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マンガで職業探訪 第1回「宇宙飛行士」

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post-102選ばれし者しかなれない夢の職業に、スリルいっぱいの危険な職業。誰しも、「一度はやってみたい」と空想にふけった憧れの職業があるのでは? そんな知られざる仕事の中身を、マンガを通して知るのがこの連載「マンガで職業探訪」です。

第1回のテーマは「宇宙飛行士」。

フィーチャーするのは、アニメ化・映画化もされ、今や国民的コミックとなった『宇宙兄弟』です。主人公・南波六太が、一度は諦めた宇宙飛行士の夢を再び追いかけるというストーリー。最新の連載では、宇宙飛行士となった六太が念願の月へいよいよリフトオフ! 物語は最高潮に達しています。

今回はこの作品を通して、倍率100〜200倍超えは当たり前という、宇宙飛行士選抜試験の実情に迫ります。人間の本質がリアルに見えてくるような、過酷な試験の内容とは?

選抜受験者に突きつけられる選択

これまで、現実の日本でも計5回開催された宇宙飛行士の選抜試験。最も倍率が高かった第3回の倍率は572倍といわれており、その過酷な選抜を生き残り、見事、宇宙飛行士となったのが野口聡一さんです。

『宇宙兄弟』序盤のハイライトとなるのが、完全閉鎖環境で行われた第三次審査。宇宙ステーションの一室を想定した密室の中で、無作為に選ばれた受験者5人がチームを組み、2週間一緒に過ごすというものです。

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過ごすといってもただ無目的に生活するのではなく、「ランニングをしながらモニターを見て暗算をする」など、さまざまな課題が与えられます。この試験の最大の目的は、「2週間の最終日に、5人の中から2人だけ、宇宙飛行士にふさわしい人を選ぶ」というもの。

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受験者の誰もが、選ばれたいのは自分自身。ふさわしい2名を選出するため、課題の成績をもとに点数制で順位をつけるなど、目に見える結果で決めようとする者も現れます。逆に、成績が芳しくない受験者の不安は、どんどん募るばかり。

人間不信に? 受験者の心を苦しめる不可解な事件

そして、関係がギクシャクしたチームに、最大の試練が訪れます。六太の友人・ケンジのいるチームでは、みんなが寝静まった深夜、突如としてアラームがけたたましく鳴るという謎のトラブルが発生。犯人はチームの誰かか? トラブルは数日間続き、犯人探しに躍起になるチームの雰囲気は、疑心暗鬼で最悪の状況に。

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犯人を見つけ出そうと、ケンジが起きて見張っていたにも関わらず、どういうわけか四方八方からアラームの音が聞こえてくるのです。

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一方、主人公・六太のいるチームでも、突如として室内にあった唯一の時計が破損。密室環境でなぜ? 不安とストレスが膨張していきます。

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実は六太、たまたま犯人を見ていました。時計を壊したのは、今試験の最年長参加者、福田さん。

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善良な福田さんがどうして? 六太は思いきって、二人きりになったタイミングで「なぜあんなことをしたんですか?」と福田さんを問いただします。彼の口から出た言葉は……。

「さあ…なんでだろうね」

「もし君がその理由に気付いたら その時は握手でもしよう」

この福田さん、理由なく不可解な行動を取っているわけではありません。なんのことだか分からず、六太はさらに思い悩むことになります。その答えはぜひ、コミックスで確認してみてください。

「結果」ではなく「過程」を知ることが目的

そもそも、この試験の本当の目的は、優秀な成績を残すことではなく、次々と起こる問題に対して受験者たちがどう対処していくのか、そして宇宙飛行士にふさわしい人間をどう選ぶのか、「過程」を浮き彫りにすることにあります。試験を主催するJAXA(宇宙航空研究開発機構。実在する宇宙研究機関)は、その「過程」を見定めていたのです。

実際の宇宙飛行士選抜試験でも、「アクシデントがあって食事が届かない」「すべての打ち合わせを英語でしなければならない」など、マンガほどハードではないにしても、受験者たちのストレスや不安を揺さぶるような課題が出されるそうです。人は過酷な環境下に置かれると、普段では考えられないようなイージーミスを連発してしまうもの。同じような場所に放り込まれたら、落ち着いて物事を考えらないですよね、きっと。

こうした揺さぶりに耐えられるハートの強さ、そして冷静さを兼ね備えていることこそが、宇宙飛行士の基本条件と言えるのかもしれません。

 

宇宙兄弟 オールカラー版

『宇宙兄弟 オールカラー版』 小山宙哉 / 講談社

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