室町幕府の初代征夷大将軍となった足利尊氏と、
彼を身近で支えていった、実弟・直義と
足利宗家執事・高師直の生涯を描く。
極楽殿と揶揄され、やる気の無い、しかしカリスマな尊氏に
振り回される二人の、運命は如何に。
第一章 庶子 第二章 波上 第三章 朝敵 最終章 敵対
・主な登場人物 ・参考文献有り。
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直木賞受賞作品で、2段組みの550ページな長編。
完読に3日かかってしまいましたが、中断できない面白さ。
たまたまではあれど「現代語訳吾妻鏡」や鎌倉幕府関連、
中先代の乱、南北朝関連、観応の擾乱の書籍、
コミックでは「逃げ上手の若君」を読んできてたので、
「吾妻鏡」の人物たちの子孫や鎌倉幕府滅亡と南北朝の
人物たちが多く登場するのが良く、楽しかったです。
また、多くの資料で裏打ちされていることも、わかります。
鎌倉幕府の劣化から、後醍醐天皇の暗躍、そして雪崩のような
鎌倉幕府の滅亡。建武の新政前後の混乱、南北朝動乱の始まり。
そんな歴史の変遷の流れに逆らわぬ高波のような足利尊氏の姿。
呑気で明るい邪気無き鵺。自負心の無さと欲求の希薄さ。
それがため、多くの者たちが高氏信者になるカリスマ性も。
そんな彼を相変わらずの腑抜けっぷりよと嘆きながらも、
付き従う、理屈っぽく怜悧な直義と家政を仕切る師直。
ある時は共闘し、ある時は対立し、理解が深まる二人。
だが、室町幕府成立と初代征夷大将軍就任以後、尊氏は
政務は丸投げ。多忙と不信から二人の蟠りは徐々に
深まっていき、尊氏をも巻き込んでの観応の擾乱が起こる。
領地のため、一門のため、一族のためという鎌倉武士の
思いを引きずった人物たち。朝廷を維持したい天皇と公家たち。
多くの欲が渦巻く中での無欲の有り様としての、尊氏が
コミカルで人間味過多で、こういう描き方もあるんだなぁと、
感心しながら読み進めました。
静と動の絶妙さ、戦闘場面の詳細さの凄みあれど、
ざんばら髪の騎兵集団爆誕!には笑ってしまう可笑しさも、有り。