松浦寿輝のレビュー一覧

  • 人外
    「人外(にんがい)」(松浦寿輝)を読んだ。
    
面白い!
    
アラカシの枝の股から滲みだした(神ともけだものともつかない)「それ」が、(何故か過去の記憶に囚われ)探し求める「かれ」とはたして出会えるのかどうか。
    
そして「世界」は滅びようとしている。
    
少し難解なところもあるけれどしだいに物語に惹きつけ...続きを読む
  • 半島
    中年期の寓話。15年ぶり再読。主人公と同じく中年になったからこそわかる部分あり。様々なからくりのある島の描写が魅力的。仮初か現実か、桃源郷か現実世界か、どちらか一方を選んで終わらないのがもどかしくもあり、可笑しくもあり。
  • わたしが行ったさびしい町
    村上春樹ライブラリー階段の本棚にあったのをパラパラめくり、ぜひ読もうと思った一冊。
    名著『名誉と恍惚』の作者による、紀行文…なのかな。

    旅の本が好きなのだが、この本は単なる町の風景や出来事の描写だけでなく、様々な思索やよしなしごと(と本人は仰るだろう)が織り交ぜられた文章が魅力である。

    一番行っ...続きを読む
  • わたしが行ったさびしい町
    おそらく、旅に関するエッセイとしては極上の部類に入るのではないか。その旅の細部はほとんど忘れてしまっても、その中でくっきりと記憶に留まっている事柄の記述は、読者があたかも追体験するような錯覚を起こさせる。
  • 月岡草飛の謎
    『鴉はその恐ろしい国から俳人のところへやって来た、お迎えの使者、死出の旅路の先導役、まあそういった見立てになろうか。しかしそんなふうに話の筋を通してしまうと、たちまち理に落ちた凡句になってしまうなと月岡は苦笑した』―『人類存続研究所の謎 あるいは動物への生成変化によってホモ・サピエンスははたして幸福...続きを読む
  • 人外
    読んでいて、小説ではない一つの世界を紐解いている感覚。
    極端に句点の少ない長文がだんだんと心地良く、ずっと読んでいたいけれども、世界はうつろい、物語も終焉を迎える。
    らせんと円、私・わたしたちと彼、存在と不在、意識と世界。
    これから何度も読み続けたい。
  • 名誉と恍惚
    好き。
    大傑作。


    芹沢一郎。


    心理描写が丁寧で、
    「彼の気持はあたしの気持」
    っつーくらい入り込んでくる。

    丁寧に読めたと思う。


    うちの家族全員が、読書しているあたしに向かって、
    「それ辞書?」
    と聞いてきたのも良い思い出。
  • 名誉と恍惚
    まあすごい大作です。
    長い小説はその世界観にどっぷり浸かれるかどうかが、読み疲れるかどうかの瀬戸際だが、これはもう上海の雰囲気、匂いまでが伝わってくるのがすごい。
    心理描写や独白はクドイと思われる向きもあるかと思いますが、これらの多用によって夢かうつつかの戦争のなかの混沌というイメージをうまく表現し...続きを読む
  • BB/PP
    好き嫌いがはっきりわかれるだろう、この短編集は。スノッブって言ってしまったらみもふたもないかもしれない。
    でも、年を重ねて過去の記憶と向き合うことって、たとえばあの頃は良かったって思うのはやっぱり、人生は綺麗なだけじゃないし、本当のことは誰にも見えないんだよなっていうことをすごく考えることにつながっ...続きを読む
  • BB/PP
    『人間って、結局、自分の身の丈相応でしか他人を判断できないんだよね』―『ミステリオーソ』

    例えば村上春樹の小説によく登場する暗い穴。作家はその底をよくよく覗き込んで人の奥底に潜む凶暴な人格を暴き出そうとする。しかし村上春樹の小説で描かれるそれは、所詮(と言ってよければ)カエルくんによって元の暗い地...続きを読む
  • 名誉と恍惚
    権力の中枢にいる者が民間の一事業主に便宜を図る引き換えに何かをさせようと思えば、誰か連絡を取る者が必要となる。下っ端の公務員なら、いざとなれば切り捨てることができるので好都合だ。しかも、真の意図は隠し、国のためを思ってやることだと言い含めて疑念をそらす。ことが露見すれば、上に立つ者は白を切り、実際に...続きを読む
  • 黄昏客思
    『皆がその死を悼んで集まってきているその家のあるじは、いま無責任な客のような顔をして無聊を託(かこ)っている、この俺自身なのではないか』―『主客消失』

    定義付けのされた言葉が多く並ぶ。それ故に文章の意味するところは、多少意図的な飛躍はあるものの、論理的である。著者の小説にはない角張った音がする。と...続きを読む
  • 松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙
    芭蕉、蕪村、一茶、余りに有名かつ定番の俳人であるが、本格的に比較して鑑賞したのは恥ずかしながら初めてであった。
    中でも、蕪村は他の2名と比べて写実的、と云われていると思うのだが、どうしてどうして非常に心理描写を巧みに取り入れた作品が多く、あらためて感銘を受けた次第である。俳諧というものは、素人の私が...続きを読む
  • 男性作家が選ぶ太宰治
    さすがは並みいる男性作家が選んだ作品集である。全部面白い。
    「ちょっとちょっと…」と傍で話しかけられるような親しげな語り口と
    抜群のリズム感が心地いい。特に気に入ったものを少し…。

    「道化の華」
    ラスト3行でいきなり視界がぱあっと広がり、ぞくっと怖くなる。
    視点のトリックで読者を驚かせるのが上手い...続きを読む
  • 明治の表象空間
    萩原朔太郎の詩が好きで、『月に吠える』『青猫』と読み進み、その口語自由詩のたたえるリズムに心地よく酔いしれていたら、突然、『氷島』の詰屈な文語調にぶつかり、いったい朔太郎はどうなってしまったのだろう、などと不審に思いながらも、その独特の韻律に、やはり心を揺さぶられ、序詩「漂泊者の歌」一篇は、当時大学...続きを読む
  • あやめ 鰈 ひかがみ
    推敲してるんだろうけど、「うまいこと言ってやろう」みたいな変な気負いが感じられず、非常に自然で綺麗な文章。尊敬する。
  • 香港陥落
    本編のスピンオフの話しだと思いながら読んだけど、違うの??
    登場人物の輪郭が望洋としててそれがいい。
    しかもそれぞれのキャラ立ちがよくて、この人についてもっと知りたいのに、とウズウズする。(のでスピンオフかと思った。)

    夜の香港に旅した気分なれる。
  • 名誉と恍惚
    「名誉と恍惚」(松浦寿輝)を読んだ。
上海の共同租界行政府である工部局の警察官芹沢の半世紀に及ぶ人生の軌跡と辿り着いた場所での充溢した魂の咆哮。
760頁の傑作長編。
これはまさにハードボイルドだわ。
    
『深い、強い、痛切な喪失感。取り返しのつかない何かを失い、その悲嘆を耐え、耐えることに疲労しきっ...続きを読む
  • 香港陥落
    中国人、イギリス人、日本人の目線で書いた第二次大戦前後の小説だが、個人的には香港で生まれ育った香港人の視点も加えて欲しかった。まあ、小説だし、作者が日本人だから仕方ないとしても、香港の現状を考えると、香港人目線で、祖国とは何かというテーマがあれば、なお面白いと感じた。
  • 人外
    カワウソのような人外が、人間以上に意識を持って終末の世界を横断して行く。

    何とも不思議で美しくて難しい本。
    小説というより、詩を読んでる感じだった。