希望する者もいない……と思いきや、1人の女性が
「いくらなんでも一人は可哀想ですもの…!」
と同行してくれることに。ところがこれは、みごとな罠。まったく身に覚えのない強姦容疑で、身ぐるみ剥がされ無一文で城外に放り出されてしまうのです。あらぬ噂を流され白い目で見られるナオフミの心は荒んでいきます。
そしてなんと四聖勇者は「伝説の武器」以外を戦闘の意思を持って使用できない規約になっており、ナオフミは異世界でたった1人、なぜか武器扱いの盾だけで戦わねばならない状況へいきなり追い込まれてしまうのです。
防御力は高いが攻撃力がほとんどない勇者
盾の効果で防御力が高いため、弱い魔物であれば集団に襲われてもノーダメージ。ところが攻撃力がほとんどないため、弱い魔物でも素手で半日殴り続けてようやく倒せて、経験値は1……。尚史じゃなくても「どんなクソゲーだよ!!」と叫びたくなる、あまりに過酷な初期状態です。
ところが、盾にアイテムを吸わせると成長することや、奴隷商から買った亜人の女の子・ラフタリアに戦闘をさせることによって経験値のパーティー分配が得られることに気づいたナオフミは、徐々に逆境を跳ね返していきます。とくに盾はどんどん成長し、いろんな効果を発揮するようになるのです。さすが伝説の武器。武器?
以前、あるMMORPG(多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)で、優れた聖職者になるためにはひたすら知性のステータスを上げる必要があり、攻撃力がほとんど皆無な低レベルのあいだは弱い魔物を素手で殴り続けて1、1、1、1、1、1……というダメージ表示を見て楽しんでいたことを思い出しました。
そのゲームも、パーティーが組めるようになると仲間が倒した経験値分配により、攻撃力ほとんど皆無な支援職でもラクにレベルアップが図れるようになった記憶があります。そんなゲーム世界の設定や仕様に影響を受けたのかな? と、少し懐かしい気持ちになりました。実は、主人公の異様な初期設定を除くと、結構王道な成長譚だったりします。ファンタジー世界やロールプレイングゲームが好きな方にオススメの作品です。
『盾の勇者の成り上がり』 1~11巻 藍屋球・アネコユサギ・弥南せいら / KADOKAWA / メディアファクトリー