【感想・ネタバレ】ドラッカー名著集9 「経済人」の終わりのレビュー

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Posted by ブクログ

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 ドラッカー教授、29歳のときの著作。マネジメントで有名な教授の処女作は、意外にも政治、それもファシズム全体主義についての本です。しかし、この著作からは後年重要なキーワードが述べられています。以下、気になった箇所。

p55『一人ひとりの人間が位置と役割をもつ秩序が崩壊したことによって、当然、合理の秩序だったはずのこれまでの価値の秩序が無効になった。』
 後のドラッカー教授の重大な視点の一つになる「位置と役割」が、ここで出てくるとは意外でした。

p132『農民が「民族の背骨」であるならば、労働者は「民族の精神」である。経済的地位などとは関係なく、いつでも自らを犠牲にする用意があり、自己規律に富み、禁欲的にして強靭な精神をもつ「英雄人」なる理想的人間像である』
 「経済人」の社会が崩壊したのち、ファシズム全体主義が模索したのが「英雄人」だった。本書自体は深く書いていないものの、この「英雄人」こそ、ファシズム全体主義が「位置と役割」をドイツ国民に提示できたキーワードと言えます。

p195『ナチズムにとって、人種的反ユダヤ主義は手段にすぎない。本当の敵はユダヤ人そのものではない。ブルジョア秩序である。ナチズムは、ブルジョア秩序にユダヤ人の名を付して闘う。ナチズム反ユダヤ主義は、ブルジョア階級の秩序や人間観に代えるべき肯定の概念を構築できなかったことに起因する。階級闘争に走るわけにはいかないナチズムとしては、別の観点からブルジョア資本主義と自由主義を攻撃せざるをえない。悪魔の化身を発見したからには、その論理的、力学的帰結として、さらには、そもそもの目的からして、それら悪魔の化身との闘いには容赦なきことが求められる。』
 ドラッカー教授がどこまで予想していたかは明確ではありませんが、本書刊行後に更に激化するユダヤ人迫害、虐殺を予期させる文章です。

p203『つまるところ、組織そのものが自らを正当化する社会的秩序であるとしなければならない。社会組織の外殻はあらゆる社会実体に勝る。容器としての形態こそ最高の社会的実体である。こうして組織が信条そのものとなる。』
 後年、ドラッカー教授は「組織は目的ではなく手段である。」と述べていますが、この考察が念頭にあるのかもしれません。

p227『現実には、独ソ戦が希望的観測以上のものだったことは一度もない。しかし、現在の状況が続くならば、西ヨーロッパ諸国に対抗するために両国は同盟を結ぶと考えられる。』
 チャーチルでさえ見誤った独ソ不可侵条約締結を的確に見定めていたのは驚きです。

 ドラッカー教授のその後の思想を予感させる名著です。

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2021年03月21日

Posted by ブクログ

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【書評】
 自由と平等を達成し、大衆の福祉を向上するために経済的満足を最優先に希求するという社会的教義—経済至上主義たる「経済人」の秩序。それは「魔物」を退治出来なかったがゆえに大衆の支持を失った。ファシズムはそのような「経済人」秩序に引導を渡すことに成功した。脱経済至上主義を目指し、新しい人間観として組織に至高の価値置く「英雄人」を打ち出した。大衆は絶望から理性を放棄し、「不可能を可能にする奇跡」をファシズムに期待した。ファシズム全体主義に不満であるがゆえにそれを支持する宗教的信仰をみせた。しかし、ファシズム全体主義の提示した、人間の犠牲を正当化する概念は社会と相容れず、自己矛盾を抱えた観念であった。
 この矛盾、旧秩序への否定がファシズム全体主義の本質であった。ファシズムは矛盾を隠し自らを合理化するべく、「目に見える魔物」をつくり出した。ファシズムにとってのこの魔物は「和解不能の敵」である。そしてこの「敵」こそが西欧のブルジョア資本主義である。
 ドラッカーは、「なぜ民主主義勢力は自らの信条全てを脅かす脅威を抑制出来ないのか?」と問い、肯定的信条に基づく新しい秩序を作るため、ファシズム全体主義を正しく認識することが不可欠であるという。ファシズム全体主義への見立てを通じ、ドラッカーが本書で提示するものは、西欧の歴史が、いかに自由と平等を叶える秩序への動的な願望によって動かされ、いかに人間が社会における自らの役割を求めるかである。
 ドラッガーがじかに見聞きしたファシズム全体主義を理解することは、彼の思想の原点を理解する王道である。ドラッカー29歳のときの衝撃のデビュー作。

【コメント】
 ドラッカーはブルジョア資本主義とマルクス社会主義が信奉した「経済人」秩序—個人の経済的自由を自由と平等を達成するために最優先する経済至上主義—の崩壊とそれに変わる秩序の不在との虚を衝いて、ファシズム全体主義が断ち現れたと喝破する。そしてファシズムは、矛盾や否定に立脚するため、大衆には夢を見させる程度のことしか提供出来ず、本質的には脆弱性を有していると考えている。むしろ、ファシズムがヨーロッパの信条を脅かすにも関わらず、正しくそれを認識出来ていないことがヨーロッパの民主主義を弱め、ファシズムの提供する虚構を真実だとみなす風潮をつくり出すという認識を軸に本書は書かれている。
 なぜファシズム全体主義が生まれたのかいついて理解することがドラッカーの世界観をみるのに一番都合がいいのではないか。ドラッカーはファシズム全体主義の登場を西洋文明の文脈で捉え、「西洋の歴史に特有の動的な性格」(p223)が生んだとしている。つまりヨーロッパには、人間本性における、ある領域—精神、知識、政治、経済など—を社会の中心として位置づける秩序が常に存在し、その領域を通して自由と平等を追及して来たという歴史的プロセスがある。このダイナミックなプロセスは「動的な性格」であり、ヨーロッパの大衆が新しい秩序が不在である、静的な現状に耐えられなかったがためにファシズムに向かったと捉える点は、筆者特有の理解である非常に面白い。
 本書では、1995年版のまえがきで述べられているように、社会を分析するために、政治や経済でない第三の方法を採用している。すなわち「社会における緊張、圧力、潮流、転換、変動の分析」をとおして「特異な動物たる人間の環境として社会」を分析するアプローチである。マックスウェーバーに準じているように、読者には非常に説得力があった。

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2013年12月21日

Posted by ブクログ

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東洋経済新報社 岩根忠訳 昭和38年 を読んだのですが、このバージョンは流石に手に入らないかというので、こちらを本棚に。

ドラッカーが、1939年に書いた著作です。
全体主義、共産主義、ファシズムについて、語っています。…
ファシズムといえば、ヒトラーが、ユダヤ人を滅茶苦茶に殺したとか、ヒトラーがあの地位に就くにあたっては、支持を受けていたとか。そのくらいのことしか知りませんでしたが、実に読み応えがあるというか、必読。という内容です。

 絶望がファシズム支持の背景にあったという指摘は、説得力がありまして、且つ、未だに現代社会でも無視はできないのではないと感じました。怖いものがあります。

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2012年05月26日

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