正念場
ここへ来て改めて一巻から読み直してみると、この作品の単純明快な構造がよく分かる。戦国四君ら破天荒な先達が掻き回す天下に夢を見ていた若者が、そのような無頼を許さない社会、秦に抗う。単純な二項対立の物語であり、蒼天航路のような歴史ものとして読もうとすると物足りないのはそのためだ。人がありのままその生命を燃やし尽くせる天下。その諸相を描くとき王欣太の筆は異様な冴えを見せる。盗拓の笑顔ひとつ、民の雄叫びひとつ、そんなひとつひとつに読者は引き込まれ、秦から来る黥骨や王齕らさえ「丹の三侠」たちの放つものに触れると目を生き生きと輝かせ、ニヤリと口元を上げて戦にその情熱を注ぎ込んで来たのである。