全巻読んでのネタバレ感想。
あだち充の作品は、いくつかのパターンに当てはまる。
まずは、野球漫画か否か。
前者はナイン、タッチ、H2、クロスゲーム、MIXなど、いわゆる代表作と言われるものが多い。
実際に読んでみても、安心感・安定感がある一方で、パターンはかなり限られる。
後者はみ
...続きを読むゆき、ラフ、スローステップ、いつも美空など。
王道ではないが、いつもとは毛色が異なり名作も多い。
本作はボクシングマンガであり、後者にあたる。
ボクシングはタッチの頃からもちょくちょく出てきているが、ここまで前面に押し出したのはスローステップと本作くらいだろう。
また、あだち充作品のヒロインは正統派「理想の彼女系」(タッチ、H2、MIX等)と「ツンデレ系」(ラフ、クロスゲーム等)に分かれるが、本作のヒロインはどちらとも違う。
やや男っぽく、主人公を最後まで呼び捨てにする点や、後半は主人公に近づく他の女性に嫉妬を見せる点など、他の作品には無く非常に新鮮。
主人公も含め、全体的に恋愛を「微妙なニュアンス」で語るあだち作品では珍しく、お互い早い段階で気持ちを告白し合っているのも興味深い。
一方で、マイナス点がいろいろ目立つのも本作の特徴。
紀本の退場はやはり早すぎで、最後には存在すら忘れ去られてしまっている。
川上京太も同様で、インターハイで準優勝したと語られた後は、たまに登場するだけ。
中盤以降存在感を出していた内田仁も、結局ストーリー上のダシに使われて退場。
女性キャラも、半沢みのりがフェードアウトし、南条理子は遅すぎる登場や年齢設定の面で弱く、キャラを活かし切ったとは言いづらい。
中盤以降に絶対的ライバルとなる岬新一にしても、いつの間にか香月に惚れまくっており、後半はライバルと言いつつも盛り上げ役のような存在になってしまっていた。
全体的なストーリーも、高2のインターハイがピークで、その後はグダグダした流れの末に高3期は最終回のナレーションのみ。
特に最終巻の構成は駆け足過ぎる。
本作の連載が少年サンデーの2005年2月頭までで、GW前には同誌で次回作「クロスゲーム」の連載が始まっている事を考えると、展開に煮詰まった末の打ち切り&安定の野球もので再スタートという感が否めない。
新鮮ではあるが、色々「惜しい」作品。