中上健次のレビュー一覧

  • 新装新版 枯木灘
    勉強不足だったが、中上健次が「紀州サーガ」と呼ばれフォークナーやマルケスを源流とし世界文学の潮流として彼らに比肩する作家であることを初めて知った。文章から滲み出る鬼気は圧倒的だ。

    中上氏の言う「路地」とは被差別部落地区を指すが、作中には差別に関する事柄は一切なく、そこに土着する「穢れた高貴な血」へ...続きを読む
  • 岬

    濃い。息苦しいほど濃い。質量を持つ粘着性ある文章が纏わり憑くようだ。上原善広著『日本の路地を旅する』で中上健次氏の存在を知ったが、彼自身に流れる「血」のどろどろと濃厚で噎せ返るような強烈なにおいが漂う。果たして饐えた臭いか鮮麗な匂いか、それは読み手次第だ。私は後者であった。

    段落を排し圧倒する文章...続きを読む
  • 千年の愉楽
    6篇の短編集。路地の若者達の人生を産婆の目を通して眺める視点。時代を超越し、時間の経過をかき乱す文体。読み進むうちに脳内に浮かぶビジュアルが印象的。売り飛ばさずに本棚に残す本。
  • 岬

    子供の頃から、30年以上。
    本屋さんで見て知っていて。いつかは読もう、と思いながら。

    あんまり暗くて重そうで敬遠していた中上健次さん。記念すべき初の中上さんは、やはり読書会がきっかけでした。ありがたいです。

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    黄金比の朝
    火宅
    浄徳寺ツアー


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    の、四編が収録され...続きを読む
  • 中上健次
    学生時代に『岬』『枯木灘』『鳩どもの家』は読んだことがあった。が、それらは中上健次のほんの一部にすぎなかったということを思い知らされた。
    特に『鳳仙花』は名作。
    他の中上健次の作品も読まなければいけない気にさせられた。
  • 千年の愉楽
    美しさ=早世である
    女をよろこばせる⇒天性
    描写がとても官能的である
    理性にではなく本能に訴えるような表現だ
    淡々と悦に達し死に向かっている
  • 岬

    いわゆる「紀州サーガ」二冊目にあたる「枯木灘」を先に読んだ。「岬」が一冊目。
    「引用」に移した文章は本編ではなく後記のもの。
    作者は紀州の路地に住む一族の複雑な血縁を形を変え目線を変え書いているけれど、吹きこぼれるように表現したい自分の世界があるのですね。

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    予備校に通う主人公の下宿に転がり...続きを読む
  • 讃歌
    性のサイボーグとか、第三の性とか、そんなたいそうなものではなくて、ただ中上健次がバブル時代のマイノリティ・カルチャーをドヤ顔で描いてみせたという感じ。はじめにコンセプトありきで、ポストモダンやニューアカの影が少しうるさい。フランスから来た「フー子」とか「ロラン子」とかが出てきて、それも時代だなぁと。...続きを読む
  • 千年の愉楽
    本の雑誌12月号で「中上健次ならこの十冊を読め!」の記事があった。
    僕は枯木灘しか読んでいない。路地を舞台にした物語群を知り、読む気になった。
    産婆のオリュウノオバが語る中本の家の澱んだ高貴な血のもとに産まれる男達。女がほっておかない色男で、彼らは女たらし、ヤクザ者、泥棒、大陸浪人。そして運命のよう...続きを読む
  • 千年の愉楽
    路地と呼ばれる被差別部落を舞台に、
    美しくも呪われた血筋の男たちの生と死を
    オリュウノオバを語り部に描く。

    どろどろとした欲や情念はそのままに
    その中に垣間見える、人間らしさ、というものを
    世界中にに掘り起こそうとしている。
  • 千年の愉楽
    薄い文庫ですが、中身は濃厚で、土俗的な雰囲気。
    改行も少なく、ぎっつり畳みかけるように。
    熊野の地で、「路地」の若い者のすべてを取り上げた産婆オリュウノオバが見守っていく。
    中本の一統という血をひく様子が、色々な子に現れる。
    蔑まれる貧しい暮らしでも、なぜか生まれつき見た目は良く、色白で顔立ちが整っ...続きを読む
  • 紀州 木の国・根の国物語
    ノンフィクションでいったらその手の作家たちが必ず薦める本書はやっぱり重厚だった。紀伊半島を六ヶ月旅して記した歪みの構造を見つめるルポであり物語でもある。読んで損することはこれぽっちもない。改めてニッポン人とは何者なんだとういうことを著者は全身の触手を伸ばしてボクらに教えてくれる。彼が偉大だということ...続きを読む
  • 十九歳のジェイコブ
    まだ2冊しか読んでいないけど、中上健次は一貫しているなと思う。
    解説の「彼本人と話が切り離せない」とあるように、中上文学を知ることは中上氏本人を深く知ることでなし得るのである。
    彼自身に非常に興味があるのでほかも読んでいこうと思うが、それにしても本屋にないので、古本屋で宝物を探すような読書生活はまだ...続きを読む
  • 十九歳のジェイコブ
    ジャズ、セックス、ドラッグがこの話の磁場をつくっているとしたなら、

    セックスがエロス

    ドラッグがタナトス

    ジャズがその二つをつなぐ装置としてつかわれてる、のかも。

    とかかなり自由な解釈をしてみたら面白い。
  • 千年の愉楽
    独自の、確固とした世界観を持った、圧倒的な物語だった。
    倫理も法も縁のないような埒外の世界には、人ならぬ者が決めたような、自然のままに出来上がる秩序のようなものがある。

    その路地で子供が産まれる都度、産婆として一人一人をとり上げてきたオリュウノオバからは、何世代もの時の移り変わりによって自ずと形成...続きを読む
  • 紀州 木の国・根の国物語
    著者の唯一とも言えるノンフィクション。熊野地方を1年近く旅をしたルポである。歩くのではなく車を使う。したがって行ったりきたりもする。
    全編に渡って「差別」をキーとしている。和歌山はそうなのか。中にも書かれているが東北の人間にはわからない事だという。そう私には全く分からない。
  • 岬

    表題作をまず読んだ。
    舞台は紀州。日常風景に主人公の親戚縁者が登場。読み進めていくうちに関係性が徐々にわかっていくが、最初はすんなり入ってこなくて何度かページをめくる手が止まってしまった。
    だが、明け透けなセリフからは登場する人たちの体温がムンムンと伝わってくる。人の死が大きな事件に思えてこない不思...続きを読む
  • 岬

    まさに紀南の夫の実家に帰省中、大勢の親戚たちに囲まれたり話を聞いたり、辿れば遠い親戚だったりする彼の地元の友達と会ったりしているときにこの小説を読んだ。
    買ったのも夫の地元の鄙びた書店。
    血縁のつながりの強い紀南の家族の在り方をちょうどリアルタイムで感じながら読んだので、物語の雰囲気はよく掴めたし登...続きを読む
  • 讃歌

    『日輪の翼』から一応話が続いているが、切り離して考えた方が良い本作。爆発的な性の奔流が全篇渡って迸る。コンセプチュアルが故、中上の悪いエゴが出過ぎている気が。。
    感覚的に描きたい事は分かるが、読ませる気はいつも以上に無い。
  • 岬

    こんな気持ちの良い天気の時に読まないと落ち込んでしまいそうな、一族のしがらみに生気を絡め取られる話。しかし,地方でなくても多くの人は本当は避けて通れないことだと思う。
    人間関係が分かりにくく、何度か戻って読み直すことを繰り返してしまった…