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運命に死で抗う『Re:ゼロから始める異世界生活』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は『Re:ゼロから始める異世界生活』をレビューします。通称「リゼロ」と呼ばれている本作、原作は小説投稿サイト「小説家になろう」の連載から、MF文庫Jでの書籍化を果たした長月達平さん(ウェブ連載時のペンネームは鼠色猫さん)。キャラクター原案は大塚真一郎さん。そしてコミカライズは、「第一章 王都の一日編」「第三章 Truth of Zero」がマツセダイチさん、「第二章 屋敷の一週間編」が楓月誠さんです。本稿執筆時点ではテレビアニメも放映中です。

Re:ゼロから始める異世界生活 第一章 王都の一日編1

『Re:ゼロから始める異世界生活 第一章 王都の一日編』 1~2巻 マツセダイチ・長月達平・大塚真一郎 / KADOKAWA / メディアファクトリー

平凡な主人公が突然異世界に召喚され……?

本作は、ずばりタイトルで示されているように「異世界召喚もの」です。平凡な主人公が、突然現代社会から異世界に召喚され活躍する、というタイプの作品。「小説家になろう」の人気ジャンルですが、同じ「異世界召喚もの」と言っても非常にさまざまなバリエーションがあり、奥が深いです。ファンからは親しみを込めて「なろう系」と呼ばれています。

本作の主人公で高校3年生(不登校気味)の菜月昴(ナツキ・スバル)は、近所のコンビニで買い物をした帰りに、何の前触れもなくいきなり中世ヨーロッパ風の異世界へ放り込まれます。亜人が街を闊歩し、地竜が荷車を引く見慣れぬ光景。スバルが「これは異世界召喚ものだ」と早々に察知してしまうあたりは、アニメやゲームなどで現代っ子にはお馴染みの世界観なので、お約束といったところでしょうか。

もっとも、チンピラたちに囲まれ「強制イベント発生だ!」「異世界に招かれた人間は超常の力を発揮するのがお約束」などと考えてしまうあたり、スバルはフィクションと現実の区別がついていないというか、現実逃避してしまっている感があります。いや、まあ、フィクションなんですけどね。

無力で無知で無能、唯一の能力は「死に戻り」

チンピラたちに殴りかかり、あっけなく返り討ちにされるスバル。そこへ精霊術師のヒロインが偶然現れ、彼を救います。お礼に、ヒロインが盗まれた徽章を探す手伝いをしますが、戦う力もなく、知識もなく、能力もない、ないない尽くしのスバル。むしろ邪魔? それでもやっとのことで、徽章が持ち込まれた盗品蔵にたどり着いたと思ったら、いきなり殺されてしまうのです。なんという無情な世界。

と、ここで発揮されるのが、スバルの唯一と言っていい能力「死に戻り」です。自らの死をトリガーとして発動する、特定ポイントまでのタイムリープ。スバルには死ぬ前の記憶が残っているので、前回の失敗を踏まえて再チャレンジできるのですが、人間関係もゼロからやり直し。ある意味、未来を知っているのとほぼ同義なのですが、スバルは無力で無知で無能なので、何度も失敗を繰り返すことになるのです。

立ち位置としては、ロールプレイングゲームの主人公ではなく、その主人公を操作しているプレイヤー自身のほうが近いかもしれません。死んでセーブポイントまで戻ると、周囲のみんなは誰もそれまでのことを覚えておらず、同じようなリアクション、似たようなハプニングが繰り返されます。実際に体験したら、頭がおかしくなりそうです。

何度死んでも慣れることはない

腹を切り裂かれたり、背中から刺されたり。死に戻りを繰り返すスバルは、毎回発生するイベントと、そうじゃないイベントがあることに気づきます。これがただのゲームなら、トライ&エラーを繰り返す手もあるでしょう。しかし、死なないと発動しない能力なので、毎回とてつもない痛みや苦しみを伴います。また、もしかしたら残機ゼロで次はもうないかもという恐怖もあります。

結局、何度死んでも慣れることはないし、最後まで全力で足掻くしかないと開き直るスバル。無力で無知で無能な上に、無鉄砲で無茶苦茶で無神経な男ですが、さまざまな偶然や出会いに助けられ、なんとか最初の関門「腸狩り」を突破します。もちろんこれでハッピーエンドとはいかず、深手を負ったスバルはヒロインの住む屋敷へと運び込まれるのです。

ここまでの、異世界へ召喚された初日の騒動を描いたのが、コミカライズの「第一章 王都の一日編」。ヒロインの住む屋敷で起こる騒動を描いたのが「第二章 屋敷の一週間編」。そして、王選のため再び王都を訪れ、一気に登場人物が増え大騒動になるのが「第三章 Truth of Zero」です。MF文庫J版をかなり忠実になぞっており、ホップ、ステップ、ジャンプ! みたいな感じで一気に盛り上がっていきます。コミックでは第二章も第三章もまだ終わっていないので、先が楽しみです。

「死ぬのなんか本当に人生の最後に一回だけでいい」

と言いながら結局、死ぬことによって運命に抗うわけなのですが。「何度も死ぬ」という希有な経験を重ねている男だからこそ吐けるセリフではないでしょうか。ほとんどの場面は格好悪いけど、ごくまれにカッコイイ男、それが主人公・スバルです。なんでもできちゃう完璧な奴より、親しみやすいのかも?

書籍化後も「小説家になろう」に掲載中!

なお、本作は元々「小説家になろう」への投稿小説が原作ですが、MF文庫Jで書籍化された後も「WEB版の削除・ダイジェスト化・更新停止といったことは今後も予定されておりません」と宣言されています。そのため現時点でも「小説家になろう」では第六章までの全文を読むことができます。もっとも、書籍化する際には、かなり改稿しているようです。どこに違いがあるのか、比較してみるのもいいかもしれません。

Re:ゼロから始める異世界生活 第一章 王都の一日編1

『Re:ゼロから始める異世界生活 第一章 王都の一日編』を試し読みする

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