『ゴールデンゴールド』人間の欲望を描くサスペンスを徹底解説!【ネタバレ注意!】
止まった時間の中で活動できる人々の戦いを描いたファンタジー『刻刻』が高い評価を得た堀尾省太先生が、現在連載中の『ゴールデンゴールド』。得体の知れない「フクノカミ」が現れたことによって、どんどん豊かになっていく島を舞台に、人間の欲望を描いていくサスペンスです。本作の特徴は、のどかな日常の中にじわじわと広がっていく富への執着と恐怖。その魅力を、書店員が徹底解説します!
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※当記事に記載の内容は全て「ぶくまる編集部調べ」です。また、当記事には一部ネタバレを含みます。
『ゴールデンゴールド』 1~6巻 堀尾省太/講談社
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『ゴールデンゴールド』のあらすじ
瀬戸内海に浮かぶ「寧島(ねいじま)」。そこに暮らす中学2年生の早坂琉花は、海辺で木彫りの置物を拾います。いわくありげなそれを捨てることができず、山のほこらに納めてお祈りをした琉花でしたが、なんと次の瞬間、置物が立ち上がって、彼女を追いかけてきたのでした。
その異形の正体は、江戸時代に島を繁栄させたという”フクノカミ”。現代に甦ったフクノカミによって、琉花の祖母が営む民宿と雑貨店は、いきなり繁盛していきます。それをきっかけに、人々が平穏に暮らしてきた島の様子が少しずつ変化していくことに。琉花の祖母を筆頭に、島の人々はさらなる富を求めて行動がエスカレート。血なまぐさい暴力事件も起こり始めます。
一方の琉花は同級生の及川への片想いを募らせ、その恋模様も並行して描かれることに。人々の夢をかなえるフクノカミを巡って、子供から大人まであらゆる島民を巻き込んだ狂想劇が始まります。
『ゴールデンゴールド』の登場人物
早坂 琉花(はやさか るか)
主人公。中学2年生。福山市で両親と暮らしていましたが、人の心の動きに敏感すぎることが原因で、クラスメートとうまくなじめず、登校拒否に。環境を変えるため寧島に転校してきて、今は祖母と二人暮らしをしています。同級生の及川に片想いをしていて、オタクの及川に話を合わせるために漫画を読んだりアニメを観たりする、青春ド真ん中の中学生です。
期せずして、フクノカミ復活のきっかけを作ってしまい、物語の中心的な存在になるのが琉花です。どうやらフクノカミは、彼女の願いをかなえるために行動している節があり、全キャラクターの中で最もフクノカミとのつながりが深いのですが、琉花自身は穏やかだった祖母がバリバリの実業家に変わってしまったことを心配し、その原因であるフクノカミを島から排除する方向へと向かっていきます。
早坂町子(はやさか まちこ)
65歳。琉花の祖母で、琉花からは「ばーちゃん」と呼ばれています。寧島で民宿と雑貨店を経営。しかし、民宿は開店休業状態で10年間も宿泊客がゼロという状態が続いていました。しかし、フクノカミが宿泊客としてやって来たことで、運気が急上昇。自らの事業を拡大するとともに、互助組織の「寧強会(ねいきょうかい)」を立ち上げ、島の経済発展に乗り出します。
フクノカミと密接に関わることで、最もその影響をダイレクトに受けているキャラクターです。フクノカミとシンクロすることで、顔がフクノカミ化することもしばしば。ストーリーをぐいぐい動かしていく、本作のキーパーソンです。
黒蓮ハネル(くろはす ハネル)
取材と執筆のため、東京から寧島にやってきた30代の小説家。ばーちゃんの営む「民宿早坂」の、10年ぶりの客となった女性です。小説家の目で、ばーちゃんを始め、島の人々の行動を見つめ、フクノカミの正体について、推理を巡らせることに。作家ならではのネットワークや観察眼を持つ彼女がいることによって、フクノカミの歴史的な背景や、能力の特徴などが、我々読者にも分かりやすく伝わってきます。
琉花にとっては、今、島で起こっている事態を冷静に語り合える唯一の存在。琉花は黒蓮の協力を得て、ばーちゃんをフクノカミの呪縛から解放しようとします。
青木(あおき)
黒蓮に同行する編集者。フクノカミを目撃し、これはスクープだと鼻息を荒くします。しかし、東京に戻るときれいさっぱりフクノカミのことを忘れてしまうことに。ここにもフクノカミの秘密が隠れています。
及川(おいかわ)
中学2年生。琉花のクラスメートで、片想いの相手です。卒業後は大阪で働く父と同居し、向こうの高校に進学する予定。「父の家はアニメイト大阪日本橋店までチャリで5分だ」と目を輝かせるような、オタク少年です。その分、リアルな女の子の気持ちには鈍感で、琉花の恋心には全く気づく気配がありません。
ストーリーが進むと、及川もフクノカミの影響を受けることに。なんと大好きだったアニメや漫画に見向きもせず、勉学に励むようになっていきます。
ハルオ
ばーちゃんの経営する「早坂商店」の店員。頭は良さそうではありませんが、気のいい青年です。
茶虎兎斗(ちゃとらうと)
東京在住の歴史小説家。歴史談義が大好物のおじさんで、酒も大好き。普段はまともですが、酔うとセクハラ発言を連発します。黒蓮からの連絡を受けて、寧島の歴史について調べることに。物語の中で、とても有益な情報をもたらしてくれるキャラクターです。
酒巻海人(さかまき かいと)
警察官。寧島の隣に位置する向島で、刑事課に所属しています。とある事故の調査で、寧島を訪れ、フクノカミの謎解きに噛んでくることに。出身は東京で、マザコンの気があり、実家のママとの電話を欠かしません。
岩奈英男(いわな ひでお)
寧島唯一のスーパー岩奈屋のオーナーです。客足を伸ばしてきた早坂商店を偵察に訪れるなど、早くからばーちゃんをライバル視します。早坂商店がコンビニになり、ますます繁盛してくると、同級生の土建屋を使って、あからさまな嫌がらせを始めます。しかし、やり方が稚拙過ぎて、ばーちゃんの商売敵としては力不足でした。
早坂優香(はやさか ゆうか)
福山市に住む、琉花の母。黒蓮にフクノカミの存在について聞かされますが、もちろん信じようとはしません。しかし、島を訪れたとき、ばーちゃんの家で……。しっかりした大人の女性ですが、SNSでは女子中学生になりきっていたりします。
草田暁(そうだ あきら)
4巻から登場する相場師。かつては兜町でブイブイ言わせていたらしいですが、今はすっかり落ちぶれてしまっています。他人についた”フク”を見ることができ、偶然出会った琉花に、とてつもない”フク”がついているのを見て驚愕。島を訪れることになります。
フクノカミとは、何者か?
福耳とふくらんだお腹、細い手足、そして無表情が特徴のフクノカミ。いったい、いかなる存在なのか? ストーリーの中で描かれる一片を紹介します!
・元々は、木彫りの置物?
琉花が海辺で発見した、気色悪い置物。琉花は家に持って帰り、水洗いして汚れを落としてやるのですが、そもそもなぜ自分はこれを持ち帰ろうと思ったのかと、疑問に思います。明確には描かれていませんが、そこにもフクノカミの意思が働いていたのか?あるいは他に理由があるのかも!?
・島民には、なぜか人間に見える
琉花の前で動き出したフクノカミ。その後、民宿早坂に現れ、夕食のテーブルに座ります。東京からやって来た黒蓮と青木、そして、寧島の生まれではない琉花は、その光景にびっくりしますが、ばーちゃんは、どうやら小柄な中年男性と認識しているようで、フクノカミを普通の宿泊客としてもてなします。その後も、島民にはなぜか人間に見えるという描写が、繰り返し出てきます。
・画像データが保存できない
現代人として当然のように、フクノカミをスマホで撮影する黒蓮と青木。しかし、画像データはなぜか保存ができません。
・いきなりのご利益
フクノカミがやって来てすぐ、早坂商店は商品がなくなるほどの売れ行き。そして、10年間、客が来なかった民宿にも6人の予約が。
・フクノカミと名づけたのは黒蓮
ミイラ状態の時から福の神のような印象があったフクノカミ。
実際に「フクノカミ」と呼ぶことを提案したのは、そのご利益を目の当たりにした黒蓮でした。
もしあいつがこのままこの家に居続けたら…かなりのお金持ちになるよ 女将さん
という彼女のセリフは、その後、現実に。
・影響を受けた人間に現れる、大きな特徴
フクノカミの力の影響を受けた人間には、ある特徴が現れます。それは一瞬だけのことなのですが、かなり異様。まずは1巻でばーちゃんにそれが出ることに。このシーンはかなりの衝撃があります。
・5巻では、さらに衝撃的な展開が
他にも、ストーリーが進むにつれて、いろいろな能力を見せていくフクノカミ。そのどれもが驚きに満ちているのですが、最たるものが5巻のラスト。ぜひ、震えおののいてください。
『ゴールデンゴールド』の見どころ
・舞台は離島──フクノカミにとって格好の環境
寧島は、瀬戸内海に浮かぶ架空の島。尾道から小さなフェリーに乗って渡り、編集者・青木のセリフによれば、宿がある島としては瀬戸内海で最も小さいとのこと。
たいした観光資源もなく、スーパーは1軒、コンビニはゼロ。外から来る人が少ない中、先祖代々、島民が暮らしてきたという、一種の隔絶された社会。自然に、濃密な人間関係が形成されています。また、派手な事件さえ起こらなければ、島の中で何が起こっているか、外の人間にはなかなか見えにくい環境。だからこそ、フクノカミという怪しい存在が、その力を存分に発揮できるのです。
また、島の伝説もストーリーに絡み、伝奇モノとしての魅力も本作の特徴です。
・じわじわと迫り来る、静かな恐怖
人が豊かさを求めることは当たり前。でも、フクノカミの影響を受けた寧島の人々の言動には、どこか恐いものが。そして、フクノカミ自体が得体の知れない存在で、時に人間に直接、害をもたらすこともあります。淡々とした日常描写の中に滲み出す、じわじわとした恐怖が、本作の特徴です。そのいくつかを紹介しましょう。
①ファーストシーンがショッキング
数多くの屍が血まみれで波打ち際に横たわりカラスに啄まれています。
そこで誰かを探している様子の一人の武士。
いったい何が起こったのか。そして、死んでいる人たちは何故、みんな同じ顔をしているのか。大きな謎が提示されます。
②表情をほとんど変えないフクノカミが恐い
どこを見ているか分からない細い目と、うっすらと開いた口。フクノカミはほとんど表情を変えることがなく、言葉を口にすることもほぼありません。だからこそ、何を考えているか、全く想像できない恐さがあるのです。しかも、飲み物を飲むときのこの仕草。ホント、不気味すぎます。
③フクノカミに操られているようなばーちゃんが恐い
ばーちゃんのセリフは、ときどき、コマの中で色を変えて書かれることがあります。それはまるでフクノカミに言わされている、或いはフクノカミ自身の言葉のよう。こんなふうに、島民たちがフクノカミに操られているかのようなシーンがいくつも登場します。ごく一部の人を除いて、周囲が誰もその異常さに気づいていないのも恐い。
④クリーチャー登場!
フクノカミの力は「特定の範囲にいる人間」に対して有効な「不可思議な影響力」のようなものであり、目に見える力ではありませんでした。
ところが2巻終盤で、海から異様な姿のカニ?を連れてきて物理的なコンタクトによる人間操作を行おうとします。
見た目にグロテスクな使い魔的クリーチャーが登場した事と、この一件の顛末から、これまでとは異質の恐怖を感じさせられることになります。
ちなみにこのクリーチャーはウデムシという全長10cm程の虫がモデルになっています。
作中ほどの大きさではありませんが、かなり大きな虫で、なかなかインパクトがあります。
⑤欲にかられ、人が変わる島民たちが恐い
外から訪れる者がほとんどなかった寧島は、フクノカミの力によって昼も夜もにぎわう豊かな島へ。やがて銀行や企業がその発展ぶりに目をつけ、さらに島には金が落ちてくるようになります。そうなると、フクノカミの影響なのか自然の流れなのか、変わっていくのが島民たちの心。どんどん金儲けにハマって我を忘れていく姿は、本作の一番恐いところかもしれません。
ばーちゃんの「寧強会」は、そんな人々の欲望を吸い取って、どんどん規模を拡大。派手な会合を開くようになっていきます。
・琉花の青春にも注目!
ばーちゃんの活躍が目立つ本作ですが、主人公の琉花も確かな存在感を放っています。そんな彼女の見どころを紹介します。
①物語の中心は琉花の願い
片想いの相手・及川は大阪の高校に進学予定。彼と離れたくなくて、及川が好きなアニメショップが島に建ちますようにと、まだ置物の状態だったフクノカミに願った琉花。
動き出したフクノカミの、一番の目的はどうやら琉花の願いをかなえることのように見受けられます。つまり、ばーちゃんの活躍も島の発展も、すべて琉花のためと考えることが可能なのです。
②琉花vsフクノカミ
しかし、フクノカミの出現によって、ギラギラした女実業家に変わってしまったばーちゃんに、元の優しい姿に戻ってほしいというのが、琉花の気持ち。ばーちゃんを変えたフクノカミとは、対立するようになっていきます。3巻では琉花の思いが爆発します。
③鈍感なオタク少年・及川との恋
アニメや漫画のことならいくらでもしゃべれるけれど、日常の話題ではほとんど会話が成立しない琉花と及川。中学生ならではの微妙な恋模様や言葉の駆け引きも、本作の面白さの一つ。及川が鈍感すぎて、琉花に共感して読んでいると、モジモジするというかイライラするというか(笑)。
④琉花が夢に見た、寧島の過去
1巻の冒頭で描かれた惨劇。明らかにされたわけではありませんが、恐らくは江戸時代の寧島と思われます。なぜ、島民は殺されなければいけなかったのか。寧島の過去の出来事が、物語の中で断片的に描かれていくところも注目です。そして、それは琉花の夢という形を取っていることに注目。この江戸時代の女性、どことなく琉花に似ている気が……。
・普通のようで変わった人々
フクノカミの影響によって、登場人物たちが自分の心の中のダーティな部分、欲深い部分を見せていくのが本作ですが、そもそも、みんなちょっとずつ変わった一面を持っています。
①ギャンブル好きな黒蓮
フクノカミの御利益を目撃した黒蓮が最初に考えたのは、フクノカミをパチンコ屋につれていって、スロットで一発当てること。作家としてまともな一面もありつつ、実はギャンブル大好きです。
②黒蓮との約束を、簡単に破る青木
島に長期滞在する黒蓮を残して、東京に戻る青木。フクノカミのことは口外無用という担当作家との約束を簡単に反故にして、スクープにしようと企みます。しかし、東京に戻る間に、フクノカミの影響が及ぶ範囲を出てしまい、島での体験をきれいさっぱり忘れてしまうことに。
③人がいいけど、酒乱の茶虎
歴史小説家の茶虎は、寧島の江戸時代の話を教えてくれる重要な登場人物ですが、なぜか極度の酒乱。黒蓮との電話中もこの酒の注ぎっぷりです。そして酔ってくるとセクハラ発言を連発。作家としては優秀なのかもしれませんが、ダメなオヤジです。
④女子中学生になりすます琉花の母
琉花のおかーさん・優香は、一見まともな大人の女性ですが、SNSでは女子中学生になりすまして、投稿を繰り返しています。アカウント名は「YOU香2」。でも、誰に迷惑をかけているわけではなく、趣味の範囲と言っていいかもしれません。
⑤フクが見える相場師・草田
他人についているフクが見える草田。彼もまた、変わった登場人物です。寧島には一発逆転を夢見てやってきたのですが、6巻の段階ではまだ、フクノカミに取り入ることも対抗することも出来ずに、傍観者のままという状態。このまま指をくわえて見ているだけなのか、何かアクションを起こすのか、気になる人物です。
6巻での急展開と、今後の予想
5巻のラストから6巻にかけて、急展開する本作。寧島はますます発展し、それとともに島外の人間や住民同士のトラブルも表立って出てくるように。経済的に豊かになったのは確かですが、人々の心は荒廃してきているようにも感じられます。
人々の欲望や思惑が複雑に絡み合ったのに合わせて、フクノカミも、今までとはやり方を変えることに。それが5巻ラストの展開で、6巻以降は完全に新たなフェイズに入ったと言えるでしょう。このまま島は発展を続けるのか、それとも江戸時代にあったような破滅が訪れるのか…!?
作者の堀尾先生は、物語のラストをいくつか用意しているが、どれにするかはまだ決めていないとのこと。予測のつかないストーリーは、ここからが本番です!