こんぺいとうさんのレビュー一覧
-
購入済み
ブッダの生涯を記しながら、それだけでなくブッダの教えを主要仏典を紐解きながら紹介しています。どちらかと言うと仏典紹介とその内容解説がメインなので、ブッダの生涯よりもブッダの教え(「仏教の教え」というかは、それらが仏教として成立する以前のブッダの教えといった方がいいのかなと思いました)に主眼が置かれています。
煩悩を無くし悟りを開くという静かな宗教というイメージがありましたが(仏教文化の色濃い日本で生まれ育ってこんな程度の認識しかなくて恥ずかしいですが)、むしろ涅槃に達し楽しく生きることを説いているという点が大切なんですね。
面白く心に残る名著かと思います。 -
購入済み
2000年代頃はまだ経済的に日本の方が強かったので中国との対立といってもどことなくヘラヘラしたようなところがあった気がするが、2010年代の後半あたりから中国がアメリカにも対応しうる大国に成長し、対中関係の緊張感が格段に上がった気がする。
香港のこととコロナを経て今の日本人の中国に対する警戒感は凄まじく高いが、今後もずっと中国が膨張政策を取ることはないと著者は言う。膨張政策を取らないというか取れなくなっていくようだ。
文革時代の革命の嵐から改革開放時代の拝金主義まで中国はドラスティックに変化する国でもある。今の習近平政権下の中国の左傾化・保守化も下の世代に渡ればまた右傾化・自由化の揺り戻しが起 -
購入済み
古代の諸子百家や朱子学などなら日本人にも馴染みがあると思うが(近代の胡適もか?)、本書では1949以降の新儒家の思想にも触れられている点が興味深い。一般書でこの部分に触れている書籍ってあまりないのではないかな。
本書は章分けが非常に多い(21章!)ですが、それだけ中国哲学の「流れ」を重視しているということかと思います。長大な中国史ですから、やはりそれくらいは必要になるのだろうと。それゆえに例えば孔子のような中国思想史上の大人物に割かれるページも必ずしも多くはありません(重要でないという意味ではありません)。
重要度を増す現代の中国を捉える意味でもぜひ手にとってみてください -
購入済み
「ナショナリズム」は西洋由来の概念で日本語では「民族主義」と訳されることが一般的だが、「民族」は英語で言えばどちらかと言えば「エスニシティ」の方が近い。例えばアメリカ人がオリンピックなどで”USA! USA!”などと連呼するがアメリカのような多民族国家のナショナリズムを「民族主義」という言葉で訳するのは違和感を持たれることかと思う。「ネーション」にしっくり当てはまる日本語は実は無いのだが(個人的には「民族」よりは「国民」のほうが近いと思うが)、日本人はその辺りが無自覚だ。
本書は「ネーションは透明な空っぽの袋」という表現している箇所があります。まさにその通りで「ナショナリズム」の中身は多種多様 -
-
購入済み
宋代と清末の二つの時代がそれぞれ「中国意識」と「現代中国」の形成に大きな影響力を持っていたことが分かる。中国は統一と崩壊と内乱を繰り返しているだけで発展していないとする見方をとる人も多いが、漢唐の時代と宋では質的に全く異なる「中国」が誕生していたようだ。しかし話はそこで終わらず、宋の後には元や清といった異民族王朝が漢人の居住範囲を遥かに超える大帝国を作り出す。これが現代中国の内部に民族問題を生み出すきっかけになった。
清末には満蒙回蔵などは放っておいて漢族だけの中国を打ち立てる向きもあったようだが、それは清朝の国土の分裂を意味し、結局新生の中華民国は清朝の版図を基本的には受け継いでいる。民国時 -
購入済み
都会で暮らす平凡なサラリーマンがあることをきっかけになんだかよくわからない茫漠とした世界に入り込んでしまう。そんな基本構図はその後の村上春樹の小説の原型になっているのだろう。全作品を読んでいるわけではないけれど、『羊』がやっぱり一番好きな小説だなと感じる。
北海道という土地の持つ欺瞞・因縁とそこから見る日本の近代という時代、戦後日本ののっぺりとしたノンポリ気質、などなど、村上春樹がそういったことをどこまで意識しているのかは知らないけれど、読む度にそんなこの小説の持つ政治性について考えさせられる。
個人的に北海道に舞台を移す下巻からが特に好きだ。札幌に旅行に行きたくなる。
鼠と主人公の友情、と -
購入済み
副題から分かるように全ての短編に音楽の要素が出てきますが、もうひとつの「夕暮れ」はどういうことだろうと思いながら読んでいました。訳者あとがきにも書かれていましたが、音楽以外にももうひとつ男女関係・夫婦関係の危機というモチーフも全ての短編に共通しています。登場人物皆もう若くなく、ある人は結婚した時の状況とはお互いの関係や自分の感情や人生に求めるものが変わっていたり…。こういう人生の盛りを過ぎてそれでも残りの人生を生きていく人々を「夕暮れ」という言葉で表現しているのでしょうかね。思えば『日の名残り』もそのような意味合いでしたか。
ひとつひとつ心にしんみりとした感覚を残す短編でおすすめです。 -