『不滅のあなたへ』とは? 不死の存在「フシ」をめぐる旅と闘いの物語【ネタバレ注意】
『聲の形』の大今良時先生が描くファンタジー『不滅のあなたへ』。最初は小さな球体として登場し、石のような無機物から人間まで、さまざまなものに姿を変えていく不死の存在「フシ」を主人公にした、壮大な物語です。
さまざまな土地に赴き、数多くの出会いを果たす「フシ」。そこでは戦いがあり、愛があり、別れがあり、再会があります。そうやって人々と深く関わるごとに、「フシ」は自らの中に人間らしい心を作り出していくのでした。大今先生ならではの温かさと切なさに満ちた本作を、ネタバレありで紹介! 物語の中に隠された謎を検証します!
※当記事に記載の内容は全て「ぶくまる編集部調べ」です。また、当記事にはネタバレを含みます。
『不滅のあなたへ』作品紹介
- 『不滅のあなたへ』 1~12巻 大今良時 / 講談社
- 『不滅のあなたへ』を試し読みする
『不滅のあなたへ』のあらすじ
何者かによって、世界に投げ入れられた一つの「球」。それは、ありとあらゆるものの姿を写し取って変化できる能力を持っていました。最初は石に、続いてコケになった「それ」は、次に死んだレッシオオオカミの姿に変化。初めて意識を得ます。
やがてオオカミとなった「それ」は、一人の少年と出会うことに。オオカミの飼い主だった少年は「それ」をジョアンと呼びます。誰もいなくなった村で一人暮らしをしていた少年は、大人たちが向かった「楽園」を探して旅立ちますが、途中で怪我をして、結局は村に戻ることになってしまうのでした。その怪我が悪化して少年は死んでしまい、「それ」は少年の姿を得ることに。村を出た「それ」は、長い道のりを経て、人里にたどり着きます。
そうして、後に人々から「フシ」と呼ばれることになる不思議な存在の、長い長い物語が始まるのでした──。
『不滅のあなたへ』の登場人物
フシ
観察者
ノッカー
少年
ジョアン
ここからは、各編に分けてストーリーと登場人物を紹介します。
①ニナンナ〜ヤノメ編
ニナンナは、フシが初めて人間社会に触れた村のある地域。そこの支配を狙う大国がヤノメ国です。
マーチ
パロナ
ニナンナの少女。マーチの姉のような存在で、マーチを生贄の儀式から救うために奮闘します。
ハヤセ
ピオラン
オニグマ
②タクナハ編
タクナハはヤノメの隣国。フシはマーチたちと別れ、ピオランとともにタクナハにたどり着き、新たな出会いを果たします。
グーグー
兄と二人で暮らしていた少年。転がってきた丸太からリーンを救って、顔に大怪我を負い、仮面を被って生活することに。明るい性格で、フシと仲良しになっていきます。酒爺によって、体内に酒を溜め込む内臓を作られてしまい、高アルコールの酒を利用して炎を吐くという技の持ち主です。さらに、料理はプロ並みというスキルも。
リーン
酒爺
シン
③ジャナンダ編
タクナハでもノッカーに襲われたフシは、再び旅へ。ピオランが同行することになり、二人はトナリにだまされて、囚人たちの島・ジャナンダ行きの船に乗せられてしまいます。そこは一度入ったら出ることができない監獄島でした。
トナリ
妻殺しの罪を負わされた父とともに、7歳でジャナンダにやって来た少女。父の死後、同年代の仲間を得て、たくましく生き延びてきました。フシに出会ったのは14歳のとき。フシとピオランをだまして、ジャナンダ行きの船に乗せます。ミツユビフクロウのリガードが彼女の相棒です。
サンデル
トナリの仲間の少年。将来は医者になりたいと考えています。
ナンド
闘技場で開催された島長(しまおさ)決定戦で、フシと対戦した青年。幼い弟のために、島長を目指しました。フシに敗れてからは仲間になっていきます。
ウーロイ
トナリの仲間の少年。体格が良く、優しい性格。仲間を守るために勇敢に戦います。
ミア
トナリの仲間の少女。折り畳みの椅子を常に持っていて、武器として使います。将来の夢は有名な絵描きのモデルになること。
ウーパ
トナリの仲間の中で、最も年少の少女。ジャナンダで生まれ、外の世界のことを知らないまま育ち、太陽がどこから来るか、ずっと知りたがっていました。
守護団
最初にフシの価値に気づいた自分には、それを所有し管理する権利があると考えたハヤセが組織した団体。ハヤセの手足となって行動する、髪で顔を覆った男たちです。
④守護団の継承者たちとの出会い
ジャナンダもノッカーとの壮絶な戦いの場となり、フシは悲しい別れに心を痛めます。そして無人島で40年暮らした後、ノッカーが各地を襲い始めたことで、次の旅へ。そんなフシの前に姿を現したのが、ハヤセの子孫たちでした。
ヒサメ
ハヤセの孫で、守護団の団長になった少女。自分をハヤセの生まれ変わりといい、フシにまとわり付きます。ハヤセが守護団を作って40年。支持者は国一つ分に匹敵する人数まで膨れ上がり、強大な力を持つ集団に育っていました。この後もヒサメの娘オウミ、その娘ウシオ、さらにチスイと、ハヤセの継承者たちがフシの前に現れます。
カハク
ヒサメから数えて6代目の継承者。継承者としては初めての男性です。その頃には、フシはノッカーを引き寄せる悪なる存在として各地でお尋ね者となっていて、守護団も異端視されていました。カハクは歴代継承者が願っても果たせなかった、フシの仲間になっていきます。
左腕のノッカー
ハヤセの継承者たちは、ハヤセが左腕に封じ込めた一体のノッカーを、代々引き継いできました。カハクに至ると、左腕のノッカーを自在に操れるまでになっています。
⑤ウラリス〜レンリル編
ボン王子に捕まるという形で、ウラリス国を訪れることになったフシとカハク。ボンを味方につけた二人でしたが、ベネット教会によって全員が捕らえられてしまいます。なんとか危機を脱したフシたちはウラリスに帰還。その後、レンリルという大陸一の王都を舞台にしたノッカーとの総力戦へと、物語は移っていきます。
ボン王子
ウラリス国の第一王子。本名はとても長いので、省略してボンと呼ばれています。死んだ人の魂(作中でそれは“ファイ”と呼ばれます)を見ることができる特殊な能力を持ち、最初はおバカな王子として登場しますが、やがて重要なキャラクターになっていきます。
トド
ボンの家来。ふくよかな体と穏やかな性格の持ち主で、ボンの椅子になるような、普通の人間には屈辱的な命令にも笑顔で従います。
サイリーラ
フシを異端視するベネット教会の大教督。フシを捕らえることに成功し、出口のない鉄の牢獄に監禁します。
エコ
土器を媒介にして、意思疎通する「土器人」の少女。見世物小屋に囚われていたのをフシが助け出し、仲間になっていきます。
『不滅のあなたへ』5つの謎
数多くの謎がある『不滅のあなたへ』。そのヒントが物語の中に、巧みに入れ込まれています。大きな柱となる5つの謎を、改めて整理します。
①フシとは何か?
「球」の状態でこの世界に投げ込まれたフシ。いったい、どんな存在なのでしょうか?
・文字通り、不死身である
フシは刺激によって、物体の情報を獲得し、それに変化することができます。無機物にも変化が可能で、すなわち生物的な死は変化した状態の一つであるということになり、肉体を再生し意識を取り戻すことが可能です。
・刺激と選択
フシは動物になったときに意識を獲得します。意識によって、かつての刺激を思い出せるようになり、過去に刺激を受けた物に自在に変化できるようになります。もちろん石に戻ることもできますが、意識を失ってしまうと困るので、フシはそれを選択しません。
・服もフシの一部
人間に変化すると、フシは着ていた服まで変わります。それはどういうことか? グーグーがフシの服を脱がそうとするシーンにそのヒントがありました。フシの服は体にくっついていたのです。
・モノを再生できる
刺激を受けたモノになら、なんにでも変化できるフシ。それを体から切り離せば、すなわち物体のコピーとなります。食べ物からナイフや矢といった武器、さらには貨幣まで再生できるので、フシは飢えることも金に困ることもありません。
・変化しないと肉体は成長する
変身をしないまま一つの肉体で暮らすと、肉体は正しく時間を刻み、それ相応に成長するとのこと。無人島に40年いたときは無精ひげにぼうぼうの髪のやさぐれた中年男性風の姿に。しかし、一瞬で若返ることが可能です。
・器
フシが変化できないもの。それは生きている生物です。しかし、それが死んだ瞬間から変化が可能になり、それは「器が空いた」という言葉で表現されます。自分が誰かに変化できたということは、その人が死んだということ。どんなに離れていても、フシはかつて会った人の死を悟ることができ、この設定は物語に絶大な効果を与えています。
②観察者とは?
フシをこの世界に投げ入れ、ずっとその活動を観察している「観察者」。世界の外部にいながらにして、干渉できる存在と推察することができます。
・観察者の目的
観察者の目的とは、「この世界を保存すること」。そして、フシはそのための装置なのだそうです。ここで注意すべきは、「私達には大いなる目的がある」と自分の存在を複数形で語っていること。また、どこにでも自在に現れることができることも描かれています。
・フシ以外の人間には見えない
フシと観察者が話しているところに現れたグーグー。フシ以外には観察者が見えないことが、描かれたシーンです。しかし後に、観察者がフシ以外の人間の前に姿を現すシーンもあり、誰に姿を見せるか、意識的にコントロールしていることが分かります。
・ノッカーの接近を教える
観察者がフシの前に姿を現すとき。多くの場合それは、ノッカーの襲来を教えるときです。また、観察者ははるか遠くの町で起こっているノッカーの出現も察知することができます。
・「私はいずれいなくなる」
ノッカーが、フシにそう予言するシーンがあります。いなくなるというのは、フシがいる世界に干渉できなくなるということか、それとも本当に存在が消えてしまうということなのか、それはまだ不明です。
③ノッカーとは?
フシ、そして観察者の敵となるのが「ノッカー」。これもまた、謎めいた存在です。
・核とツル
核と自在に動くツルがノッカーの本体。ツルはまとまって人間や動物の形を模したり、先鋭化して敵を刺したり、細くなって人間や動物の体内に潜り込んだりします。
・器を奪う
2巻で、初めてフシを襲うノッカー。根のようなモノで体を貫かれたフシは、自分を少年の姿として再生できなくなり、その代わり、ノッカーが少年の姿を得ます。このようにして、フシの「器」を奪うというのがノッカーの最大の特徴。フシは器を奪われると、その存在に変化することも、思い出すこともできなくなるのです。
・“ノッカー”と名づけたのは観察者
「楽園の門戸を叩き 崩壊を目論む存在」だから“ノッカー”、ということのようです。
・学習能力がある
グーグーの炎に焼き払われたノッカーは、次に核に石をまとって出現します。後には、人間の死体に入り込んでゾンビのように操って攻撃してきたことも。さらにフシが無人島から出ようとしなかったときは、他の人間たちを襲ってフシを誘い出します。このように、攻撃方法を学習し、より強力になっていくのがノッカーです。
・カハクの左腕のノッカー
ノッカーに体を奪われた人間は脳を支配され死んでいくのですが、その例外がハヤセとその後継者たち。ハヤセが左腕に封じ込めたノッカーを、代々引き継いでいくのです。6代目のカハクは自在にノッカーを操れるように。しかし、完全にノッカーを制御できてはいないようです。
・ノッカーの目的
7巻には、ノッカーが自らの目的を語るシーンが。なぜ彼らは存在し、フシや人々を襲うのかが明らかになります。そこで、キーとなるのが、“ファイ”でした。
④ファイとは?
本作のキーとなる概念、それがファイです。7巻に観察者がファイについて語るシーンがあります。
この前のセリフで、観察者は「動物を動かすには肉体という器とそれを満たすファイが必要だ」と言っています。ファイはエネルギー体であり、確かに存在しているというのが、本作の世界観。つまり、キャラクターが死んだとしても、そのファイは物語の中に存在し続けていて、それが数々のドラマを作っていきます。
⑤現世編とは?
本作は12巻で「前世編」が終わり、これから刊行される13巻からは第2部「現世編」が始まっていきます。12巻のラストに登場するキャラクターは、それまでと違い、私たちの現実世界にいるような誰か。「現世」でフシは何を見るのか? 「前世」と「現世」はどのようにつながるのか? 全てが刷新される物語に注目です!
『不滅のあなたへ』名セリフ4選
フシを巡って、たくさんの人の想いが交錯する本作。劇中に登場する名セリフ4つを紹介します。
マーチ「大人になるってしっていくってことでしょ?」
オニグマ様に捧げる生贄として選ばれてしまったマーチだからこそ、胸に刺さるセリフです。後に、フシも同じセリフを繰り返すことに。「知ること」とは、フシの存在意義でもあります。
グーグー「オレが死んでも 俺はお前にだけは“想ってもらえる”ってことだろ?」
フシとの友情を深め始めた頃のグーグーの切ないセリフ。この後、グーグーはフシにこれまでの寂しかった人生を語るのですが、そこは涙なしには読めないエピソードです。そして、グーグーはフシのことを「本当の家族みたいだ…」と言います。
フシ「おれ達の親は悪魔かもしれない だけどそんなの関係なくやりたいことはやる そうだろ?」
フシがトナリに言ったセリフ。もしかしたら自分の父は、殺人を楽しめるような悪人だったかもしれないと考えるトナリ。でも親がどうであれ、自分を咎める必要はないのです。また、パロナのセリフに「自分の生き方は与えられるものではない! 自分で勝ち取るんだ!」(2巻p.139)というものも。どのキャラクターも自分の人生に力強く立ち向かっているのが本作です。
フシ「おれはいつだって生きる方に賛成だっ!」
ベネット教会によって囚われの身となったフシとボン王子。フシのことを悪魔の使いだと認めれば、ボンは解放されることに。友達を裏切ることを懺悔するボンに、フシはこう言い放ちます。数多くの大切な人の死を体験してきたフシだからこそのひと言です。
『不滅のあなたへ』の感想
壮大かつ独特の世界観と魅力的なキャラクターに引き込まれた読者からの声をご紹介します!
難しいが奥深い
最初に読んだ時は難しい内容だなと思いましたが、考えれば考えるほど奥が深い作品だなと感じました。
球という存在から、自分を獲得していくという物語。
SFの要素がありながらも、現実の世界にももしかしたら、こういう存在がいるのかも知れないと想像してしまいます。
難しいテーマと圧倒的な画力に引き込まれ、読み応えのある作品です。
無から有へ
現時点での最新5巻までの感想です。
最初は特殊な性質の心なき存在が、様々な出会いや別れ、出来事を繰り返しながら心身共に刺激を経験して、成長していく話なのです。
序盤(今もまだ序盤かも知れないけど)は、心の成長が感情を持つに至るまでは、動くただの人形のようで何とももどかしく物語が進行していきます。
大事な人との触れ合いの中、やがて人間のように感情が芽生え、喜怒哀楽を表現している現在は、ずっと成長を見守ってきたようで微笑ましい限りです。
産みの「親(でいいのかな?)」、唯一の弱点であるかのような存在の「敵」、など気になるものはまだまだあって、今後も読むのが楽しみな作品です。
淡々としているのに心が揺れ動く
無垢な存在がいろいろなものに出会って自己を見つけていく物語で、設定が斬新だと思いました。主人公はほとんど話さずストーリーは淡々と進んでいくのですが人間の弱さや悲しさを感じて泣けます。謎の球の正体や誰が投げ入れた?何のために?など疑問がいっぱいで、これから解明されていくのが楽しみです。絵もきれいで読みやすいです。
これからの『不滅のあなたへ』
漫画はいよいよ「現世編」に突入。そして、2020年10月から、NHK EテレでのTVアニメ化も発表されました。2020年はさらなる注目を集めることになる本作。今のうちに、ぜひチェックしてみてください!