ヨーロッパの最西端と言われるポルトガル領の群島、アソーレス諸島。その近海を泳ぐクジラと島の捕鯨手たちの物語を、虚構混じりの断片から浮かび上がらせていく掌篇集。
再読。何度読んでも美しい本、同じフォーマットを使って自分の好きなものを語りたいと憧れる本だ。史実に即した事柄を語るときにもタブッキは夢を
...続きを読む見ながら語っているかのようで、それがクジラの泳ぐ大海を身一つで漂うような読感を生みだす。
深夜に見たNHKの番組でアソーレス諸島近海のクジラを取り上げていたのをきっかけに再読したのだが、あの海の青さを見てからだと、本書を読んで頭のなかに結ぶ像の色彩設計がガラッと変わってしまった気がする。「水みたいに薄い空色の目」の持ち主が何度かでてくるけれど、瞳の色が薄く見えるのは海があまりに青いせいなんじゃないだろうか。そう感じる青だった。
タブッキと同じく断片的な記憶のイメージを積み重ねて物語を編み上げる名手である須賀敦子の訳者あとがきと、堀江敏幸の端正な解説を読める文庫は本当に贅沢。堀江さんの「ネタばらし」は、浅学な読者にはとても有り難い。