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世界のすべてを陰でコントロールする組織の存在を知ってしまった男は!? マット・デイモン主演の同名映画の原作をはじめ、デビュー作「ウーブ身重く横たわる」、初期の代表作「にせもの」(映画化名『クローン』)から、中期・後期の傑作。さらに1972年執筆の幻の短篇「さよなら、ヴィンセント」を初収録。ディックが生涯にわたって発表した短篇に、エッセイ「人間とアンドロイドと機械」を加えた全13篇を収録する傑作選。
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Posted by ブクログ
ディック好きなら迷わず買うべし。内容は既に他の短編集におさめられたものもあるが、小品「さよなら、ヴィンセント」や、講演の原稿でありかなりヤバい内容の「人間とアンドロイドと機械」など、ファンとしては押さえておきたいものが収録されている。「人間とアンドロイドと機械」はディックが「アンドロイド」をどんな視...続きを読む点で見ていたのか分かる一方、彼自身を少しずつ蝕みつつある狂気も垣間見えて興味深い。
近未来・異世界の描き方ではディックは随一である。キングとディックで描かれる歪んだ、変節した日常以外に他の作家はいったいどれだけのオリジナリティを発揮できるのか。
今回この短編集を購入したのは表題作である「アジャストメント」を読むためではなく(同作ももちろん面白いのですが)、巻末に収録されたディックの講演原稿「人間とアンドロイドと機械」を読むためです。 「人間とアンドロイドと機械」は、遺作となったヴァリス三部作の執筆中にディックがイギリスで行う予定だった講演...続きを読むの原稿に加筆したもの。体調不良のためディックが渡英を中止したためこの原稿が残された唯一のものとなりました。 ディックが終生作品のテーマとして持ち続けた「アンドロイド」という概念が一体何を意味しているのか。またディックの作品に共通してみられる記憶の改変、真実の隠蔽といったモチーフについてもディック自身の言葉で語られており、少しでも彼の作品を面白いと思ったことのある方なら必読です。 後半、ディックの語り口はかなりオカルトめいてきます。デュオニュソス、エッセネ派、死海文書、転生、夢といった言葉が、まるでカルト宗教の教祖が語るような口調で綴られており、これを読まれた方は「果たしてディックは正気だったのだろうか?」と感じるかもしれません。当時のディックは友人の死やドラッグ中毒などでかなり精神的においつめられており、その表れと受け取る方がいても不思議はありません。 しかし、私はこの部分に晩年のニーチェが書いたものとの強い関連を感じます。「私はインドにいた頃は仏陀でしたし、ギリシアではデュオニュソスでした」というあれです。ディックはユングに深く傾倒していたことで知られていますが、おそらくユングを通してニーチェを知り、それを引用した可能性が高いのではないでしょうか。ニーチェ、またその影響を受けたルドルフ・シュタイナーらの著作をフィルターとして読むとオカルト的要素の出所がはっきりしてきます。 ニーチェの晩年とディックが死の直前に置かれた状況はある意味よく似ています。ディックがニーチェに同一化しつつ、意識的にこの原稿を書いたということは十分に考えられると思います。
映画「アジャストメント」「クローン」の原作短篇を収録した短篇傑作選。現実と虚構の狭間をスリリングに描くディックらしい筆致は短篇でも変わらず。いささかシュールだったり、ブラックユーモア的な、ラストがスッキリしない作品も多かったが、そこは好みの問題で、どれも設定が秀逸で引き込まれるのはさすが。映画化され...続きを読むた「アジャストメント」と「にせもの」のサスペンス感が面白く、映像化したくなるのもわかる。個人的にはやはり後半の「父祖の信仰」「電気蟻」「凍った旅」がお気に入り。とくに「凍った旅」。主人公の、すべてをネガティブな解釈に捻じ曲げてしまう神経症的な陰キャっぷりには(どこか共感しつつ)笑ってしまった。夢を繰り返す長い月日の間に現実がつかめなくなっていく感覚には何か深いものを感じて、記憶と人生について考え込んでしまう。 最後に収録されているエッセイはディックを知る上でかなり重要なものだと思うが、難解なため今回は流し読みした。
「にせもの」のスリル、 「おお!ブローベルとなりて」「ぶざまなオルフェウス」の黒い失笑、 「さよなら、ヴィンセント」の切なさが、特にも印象的だった。 小説ではなく、著者の論考である「人間とアンドロイドと機械」も収録されていて SFを通じて著者が何を熟考し、表現したかったのかが、ひしひし伝わる。 書く...続きを読むことは戦いであり探究、という印象を得た。 「ペンと剣」という言葉を思い出した。
このブラックな感じがなんとも言えない作品。短編集ということもあり、気に入った作品も、苦手な作品も半々といったところでした。とはいっても、これは海外SFがまだ二回目なので楽しみ方がまだ手探り状態ということにも起因しているとは思いますが…。 個人的には、「ウーブ身重く横たわる」「にせもの」「電気蟻」「凍...続きを読むった旅」がお気に入りです。 特に「電気蟻」のアンドロイド?ロボット?の仕組みは最近のSFには絶対出てこないものだったので新鮮で興味深かったです。
やばい!ディックの悪夢世界から抜けられない・・・ でも、著者の「短期間で量産した」とまで言われる膨大な短編はどんな感じなのだろう?ということで読んでみる。 ここにもあるある!50年代の短編には見られない、精神分裂症的な影が60年代に現れてきているのです。自分が本物であることを信じきっている「にせ...続きを読むもの」って今の我々にも悲しく重苦しく響くものがあります。じゃ、本物って何よと開き直る現代がさらに恐ろしく見えます。 きっとコンピューターの仕組みを理解しないで書いている「電機蟻」も気味の悪さは増すばかり。これって自分の脳をカスタマイズするってことじゃないですか! 必ずや発狂する「凍った旅」。傑作です。 う~ん、しばらく抜け出せない・・・
ブラックユーモアの本場 サイエンスフィクションと古典文学の風潮とアメリカ現代社会の英語の潮流、社会的風潮、、、潮? 『人間とアンドロイドと機械』…SF作家のユニークな考え方、隠れた名著、小論文に
初ディック(正確には、『きょうも上天気』で一編読んだのが最初)。映画『アジャストメント』を観たことをきっかけに手に取ってみましたが、すごく読み応えがありました。とはいえ、表題作「アジャストメント(「調整班」改題)」は、映画にとってはほとんど原案程度みたいですね。 特におもしろかったのは「ウーブ...続きを読む身重く横たわる」、「にせもの」、「ぶざまなオルフェウス」です。 「ウーブ…」は高度な知性を持った宇宙豚の話。人間てどうしてこんなバカなことするんだろう…という落ち込みから一ひねりあるラストにぞくっとしました。 「にせもの」は自分という存在や記憶のあやふやさ、それを証明することの難しさがテーマ。すごく心許ない気分になり、あとを引きます。 「ぶざまなオルフェウス」はこの短編集唯一のコメディ。作家から霊感を奪う「逆ミューズ」になってしまう主人公が哀れだけれど、けっこうありそうな話かもしれない。 総じて一言「好き」とは言いづらいけれど読んでいていろいろ考えるし、惹きつけられる話ばかりでした。ディックの他の作品も読んでみたい。『ブレードランナー』大好きなので、やはり『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』からかな。 しかし早川書房って、こういう良書をきれいな装丁で出してくれるところは本当に好きだけど、映画業界に軽々しく迎合してタイトルを換えちゃったりするところは嫌いだ。「調整班」のままにしておけばいいのに。
〈私〉という存在は何か魂みたいなものがあって、生まれた時から存在するものではない。生まれてからの経験や思考を記憶として積み重ねていく、その積み上がった現在までの記憶の総体が〈私〉として認識されているだけなのだ。 とすると、自分の記憶は本物の記憶なのかという疑問は、〈私〉の存在自体をおびやかす疑問で、...続きを読む本作に収録されている「にせもの」や「電気蟻」は〈にせものの記憶〉がテーマになっていて読み終わっても、う~んと考え込んでしまって答えは出ないんだけど、その考え込むという行為を誘発させる読書というのは非常に贅沢。他にも「父祖の信仰」での共産主義の描き方はなるほどと思えるものがあるし、「凍った旅」は非情な状況の中での救いみたいなものがあってその他の作品とはちょっと違うし、どの作品もすばらしい。 マット・デイモン主演映画の原作「アジャストメント」は設定が同じで内容はまた別物っぽいので映画観た人でもまた楽しめるかも。
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