過酷なアニメ業界と、努力の日々を描く『アニメタ!』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー
今回は漫画『アニメタ!』をレビューします。アニメ制作会社の過酷でリアルな現実を描いた、ど根性お仕事系の作品です。著者は花村ヤソ(はなむら・やそ)さんで、10年ほどアニメーターをしていた経歴の持ち主。講談社「モーニング・ツー」で連載中、単行本は5巻まで刊行されています。
『アニメタ!』作品紹介
- 『アニメタ!』 1~5巻 花村ヤソ / 講談社
アニメーターになる夢が叶った、のだけど…
本作の主人公は、真田幸(さなだ・みゆき)。あるアニメに感動し、テープが擦り切れるほど観て、アニメーターになる夢を抱きます。そのアニメの監督が所属していた制作会社の新人募集に応募し、実技はヘタなのに履歴書に書いた「柔道二段」などが奏功(?)して、みごと合格します。それが第1話。
つまり、夢が叶ったところから物語が始まるわけですが、もちろんそこからが本番。真田には、とにかく絵を描く技術がありません。ただ、柔道の経験からか、動体視力は優れている様子。そして、アニメへの情熱も根性もある。そういう真田に小さな可能性を見出した監督の九条斎(くじょう・いつき)は、彼女を育てようと過酷な試練の道を歩ませます。
そして始まる努力の日々。そう、これはまるでスポ根モノのような、努力と根性の成長物語なのです。
アニメーターの厳しい現実
興味深いのは、例えば「絵が上手いからって いい原画が描けるとは限らねぇよ」といった登場人物のセリフ。止まった絵を描くのと、動きのある絵を描くのとでは、求められる技術が異なる、ということなのでしょう。作品の随所から、そういった細かな「こだわり」が伝わってきます。
同期の上手い新人が、動画検査の人から「鼻のところとか0.2ミリくらいズレてる」とダメ出しされる辺りからも、要求レベルの高さが伺えます。真田の机に貼ってあった「毎日紙が黒くなるまで線を引く事」という付箋メモも、きっと著者の花村さんが新人時代にそうやって育てられたのだろうな……という想像をさせられます。
しかし、そういう高いレベルを求められつつ、もらえる給料は描いた枚数に応じた完全歩合制。初めて「とりあえずこれでOK」がもらえた動画1枚を描くのに5日間かかった真田は、それ1枚の単価が210円、作業時間が42時間だから、時給に換算したら5円だと告げられるのです。
アニメーターの厳しい現実に直面する真田。それでも「描いてて楽しかった?」と尋ねられ、「はい! 楽しかったです!!」と、目を輝かせて答えます。強い! 若い!! 眩しい!!! 負けてられねぇ!!!! ―― そんな、熱い気持ちにさせられる作品です。嗚呼、スポ根。
打ち切り寸前に起きた奇跡!
実は本作、いちど連載打ち切りがほぼ決まっていたそうです。そんな中、著者の花村さんがTwitterに投じた宣伝ツイートがバズって、電子版が売れ、紙も重版され、打ち切り回避を遂げるという、まるでドラマのような出来事が起きます。実は私も、この宣伝ツイートで本作を知って、購入したうちの一人です。
アニメを作る上で「動画」は本当に重要で技術も必要です。でも世間的にはどうしても評価されにくく給料も安い。そんな現実が少しでも多くの人に伝わって欲しくて漫画に描いております。
【試し読みhttps://t.co/8KYXWSuuON 】 pic.twitter.com/SM0E1s595b— 花村ヤソ@アニメタ!⑤1/23発売 (@hanamurayaso) April 30, 2017
そんな劇的なブレイクをした本作ですが、実はその後、4巻が発売されてから最新の5巻が発売されるまで、2年3カ月のインターバルがあります。なにがあったんだろう? と思っていたのですが、5巻の後書きに記されていました。闘病、妊娠、出産、育児と、大変な日々を送っていたようです。マンガも人生も、負けず劣らずドラマチック!?
- 『アニメタ!』 1~5巻 花村ヤソ / 講談社
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