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新時代のグルメ漫画?『ゴールデンカムイ』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は、「マンガ大賞2016」大賞 受賞作の『ゴールデンカムイ』をレビューします。作者は野田サトルさん。集英社の青年漫画誌『週刊ヤングジャンプ』に連載されており、単行本は本稿執筆時点で7巻まで(電子版は6巻まで)刊行されています。

ゴールデンカムイ 1

『ゴールデンカムイ』 1~6巻 野田サトル / 集英社

★2024年1月18日 追記★
2024年1月19日より実写版映画『ゴールデンカムイ』が公開!山﨑賢人が主演を務めるほか、山田杏奈、眞栄田郷敦、矢本悠馬、玉木宏、舘ひろしら、今注目の若手俳優から実力派俳優陣まで個性豊かなキャストが大集結。
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ゴールデンカムイ

冒険×歴史×狩猟

本作の舞台は、明治時代末期の北海道。日露戦争で武功を上げ、“不死身の杉元”と呼ばれた元軍人で、全身傷だらけの男が主人公です。戦場で死んだ親友の最後の願いを叶えるため、一攫千金を夢見て砂金を掘りに北海道へやってきました。そこで彼が耳にしたのが、網走監獄の死刑囚たちが隠した莫大な埋蔵金の噂です。

脱走した死刑囚たちには、隠し場所の暗号を記した入れ墨が彫られています。全員分を集めないと、暗号は解読できません。杉元はもちろんのこと、死刑囚自身や、軍関係者など、さまざまなヤツらが埋蔵金のため、入れ墨の人皮争奪戦をする……というのが本作のメインストーリーです。

そしてこの主軸に対し、これでもかと言わんばかりに、さまざまな副次要素が投入されています。北海道の大自然、銃撃、剣戟、肉弾戦といった「冒険」要素。松前藩だった幕末から明治後期にかけての「歴史」と、アイヌ民族。そして、ヒグマやオオカミといった野生生物の「狩猟」と料理です。

やたらと旨そうな料理の絵

「狩猟」要素は、ただ動物を狩るのではなく、料理と直結しています。例えば、チタタㇷ゚ (ㇷ゚ はアイヌ語の小書きフに半濁点)というアイヌ料理。「我々が 刻む もの」という意味で、新鮮な肉を叩いてミンチにしたものです。本来は生で食べるものらしいのですが、初出時はシサㇺ(ㇺはアイヌ語の小書きム・和人の意味)の杉元が食べやすいようにと、丸めてオハウ(汁物)に入れた状態の鍋として描かれます。要するに肉のつみれ汁です。これがまた、やたらと旨そうな絵なのです。

登場人物たちは、食事に感謝する「ヒンナ」という言葉を発しながら、実に旨そうに食べます。リス、ウサギ、クマ、カワウソ、ウマ、シカ、ニシン、シャケ、イトウ、シャチ、クジラ、アザラシなど、さまざまな動物が料理されます。シリアス展開が落ち着いたときに、スッと出てくる料理の絵。お腹が空きます。これは新時代のグルメ漫画と言っていいのではないでしょうか。

アイヌの少女に教わる北海道

その旨そうな料理を杉元にごちそうするのが、アイヌの少女アシㇼパ(ㇼはアイヌ語の小書きリ)です。杉元がヒグマに襲われたとき、偶然通りがかって毒矢で助けてくれます。脱走した死刑囚たちに父親を殺されており、杉元の埋蔵金探しを手伝うことになります。日本語が堪能で、北海道の自然や動物、アイヌの風習などについて、杉元(と読者)に解説してくれます。

例えば、ヒグマは一度人を殺すと、人間を恐れない凶暴なウェンカムイ(悪い神)になり、テイネポㇰナモシㇼ(ㇰとㇼはアイヌ語の小書きクとリ)という地獄に送られるそうです。また、猟で捕らえた子グマは村で大切に育てて、大きくなったら伝統儀礼で神々の国へ送る、という風習もあるとか。すべてをカムイ(神)として敬う、アイヌの信仰です。

まさかの元新撰組・土方歳三

「歴史」要素でゾクッとさせられるのが、元新撰組・土方歳三の登場。史実では戊辰戦争の最後、五稜郭の戦いで死んだはずの彼が、本作では生き延びていたのです。ロマンがありますね。本作の舞台は日露戦争終結直後なので、ポーツマス講和条約が結ばれた1905年(明治38年)9月以降の話。土方の生年は1835年(天保6年)なので、作中での登場時は70歳前後ということになります。刀を振り回す、白髪の老人です。

新撰組ではもう一人、永倉新八も登場します。剣の腕前では一番と謳われた男です。史実では近藤勇や土方歳三との路線対立で袂を分かち、のちに小樽へ移り住み剣術を教え、大正まで生きていたそうです。そんな彼が本作では、土方歳三とともに埋蔵金を狙っています。おっかない老人コンビです。渋い。

動物、自然、そして同じ人間との戦い

そして「冒険」要素。いきなり襲ってくるヒグマなどの野生動物はもちろん、寒さや水の冷たさといった自然そのものも、人間には脅威です。マイナス30度の寒気に襲われ、川に落ち、すぐに火を起こさないと死ぬ! というシーンは、なかなか緊迫感があります。

しかし本作を読んでいると、人間にとって最も身近な脅威は、同じ人間なのかもしれない、という気がしてきます。冒頭に出てくる日露戦争のシーンはもちろん、本編の埋蔵金を巡った争いでも、銃や剣であっけなく人が殺されていきます。そりゃもうバタバタと、人が死んでいきます。

欲に目がくらんだ人間の、恐ろしさと愚かさ。そして、自然と寄り添い生きる優しいアイヌたち。そのコントラストが見事な作品です。

ゴールデンカムイ 1

『ゴールデンカムイ』を試し読みする

★2024年1月18日 追記★
2024年1月19日より実写版映画『ゴールデンカムイ』が公開!山﨑賢人が主演を務めるほか、山田杏奈、眞栄田郷敦、矢本悠馬、玉木宏、舘ひろしら、今注目の若手俳優から実力派俳優陣まで個性豊かなキャストが大集結。
ブックライブでは映画公開を記念して原作マンガキャンペーンを実施中【1/15(月)~1/31(水)】
ゴールデンカムイ

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