深水黎一郎さんの新刊は、多重解決ものだという。深水作品で多重解決ものといえば、『ミステリー・アリーナ』が即座に思い浮かぶ。
『ミステリー・アリーナ』は、多重解決もののジレンマに真正面から挑んだ作品だったが、本作も同じくらい、もしかするとそれ以上の傑作だ。本作は、7つの選択肢から犯人を投票で決め
...続きを読むるという企画のために書かれ、「問題篇」がネット上で無償公開されていた。
自分はその企画の存在は承知していたものの、面倒くさがりなので参入はしなかった。単行本化を機に手に取ったが、読んでびっくり、そして投票した読者の多くが、ちゃんと推理していたことにまたびっくり。このジャンル、まだまだ捨てたものではない。
深水さん曰く、推理の権利を放棄し、すぐ「解答篇」に進んでしまう読者が多いのを残念に思っていたという。自分は正に残念なタイプの読者なので、耳が痛い。8人の若者が共同生活を送っていた「大泰荘」で、殺人事件が発生。特に奇をてらった設定ではない。
問題篇を読み終えると、残念な読者の自分はさっさと解決篇に進んでしまう。そしてようやく本作の緻密さに気づかされた。7つの選択肢すべての可能性があり得るように書かれているのだ。解がただ1つの通常の本格ミステリより、難易度は格段に高いのではないか。
読者による投票(推理)結果も掲載されている。当然、人気(?)には偏りがあるものの、どの選択肢にも根拠があり疑問点もある。少々のずるさはご愛敬。過去作品へのオマージュもあり、全篇に読者へのサービス精神と、このジャンルへの愛が溢れている。
自分もそれなりに本格ミステリを読んでいるつもりだが、考えもせず、そんなのわかるかよと毒づく、常日頃である。言い訳ではないけれども、解答篇に突っ込むのもこのジャンルの楽しみ方の1つと思っている。ただ、少しは自分の頭でも考えたいものである。
せっかくお金を出して読むのだ、楽しみは多い方がよい。ありがとうございました、深水さん。