旨い料理はみんなを笑顔に『異世界居酒屋「のぶ」』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー
こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。今回は、KADOKAWA「ヤングエース」で連載中の漫画『異世界居酒屋「のぶ」』をレビューします。元は投稿サイト「小説家になろう」での連載小説で、著者は蝉川夏哉(せみかわ・なつや)さん。第2回「なろうコン大賞」を受賞し、宝島社から単行本・文庫版が刊行されています(残念ながら電子版は未配信)。キャラクター原案は転(くるり)さん。ヤングエース版のコミカライズは、ヴァージニア二等兵さんの担当です。本稿執筆時点で5巻まで刊行中。ぐるなび×サンライズで2018年のアニメ化が発表されています。なぜか入り口が異世界と繋がってしまった居酒屋を主な舞台とした、旨い料理が人を繋ぐ作品です。
■ 原作公式サイト
なぜか入り口だけ異世界に繋がった京都の居酒屋
この居酒屋「のぶ」は、本来なら京都の寂れた通りにある店なのですが、なぜか正面入り口が異世界・帝国領の古都アイテーリアに繋がっています。つまりお客はほぼ全員、異世界の住人。ちなみに裏口は京都のままなので、仕入れなどはふつうに京都で行えます。大将・矢澤信之と、看板娘・千家しのぶの2人で切り盛りしているお店です。
“異世界”といっても、本作に魔法や亜人・モンスターなどは登場しません(5巻までの時点)。食材に関しても、呼称が異なるだけでほぼ同じものが存在しているようです。王や貴族や衛兵、教会や商会などのある、中世ヨーロッパ風世界。テクノロジーは未発達なため、物流や食料の保管などには当然難があります。
つまり、京都でふつうに仕入れができるお店がテクノロジーの未発達な世界に現れ、ふつうの料理を出しているのに現地の人に驚かれ喜ばれる、というのがこの物語の基本ストーリーです。多くの場合、1話完結型になっています。なお、空に月が2つあることから、過去の地球ではないことも示されています。
旨い料理や飲み物はみんなを笑顔にする
たとえば、新鮮な海の魚を刺身で食べるのは、現代の日本なら冷蔵・冷凍技術やトラック・電車といった高速物流手段によって、内陸でも可能です。そんな、私たちにとっては当たり前になってしまったことが、テクノロジーの発達していない世界ではどれだけ困難なことか。冷えた生ビールをガラスのジョッキで出す、たったそれだけのことがアイテーリアの住人にとっては驚くべきことなのです。
ふつうの居酒屋で出されるありふれた料理なのに、みんな実に旨そうに食べる! 飲む! 食べる! 飲む! 旨い料理や飲み物はみんなを笑顔にします。みんなの笑顔を見て、
「昼間に色々大変なことがあっても 夜ここで美味しいものを食べて お客さんが幸せそうな顔をしてくれる これってとてもいいことだなぁって」
と、大将・矢澤も笑顔です。
旨い料理は問題だって吹き飛ばす
そんな「のぶ」にも、トラブルは起きます。泥棒が入ったり、貴族にイチャモンを付けられたり、店で行われた商会のトップ会談が険悪なムードになったり、生ビールが禁制品のラガーと疑われたり。でもご安心を。ご想像通り、美味しい料理はほとんどの問題を吹き飛ばしてしまいます。「のぶ」に惚れ込んだ常連客たちが、助けてくれたりもします。そうやってまた、みんなが笑顔に戻ります。そんな、ホッとする、読んでいる側も笑顔になれる物語です。ああ、お腹が空いた。