中上健次のレビュー一覧

  • 岬

    (引用)
    彼は、一人残っていた。腹立たしかった。外へ出た。いったい、どこからネジが逆にまわってしまったのだろう、と思った。夜、眠り、日と共に起きて、働きに行く。そのリズムが、いつのまにか、乱れてしまっていた。自分が乱したのではなく、人が乱したのだった。ことごとく、狂っていると思った。死んだ者は、死ん...続きを読む
  • 新装新版 枯木灘
    重くて濃い。色々な反復に飲み込まれていく気分。フォークナーが引き合いに出されることが多いようだが、少し前に読んだフォークナーの『八月の光』と照らしてみても、確かに読後感が似ている。
  • 奇蹟
    中上が連綿と描き続けてきた“路地”シリーズの終着点。
    “路地”の最後の生き証人、今は零落しアル中のトモノオジが中本の極道タイチの生涯を幻惑的に語る。
    蓮池の挿話、人物のカタカナ表記、終盤に現れる釈迦の掌と、浅学ながら深淵な意図とブッディズムを感じる。
    圧倒的な文学的魅力とエネルギーを備えた、誰にも真...続きを読む
  • 日輪の翼

    素晴らしいの一言。
    『地の果て 至上の時』で完結したかに思われた“路地”が、なんと移動を始めた。
    移動に使う冷凍トレーラーの比喩となる表題も見事。
    神的なもの(静)と迸る性(動)の混合、外から映る“路地”の異様さと、中上の当時表現したかったものやアドバンスが強く感じられた。
  • 日輪の翼
    「路地」と呼んでいる被差別部落を立退でおわれ、7人の老婆と若者が改造した冷凍トレーラーに乗って、伊勢、諏訪、出羽、恐山、皇居と御詠歌を歌いながら旅をする。老婆たちは神々と出会い近づこうとし、一方で若者たちは性の享楽にのめり込む。中上作品は3冊目ですが、否応なく文体から五感を刺激し、老婆らの感じる音や...続きを読む
  • 千年の愉楽

    全編通しバキバキに覚醒しており、水分が無くなるまで煮詰めた煮物の様な文体で脂の乗りまくった中上作品。本作以降に現れ始める“神話性”の様なものが、以降作品に強い魅力を加えていると思う。
    他作含め読み手を非常に選ぶのは間違い無い。
  • 新装新版 枯木灘
    熊野古道を歩いたのを気に色々と土地のことを知りたくなり読みましたが、フォークナーの換骨奪胎と思いきや、読後の後味は全然違いました。

    誇大妄想に虚言癖、ペドフェリア、近親相姦、など現代でも普通いる人たち。文学ではおなじみのテーマ。そして山と海に挟まれた土地で血縁に囲まれ、路地では常に視線を感じる主人...続きを読む
  • 小学館電子全集 特別限定無料版 『中上健次 電子全集』

    サービス精神満載

    有名な紀州熊野サーガの世界観を中心にして、本作を読む際の登場人物関係図など、かなりの豊富な情報と合わせての作品収録がなされており、読者にとって親切設計だといえます。作品を読むに、中上先生は細やかなところまで描く性格がありそうです。
  • 新装新版 枯木灘
    「推し燃ゆ」の宇佐見りんの推しに中上健次が挙げられているのを知って手にした本書。

    今ではコンプライアンスやらハラスメントやらで抑制された人間の根源的な衝動や欲望がむき出しにされている。日常的には道義的に許せないことが、この作品では、なぜここまで心揺さぶられるのか?
    自分の中にもきっとそんな衝動や欲...続きを読む
  • 新装新版 枯木灘
    先日、神保町に立ち寄った時に三省堂で見かけ、10代の時に挫折したことを思い出して再読笑

    ドストエフスキーの影響を感じさせるとともに、作者自身の経験からくる部落(作内では路地と表現)の小さな町での物凄く複雑な人間関係とそれによって起こる事件や悲劇を大変だけれど美しい土木作業や自然と対比して丁寧に描か...続きを読む
  • 岬

    「岬」には、James Joyceの短編集「ダブリナーズ(ダブリンの人々)」のなかの1作「死せる人々(The Dead)」との関係性を強く感じる。

    例えば、一族の物故者の影や息使いが、普段は姿を見せないものの、今を生きる者の言葉や立ち居振る舞いその他の様々な所作において、それが姿を現し、なおかつそ...続きを読む
  • 日輪の翼
    中上はまだそれほどたくさん読んでいるわけじゃないけれども、これは今まで読んだなかではいちばん面白かった。就活の合間合間に読んだから細部をしっかりおぼえてないのだが、冷凍トレーラーは重要な役割をもっていたように思う。聖と俗が常に一体となって描かれていた。老婆らはとにかくグロテスクだったが、最後は妙な寂...続きを読む
  • 千年の愉楽
    本作品には鬼が宿る。大江健三郎や三島由紀夫など読んだ瞬間に圧倒的才能を感じさせる天才が稀に居るが中上健次もその一人であろう。彼が「路地」と呼ぶ所謂部落出身者の湧き出る熱情を血で綴るように中本の一統の5つの物語を紡ぐ。説明的な読者への配慮は一切なく濃密で息苦しい程の言葉の茨が読者を捉える。

    極めて優...続きを読む
  • 岬

    芥川賞受賞作「岬」を読む。冒頭からしばらく人物関係が錯綜気味。正しく理解するのは簡単ではない。が、読み通していけばわかる。理解してからまた冒頭へ戻るなり再読することになると思う。ここは正直不親切に思うが、それを不問にさせるだけのパワーがこの作品にはある。村上龍が芥川賞の選考の際、求める水準をこの作品...続きを読む
  • 新装新版 枯木灘

    日の光、土、夏芙蓉の香りと一体になって働いても浄化できない血の穢れ。再読して中上作品のなかでも随一といってよい透明感を感じた。肉体が、魂が、労働を通して純化されていくんだけど、底の底に沈殿していく。
  • 岬

    震える文学。くすぶる地と血、そこから生まれる新たな生の漲りのような物語。

    どれも良かったが特に表題作『岬』は群を抜く。閉塞するような仕事と複雑な家族関係、土地のしがらみのなかで生きる主人公と、中盤の事件からラストにかけての言葉の奔流に呑まれそうになる。

    理解できたとは言いがたい、飲み下すので精一...続きを読む
  • 千年の愉楽
    ネットがこんなに発達していない時代、こういう本は読者一人一人の心の中の、誰とも共有されない深い深い部分にしまわれていたのじゃないかな。
    他人の感想が聞きたいし語り合いたい気持ちもするけれど、それをしてしまえば何かがすっと手の中から飛んで行ってしまいそう。
    だからどんなに狂おしく興奮した部分があったと...続きを読む
  • 日輪の翼
    携帯もなく、Nシステムもなく、駅の自動改札もなく、ソープがトルコだった昭和50年代を舞台にした神話のような小説。熊野の被差別部落の老婆達を盗難車の冷凍トレーラーに乗せて、路地の若衆が伊勢・一宮・諏訪・唐橋・青森・東京を巡る旅に出る。老婆たちは、行く先々の土地でトレーラーを駐車する場所を「路地」にして...続きを読む
  • 新装新版 十九歳の地図
    表題作、十九歳の地図について。
    素晴らしい読書体験だった。
    ここには、青春のただ中にいる一人の青年の、本当のことしか書かれていない。
    そう感じさせるのは、中上健次が、借り物の言葉ではなく自分の言葉で語っているからだろう。
    僕は、今日が19歳最後の夜。
    自分の、やりきれない十代の形にならない想いは、ち...続きを読む
  • 中上健次
    全集で難しいのは数多ある代表作の中から何を選ぶかということだろう。中上といえばよく引き合いに出されるのがアメリカ南部にある架空の地ヨクナパトーファ郡に起きた多くの人々と出来事を描いたウィリアム・フォークナーのヨクナパトーファ・サーガだが、中上がそのサーガの舞台としたのは、架空の場所ではなく彼の郷里で...続きを読む