前作から8年近くの時をへて2021年5月に出たばかりの、七重町シリーズ最新刊。
……といっても、わたしはSFマガジンを通じて、倉数茂さんを知ったばかりなわけだけど。
著者自身もインタビューで語っているように、今作は、「七重町シリーズ」とはいっても「仕切り直し」の1作で、滴原兄妹はやや背後に退いてい
...続きを読むる。それでも美和はやはりこの世ならぬものを見てしまい、そこから物語がはじまる。
美和が第1発見者となった殺人事件を捜査するのが、主人公である盛岡県警の若手刑事、麻戸で、本作はテンポのいい警察小説になっている。地元警察とのめんどくさいやりとり、コンビを組む上司との確執、マスコミにリークされた責任を負わされての謹慎、など、いずれも「警察小説あるある」かもしれないけど好感の持てるリアルな主人公なので、入れこんで読める。
そして麻戸は、この謹慎期間中、事件に別角度から光を当てることを思いつき、その結果、思いがけない社会問題と葬り去られた過去の悲劇が浮上する。
“浮上する過去の歴史"というのがこの七重町シリーズのひとつの肝なのかな。前作『魔術師たちの秋』ではそこらへんが少しごちゃごちゃして印象に残りにくかったけれど、今作は主筋がくっきりと心に刻みこまれて、サイドストーリーである美和の体験もそこにきちんとからんでくるので、とてもよい。一気読みできて、しかも頭にくっきり残る本でした。