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フィクションだけど実在するかも?『鬼灯の冷徹』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は、地獄や天国といった「あの世」をコミカルに描いたコミック、『鬼灯の冷徹』をレビューします。作者は江口夏実さん。講談社『モーニング』にて連載中で、現在、単行本は20巻まで出ています。2014年にはテレビアニメにもなりました。

鬼灯の冷徹 壱

『鬼灯の冷徹』 1~20巻 江口夏実 / 講談社

「正法念処経」の八大地獄と十六小地獄

生前犯した罪を十人の王に裁判され、地獄行きの場合、八大地獄と八寒地獄それぞれに付随する十六小地獄で、罪に応じた責め苦を受けることになる……という奥の深い設定は、実は『鬼灯の冷徹』オリジナルというわけではありません。作者の江口さんによると「正法念処経」という仏教の経典に基づいているそうです。

古来、さまざまな地獄絵が描かれ、「罪を犯すと地獄に落ち、こんな残酷な拷問を受けることになるのだ」ということを視覚的に教え諭すためのツールとして活用されてきました。中でも閻魔大王の絵は特に恐ろしい顔で描かれてきたわけですが、『鬼灯の冷徹』の閻魔大王はでっぷり太っていて貫禄はあるものの、まったく怖くありません。むしろ愛嬌があるキャラクターになっています。現代風に、ポップに解釈した地獄絵巻、といったところでしょうか。

閻魔大王の第一補佐官、鬼灯様

本作の主人公は、閻魔大王の第一補佐官である、鬼灯(ほおずき)様です。鬼神らしく、額の上にはツノが生えており、トゲだらけの金棒を持っています。ただ、鬼といってもいわゆる「鬼のパンツ」姿ではなく、背中にホオズキの絵が描かれた黒い着物姿です。やせ型黒髪三白眼で無表情という見た目に違わず、「冷徹」に淡々と仕事をこなす優秀な男。部下の前で閻魔大王のことを「あのアホ」呼ばわりする毒舌キャラでもあります。閻魔大王に対しても容赦なく激烈なツッコミを入れます。ドSです。

鬼灯様が人間だったころは「丁」という名前で、死後「鬼火」と一体化したため、閻魔大王から「鬼灯」と名付けられたというエピソードがあります。鬼灯とは、魂を導く提灯のこと。この辺りのネーミングは、よく考えられていると感心します。例えば、初期から登場する獄卒に「唐瓜」と「茄子」という小鬼がいます。キュウリとナスは、盂蘭盆(お盆)に故人があの世とこの世を行き来するための「精霊馬」に用いられます。せっかちな唐瓜は行き用の馬(=キュウリ)で、のんびり屋の茄子は帰り用の牛(=ナス)といった設定が、後からさらりと出てくるところがすごい。

おとぎ話の登場人物や実在の人物も続々

『鬼灯の冷徹』に登場するのは、地獄や天国の住人だけではありません。おとぎ話や神話の登場人物や妖怪変化、実在の人物まで登場します。ざっと挙げるだけでも、桃太郎と家来の犬・猿・雉、中国の聖獣・白澤(ハクタク)、聖徳太子に諸葛孔明、太公望や卑弥呼、楊貴妃と小野小町、西洋地獄の王・サタンと補佐官のベルゼブブ(蠅の王)、朧車、提灯於岩、烏天狗、ケルベロス、かちかち山のうさぎ、妲己、八岐大蛇、牛若丸(源義経)、一寸法師などなど。「神様仏様」と八百万の神になんでも習合してしまう日本人らしい作品と言えるでしょう。

なお、元ネタの解説やキャラクターなどを徹底的に掘り下げ紹介した『鬼灯の冷徹 地獄の手引書』というガイドブックも出ています。

コミック&アニメ公式ガイド 鬼灯の冷徹 地獄の手引書

江口さんのインタビューによると、幼少のころから、水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』や『妖怪図鑑』シリーズが大好きだったそうです。なんか納得しちゃいました。

「この漫画はフィクションですが、地獄はあるかもしれません」

ちょっとユニークなのは、目次ページに「この漫画はフィクションですが、地獄はあるかもしれません。現世での行いには十分ご注意ください。」と書いてある点。この手の注意書きでよくあるのは「この物語はフィクションです。実在の人物、団体名等とは関係ありません。」という文章ですが、なにしろこの作品は地獄や天国が舞台。死後の世界は誰にも分かりません。実在するかもしれませんヨ?

鬼灯の冷徹 壱

『鬼灯の冷徹』を試し読みする

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