ほとばしる情熱を漫画にぶつけろ!『アオイホノオ』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー
こんにちは、鷹野凌です。今回は小学館「ゲッサン」で連載中の漫画『アオイホノオ』をレビューします。著者は島本和彦さん。マンガ家を目指している熱血大学生のほとばしる情熱をコミカルに描いた、島本さんの自伝的な作品です。本稿執筆時点で、コミックスは第20巻まで発売中。2014年には、第18回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で優秀賞を受賞。テレビドラマにもなっています。
『アオイホノオ』作品紹介
『アオイホノオ』 1~20巻 島本和彦 / 小学館
この物語は自伝的だがフィクションである
本作の舞台は、1980年代初頭の大阪。主人公の焔燃(ホノオ・モユル)は大作家(おおさっか)芸術大学映像計画学科の1回生で、TVや映像、アニメの講義を受けながら、近い将来ひとかどの漫画家になってやる! とひそかにもくろんでいる18才です。ちなみに島本さんは、大阪芸術大学の出身。作中に登場する「クリエイティヴな若者たち」はきっと、学生時代の島本さんの周囲に大勢いたのでしょう。
その中には、のちにアニメ「エヴァンゲリオン」や映画「シン・ゴジラ」の監督となった、庵野秀明さんもいます。いきなり同級生の首を絞め「ショッカーの基地はどこだ!?」と叫ぶような奇行に走る庵野さんの姿は、安野モヨコさんの『監督不行届』に出てくるカントクくん(庵野さん)が、若いころはこんなだったのかな……と思わされます。
ただ、『アオイホノオ』は毎巻冒頭で、「この物語はフィクションである」と巨大な文字で強調している点に注意が必要です。もしかしたら、もっとすごかったのかも? なお、島本さんと庵野さんは大学で同期だったそうです。『アオイホノオ』1巻の最後には、特別対談も載っています。
根拠のない自信は、現実の壁にぶち当たると崩れる
「週刊少年サンデー」を読みながら
「漫画業界全体が甘くなってきている!」
とつぶやく焔。彼は、いまならいつでもプロの漫画家になれると、まったく根拠のない自信に満ちあふれているのです。ところが彼はまだ、投稿作品を描いてはいません。妙な自信があることによって逆に、なにひとつ行動に移さないという状況に陥っているのです。
大学生は、大人になるまでの猶予期間(モラトリアム)などと言われたりします。まだなにも身につけてはおらず、なにもしておらず、つまり、なにものでもない状態。なのに、妙に自信だけはある、というのは、我が身を振り返ってみても心当たりがあり過ぎて、読んでいて胸が苦しくなります。
ところが彼は、自分は絵がヘタだからと、競争の激しそうな「週刊少年サンデー」ではなく、「増刊少年サンデー」に狙いをつけるという、微妙な志の低さも持ち合わせています。原稿用紙に線を引いただけで、
「プロのしきいは…意外と高いぜ!!」
と焦ったりもするのです。根拠のない自信は、現実の壁にぶつかって簡単に崩れます。これまた心当たりがあり過ぎて、つらい。
『アオイホノオ』の「アオイ」は、文字通り「青春」のことを指すのでしょう。若さと青さ。ただ、青い炎は赤い炎より、温度が高いのです。めらめらと燃える、熱い心。まだなにものでもない状態から壁にぶつかってもがき苦しみ、なにかを成し遂げていくプロセスが本作には描かれています。熱い!
『アオイホノオ』 1~20巻 島本和彦 / 小学館