『敵が見下したような笑みを唇の端っこに貼りつけた。くやしい。でも、その笑みを奪い取る方法を、わたしは知らない。』
『神様なんていない。サンタだっていない。奇跡だって起きない。分かってる。わたしはもう16歳なんだから。』
『店内に入ってすぐ、膨大な数のCDをまえにして途方に暮れてしまった。選択肢が
...続きを読む多過ぎるのだ。わたしが求めてる答えはひとつかふたつなのに。』
『泣きたい、なんて思ってないのに、目から涙がこぼれ落ちた。絶望と涙腺は直結しているのかもしれない。』
『あの連中なら、きっと守ってくれる ー それは、数式とか文法とか公式とか理論とか、そういったものに決して当てはめられない本能的な確信だった。』
『「顔色が悪いんですけど、だいじょうぶですか?」たとえ顔が緑色になっていようと、だいじょうぶと答えるつもりだった。』
『あんたのせいでクラスでシカトされてるのよ』
『おまえがクラスの連中をシカトしてやれよ』
『当たり前のことをやってるうちは、真実には近付けないよ。絶対に』
『おまえ、「ゴッドファーザー」のパート2を観たことある?』
『「ゴッドファーザー」って名前は聞いたことあるけど』
『主人公のセリフで、こんなのがあるんだ。「この世界で確かなことがひとつある。歴史もそれを証明してる。人は、殺せる」』
『で?』
『この世界で確かなことがひとつある。歴史もそれを証明してる ー 女は、オトせる』
『アギーはどうして欲しい?』
『俺がどうしたいかじゃなくて、おまえがどうしたいかだ。自分から逃げようとするな』
『あんたたちとおんなじ。停学』
『なんだよ、そんなことか ー 学校公認でさぼれるんだぜ。よかったじゃないか』
『パンチでもキックでもいいから、身を護る方法を教えて ー 自分の身は自分で護りたいのよ』
『当分のあいだは頭で納得できても心が納得しなかったら、とりあえず闘ってみろよ。こんなもんか、なんて思って闘いから降りちまうのは、ババアになってからでいいじゃねぇか』
『とにかく、俺は自分の頭で考えて、目で確かめて、まえに進んだんだ。ほかの車にぶつかる可能性も、人を轢く可能性もないと思ったからな。でも、たいていの奴はあの場面でも信号が青になるまで待つだろう。それが世間にまかりとおってる常識だし、百パーセントの安全が確保できるし、それに、誰かに信号無視を見られて避難されることもないだろうしな。要は、信号が変わるまで待ってるほうが、めんどくさくなくて楽なんだよ』
『俺たちを動けないように縛ってるのは信号機じゃなくて、目に見えないもんなんだよ。中川はその操作の方法がうまいんだろ、きっと。でも、俺とか南方もか舜臣とか萱野とか山下は、自分たちの目と頭が正しいって判断したら、赤信号でも渡るよ。で、おまえはどうするよ?』
『跳躍は、自分がいる場所から出ていきたいって象徴なんだよ。』
『バレエのジュテもおんなじだよ。むかしのヨーロッパはしゃれになんないぐらいの階級社会だったからな。伝統とか因習とか習慣とか、そんな自分たちを縛りつけてるもんを重力に見立てて、バレエダンサーがそれに逆らってどれだけ高く飛べるかを観て観客は感動してたんだ ー 』
『なんか大学が最低の場所に思えてきた』
『なんで? ー 俺たちのまわりでいつでも起こってるようなことが、大学っていう狭い場所でも起こってるだけのことだろ。人が集まるところで起こることなんて、そんなにヴァリエーションがあるわけないよ』
『そこから逃げてもいいし ー 逃げるのも楽しいよー。とにかく、俺たちは自分で思ってるよりかなり自由なんだぜ』
『…要は、赤信号では停まるなって話でしょ?』
『なにそれ? 赤信号は危ないから停まったほうがいいよ』
『学校を退学になろうと、警察に捕まろうと、自分が始めたことをきちんと終わらせるのだ。明日から先のことは、明日の夜の眠るまえに考えればいい。とにかく、わたしは生まれて初めて赤信号を渡るのだ。』