突然いなくなってしまった夫・良太を探すために鎌倉から江戸へやってきたはな。だが疲労と空腹で往来で倒れてしまう。
小石川療養所へ運ばれたものの病気ではないため帰れと言われたところを御薬園同心・岡田弥一郎の伝手で一膳飯屋<喜楽屋>で住み込みにて働かせて貰えることに。
一人で店を切り盛りしていた女将おせい
...続きを読むと共に客たちとも打ち解けて行くのだが…。
表紙のはなのイラストイメージだと随分と可憐な娘のようだが、読んでみての印象はかなり違う。
三十手前の、当時で言えば女年増、背が高く、太っているわけではなさそうだが農作業で鍛えられた体はガッチリしていそうで、何よりも大食い。そこがこの年までなかなか嫁の貰い手がなかった所以なのだが、更に言えば無鉄砲、考えるよりもまず行動というちょっと困った女性なのだ。
そもそも夫・良太との出会いもかなり危なっかしい。
伊勢への抜け参りの帰りだという旅人の触れ込みで現れた良太を、様々な事情が重なったとは言え一人暮らしの家に泊めることになり、そうしてしばらく過ぎるうちに夫婦仲になって…という具合。
この良太がどうも素性を隠している様子なのだが、うすうす感じているはなも惚れた弱みでそこを突っ込めない。
そうしているうちに良太が『もう一緒に暮らせない。おれのことは忘れて、誰かいい男を見つけてくれ。幸せになれ』という置き手紙を残して去っていくのだ。
この良太のやり方が気に食わない。一番いけないやり方だ。こんなことされたら、はなは良太にますます未練たらたらになるだけではないか。どうせ去らなければならないのなら、クズ男の振りでもして嫌われて去っていくとかすれば良いのに。
そこから江戸へやって来るはなのその後の行動も、とにかくやってみよ~という感じで結構ハラハラさせられる。
療養所で『飯を食っていけ』と言われたもののいつまでも食事が出てこないもんだから勝手に台所に入り込んでそこにあるおむすびを全部食べてしまったり、御薬園というお上の大事な薬草を育てている畑にズカズカ入っていったり。
互いの好物や嫌いな食べ物を言い出せない夫婦や迷子の親探しに奔走するはなも猪突猛進だ。
御薬園同心の弥一郎が仏頂面だけど実は良い人っぽいし、<喜楽屋>女将のおせいもお世話好きの良い人だし、療養所の台所人や<喜楽屋>の常連客たちも良い人だから何とかなっているけれど、自身番の役人たちみたいに『めんどくせえな』と思っている人々も結構いそうだ。
とは言え、逆に言えば素直だし嘘はつかないし、大食いではあっても意地汚くはないし、むしろ清々しいと言えるかも。
このはなのキャラクターを肝っ玉姉さんみたいで良いな、と思えるか、鬱陶しいなと思えるかで評価が分かれそうだ。
そして肝心の良太。
なんとなくそういう素性なのかなと思っていたら終盤やっぱり。だがはなとの再会は先になりそうだし、なぜ失踪したのかも分からないままだ。
シリーズはすでに五作目が出ている。ということはこのまま良太の謎はチラチラと見せつつも引き伸ばしということだろうか。
個人的には弥一郎の方が良い人に映るが、まぁどちらにしても士族と農家の娘ではこの時代、無理な結びつきだしどんなオチが待っているのか。
とりあえず、第二作も読んでみてからシリーズを追っていくかを決めることにする。