本当に春海は幸せ者だ…。
原作小説、これまでの漫画の巻。いずれを読んだ時も思った事ですが、渋川 春海は幸せな男です。
それは碁や数学、天文への才能に恵まれているという事ではなく。国家の大事業に抜擢されたからでもなく。
ただ彼の事を認めてくれる人、支えてくれる人、背中を押してくれる人に満ちているか
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国家の期待を一心に背負った改暦の儀「三暦勝負」に敗れた。
何という挫折。何という絶望。
とにかくこの漫画・作品の優れた所は、春海の内心描写と表現が上手いと言う点にあります。先の挫折と絶望が丁寧かつ陰鬱に描かれており、立ち上がる事すらできない「無念さ」を際立たせています。
誰しもが挫折を味わい、絶望した事があるのではないでしょうか。そこから立ち上がる事はできたのでしょうか?
絶望も挫折もその人だけのものですから、他人がその軽重をとやかく言うことはできません。しかし、春海の絶望の深さはヒシヒシと感じられるのです。ここから立ち直る、新たな試みに立ち向かうのはどれほどの勇気が必要なのか…。
そこに現れる、天才・関 孝和。
これはまさに鮮烈。
強烈なキャラクター、そして有無を言わせぬ圧倒的な語彙、迫力。
確かに、これは春海を奮起させるに足る人物だと言えます。巻末コメントで作画の槇えびしさんも言っていますが、彼はこの作品におけるヒーローとも言える存在感があります。
この関と春海の間で交わされるやり取りの熱い事!
憧れの存在である関からの叱咤激励、そして共感…まさに心が震える思いです。
そう、先に春海が幸せだと書いていますが、逆説的に関や道策の孤独や無念を描く事で、唯一無二の才能を持つ彼らの姿と対比、春海がいかに恵まれているかを描ききっています。
そして同時に、彼らもまた、春海に共感する事で何かの癒しを得ているのだ、という事も。
新たに改暦の儀を目指す春海のはつらつとした姿。そしてそれを取り巻く人々の楽しそうな姿。…本当に幸せな事です。
後はもう走り続けてそれを成すのみ。最終九巻が楽しみです!