中上健次のレビュー一覧

  • 千年の愉楽
    「路地」の高貴で穢れた血筋を持って生まれた男たちの美しくも儚く短い一生を、彼らを産婆として取り上げたオリュウノオバと呼ばれる女性の目を通して描いた短編集。
    運命づけられた一生を懸命に生き切ろうとする姿を神話的な要素を交えながら描いており、全編を通して生の力強さを感じさせる作品です。
    いい意味で脂ぎっ...続きを読む
  • 岬

    一つの段落で時間軸が過去と未来で変わったり、一人称のようで三人称だったり、それでも読者が混乱せずに読める文章が不思議で、とても面白い作家でした。
    よく南米文学と比較されるようですが、確かに肉感的で時間軸を自在に操る感じがガルシア・マルケスに似ている気がして、文章の存在感がグイグイ読ませます。
    押し寄...続きを読む
  • 作家と酒
    酒という媒介によって、執筆者に対する誼の深さを問わず、ある種の古き良き時代を醸し出す文化の中で各人が実態的に肉付けされていく行程は、人類史を通じて連れ添ってきた存在の重みを改めて見せつけるものとなっている。
  • 岬

    どうしようもなく暗い。救いがない。系譜としては長塚節の『土』の系列。ただ、地主から見ていない確かな土着性と現代性がある。本来『暗夜行路』の主人公だって、こういうふうにねじれてもおかしくないはずである。
    生き変はり死にかはりして打つ田かな 村上鬼城 という俳句を思い出す。 「岬から山にあがったこの墓地...続きを読む
  • 岬

     とても複雑な血縁関係。どれも中上さん自身をモデルにされているらしく、母親が複数回結婚している人で、母親と初めの夫との間に出来た姉、兄、母親の今の夫の連れ子であった血の繋がらない兄がいる。そして主人公自身は母親と“あの男”と呼ばれている悪名高い男との間の子で、主人公には腹違いの同い年の異母妹が二人い...続きを読む
  • 新装新版 十九歳の地図
    最初に手をつけた中上健次作品が、千年の愉楽という特殊な読み始め方をしてしまったので、こうして彼の原点に変えると最後まで貫かれ続けた何かが感得される。
    それは傷だらけのマリア様→オリュウノオバというイメージの変遷でもあるのだが、現実の虚構は徹底的に暴かれ、死も生もすべて無効化するこの作品群は、しかし確...続きを読む
  • 紀州 木の国・根の国物語
    中上健次と一緒に歩き、立ち止まり、考える
    差別という物の怪を
    この国の闇の構造を
    この本はそのための手がかり
  • 岬

    二度目にして目を洗われた。

    これだけ複雑な血縁関係を背景にして、よく筋の通った物語を書いたもんや。

    二つの頂点で高く釣り上げた分、物語の幅が出ていて、それを複雑に入り組んだ登場人物で固め、それが力強いうねりとなってる。

    方言によって土地に吹く風を与え、それになびかない人間関係を描くことによって...続きを読む
  • 千年の愉楽
    血と土地と宿命と
    彼らはそれに縛られているのか?
    はたまた誰よりも自由なのか?
    縛られているとしたらそれは果たして本当に血なのか?
    刹那的に生きることでしか彼らは生きられなかったのではないのか?

    オリュウノオバの語りで三次元という小説の一般的な枠組みを超えて、物語は過去と現在と未来をつなぎ、路地か...続きを読む
  • 岬

    血生臭い表現であるのに、温度がない。
    薄暗い日本的(昔の)田舎を感じる。
    岬に限らず、血縁、地縁、一族的考察はどうにも暗いテーマである。
  • 岬

    『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞した宇佐美りんさんが、受賞インタビューで好きな小説家を聞かれて、中上健次と答えていた。買って読んでいなかった『岬』が家にあったので、中上健次ってどんなもんだろうと軽い気持ちで読み始めた。中上健次を読むのは初めてだった。

    そしてあまりの男くささに驚いた。

    次々に変わる情...続きを読む
  • 新装新版 十九歳の地図
    表題作の『十九歳の地図』のみ読んだ。

    19歳という子供でもなく大人でもない不安定な時期の鬱屈を、主人公がアルバイトの新聞配達で担当しているエリアの住民に悪戯電話をして発散する。

    このようなテーマはありきたりに思えたが、「かさぶたのマリア」と近くに住む家族のギミックが面白い。予備校生として上手くい...続きを読む
  • P+D BOOKS 鳳仙花
    岬、枯木灘を呼んできて、鳳仙花を読む。
    フサの、矛盾するような女らしさや、葛藤が、生々しく伝わってくる。
    中上健次の本を読んでいるときは、瞳孔がいつもより大きくなっている気がする。数日間は余韻がある。
  • 新装新版 枯木灘
    秋幸の仕事に対する気持ちと風景など、何度も何度も同じ描写が続き、それがまたこの物語に惹き込まれる要因になっている。
    読みやすいけど、ゆっくり味わいながら読むと、より楽しめる。
    田舎の親戚には、ユキみたいな人が必ずいる。
  • 岬

    【岬】
    人物の関係性が入り組んでおり、なんども確認しながら読んでいく。その確認の蓄積がリアリティというか、物語の強度につながっているような気がする。このような手法はガルシアマルケス百年の孤独とか、フォークナーからの影響だろうか。血縁が大きなテーマとなっており如何ともしがたい繋がりへの葛藤が生々しく描...続きを読む
  • 千年の愉楽
    中上健次の作品は、血と地に縛られてるのだと思ってましたが、そうか、むしろ解き放つものなのだと思いました。
  • 岬

    「黄金比の朝」
    父親はオートバイ事故で死に
    母親はインバイとなって生計を立てている
    浪人生の「ぼく」はそれを軽蔑して連絡もとってない
    安い下宿からバイトに通いつつ勉強している
    よくわからないが事件の多い町だった
    ある朝
    自分語りに酔いしれる馬鹿女と、それに共感する負け犬の兄が
    「ぼく」の部屋に寝てる...続きを読む
  • 新装新版 十九歳の地図
    中上健次氏の処女作「十九才の地図」を収録した短編集。

    「枯木灘」「千年の愉楽」と比べると迫力は劣るものの、のちの「紀州サーガ」に繋がる萌芽は感じさせる。「一番はじめの出来事」などは「岬」「枯木灘」「地の果て至上の時」三部作の源流が描かれる。「穢れた高貴な血」と称する路地に生きる者たちのサーガを描き...続きを読む
  • 日輪の翼
    盗んだ冷凍トレーラーで七人の老婆を載せ全国の霊場を巡るロードノベル。こう書くと何が何だかわからないが読んでも何が何だか何だか分からない。しかしほかの中上作品と同様言い知れぬ迫力と熱量は備わっている。

    根底にあるのは「路地」すなわち被差別部落の紀州に土着したサーガであるが、そこを流離し流浪し性と暴力...続きを読む
  • 紀州 木の国・根の国物語
    鬼らが跋扈する「鬼」州、霊気の満ちる「気」州、中上氏の原点である紀州を巡るルポタージュである。彼が問うたのは自身の源流と紀州サーガであり、それらを霧のように包む被差別と非差別を解き解し、剥き出しの本質を探り出そうとしている。作中の突然の屠殺願望などは、中上氏のなかに眠る「濁った高貴な血」の放出なのか...続きを読む