老人喰いというのは、振り込め詐欺に代表される高齢者をターゲットとした詐欺のこと。
本書は、騙される側ではく騙す側の事情を取材したルポ。
驚いたのは、詐欺をしている若者たちの素性である。
彼らは不良とばかり思っていたが、実は大卒の普通の若者もいる。
そんな彼らが何故詐欺に手を染めるのだろうか。
一つに
...続きを読むは現場の洗脳がある。
いかにも詐欺は大した犯罪ではないかのように言いくるめられる。
お金を持っている人から搾取することと、貧乏人から搾取することどちらが悪いかとか、富の再分配とか、「貯金ゼロの人間を騙して200万円のローンを組ませるやつがいる。テレビを見てみろ、効くかどうかも分からねえ怪しげな健康食品がすげー値段で売られてる」(p136)これらの詐欺まがいの商品を引き合いに出して、彼らの理論をぶちまける。
そうすることにより、若者たちの罪悪感は薄れていく。
そのやり方や、組織の構成、詐欺のテクニック、どれもすごくよく考えられており、これでは高齢者が騙されるのも頷ける。
そしてそれ以上に、若者のお金に対する執着、お金を得ようとする執念、お金を持っている高齢者に対する反発がなければ、このような甚大な被害を及ぼすまでにはなっていなかったかもしれない。
今の高齢者は努力すれば報われる時代を経てきたが、若者たちは努力しても報われることもないという絶望的な現実を実感しているのだろう。
真っ当な道では、今の生活を抜け出し、余裕のある生活を営むことは出来ないと考えている。
本書に登場する詐欺グループの話を知り、愕然とした。
昨今言われている貧困は、実は私自身が思っているよりもかなり進行しているのかもしれない。
その貧困の様に驚いた。
夢も希望も持てなくなるほどの生活苦に、努力しても切り開けない未来。
それらは、大人や国がしっかりとケアしてこなかった代償でもある。
日本は、人材が唯一の資源といわれているのに、人材を育てる努力を怠っているとしか思えない。
だが、どんな理由があれ、詐欺は立派な犯罪であり、他人のお金を搾取することはしてはならない。
著者は裏社会の少年少女をテーマとした著書が多く、若者寄りの目線で、詐欺を働く彼らを若干擁護しているように感じたことと、ノンフィクションとはいえ脚色されたと感じられる部分があり、その辺が気になった。
とはいえ、「老人喰い」とは単なる詐欺ではなく、もっと根深い問題が潜んでいることを知ることができ、今までと別の角度から見ることができた。