とても好き。特に後半、既存の価値観と闘いながら、自分なりの社会との向き合い方を模索し続けるかず子、直治、上原の姿が。私も私なりに闘っているから。
お母様は滅びゆくものの象徴。ルイ朝の貴婦人のような、子供のような、ただ上品なだけでなにもできないお母様。戦前の時代が求める貴族の女性の条件を完璧に満たし
...続きを読むていたお母様。
戦前的価値観がお母様と共に滅びゆく様を目の当たりにするかず子。経済的困窮のなかで生き続けるためは自分の中に革命を起こす必要があると考えた。革命とは、これまで築いてきた自分の中のものの見方や価値観を全く新しいものにすること。それはお母様を失うことでもあり、恐ろしくもあるけれど、それでもかず子は生きることを諦めきれず革命を起こすことを選択した。そのための原動力としてかず子は恋を利用することにした、という話だと思う。お母様のような女大学的価値観から抜け出して、新たな価値観で生きるこもを決心するかず子。強いなあ。
直治は、遺書のところでようやく彼の人となりを少し理解できた。僕は貴族です、と書いて遺書を終わらせていた。自己受容をできなかったことが彼の不幸の源泉だと思う。生まれに抗い続けながら生きてきた直治は直前にそれを認めて死んでいった。お母様と同じく貴族として死ぬことを選んで、後悔はないだろうなと思った。てか世の中自省しないせいか理解に苦しむ人種いるのわかる〜(共感)。
上原は、虚無を抱えながら生きている。直治は積極的に死ななければいけなかったのに対し、酒を飲みながら緩やかに自殺をしている。そうして不道徳に生きていることが彼なりの社会への反抗なのだろう。反抗せずに生きていけないのだろう。
ところでかず子は、上原にキスをされて身軽になったと書いていた。罪を背負っても「私たちはただ生きていればいいのよ」というリアリストなヴィヨンの妻を思い出した。リアリストとロマンチストの対比が太宰の普遍的なテーマなのだろうか。
太宰おもしれ〜〜文章うま!人間の解像度高すぎて登場人物全員生きてる!言語化うま!パンチラインありすぎ!というのがようやくわかってきてとても楽しい。