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冒険の終わりから始まる物語『葬送のフリーレン』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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今回は『葬送のフリーレン』をレビューします。魔王を倒した勇者一行の“その後”を、長寿種族エルフの視点で描いた作品です。原作は山田鐘人(やまだ・かねひと)さん、作画はアベツカサさん。小学館「少年サンデー」で連載中、1巻が刊行されたばかりです。

『葬送のフリーレン』作品紹介

葬送のフリーレン

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『葬送のフリーレン』  1巻~ 山田鐘人・アベツカサ/小学館
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この物語は、冒険の終わりから始まる

本作は、魔王を倒した勇者一行が、王都へ凱旋するシーンから始まります。人間の勇者と僧侶、ドワーフの戦士と、エルフの魔法使い。4人のパーティーは魔王を倒し、10年間の冒険を終えたところ。つまりこの物語は、よくあるファンタジー世界を描いていますが、冒険の終わりから始まっているのです。

長編作品完結後のアフターストーリーや、一話完結型シリーズ中での回想シーンなどは珍しくありませんが、完全新作で冒険の終わりから始まるというのは面白い。いろいろな前提をすっ飛ばしているわけですが、設定世界そのものはよくある「剣と魔法のファンタジー世界」なので、あまり違和感なく物語へ入っていくことができます。

長寿種族ならではの時間感覚のズレ

また、主人公がエルフというのも本作の特徴の一つでしょう。我々人間は、長生きしてもせいぜい100年前後で寿命が尽きるわけですが、ファンタジー世界のエルフ種族は、数百年から数千年生きると言われています。本作の主人公・フリーレンが何歳なのかは分かりませんが、勇者一行の中で飛び抜けて長寿であることは間違いありません。

そこには大きな感覚のズレがあります。10年間に及ぶ冒険の旅について、

「短い間だったけどね。」

と述懐したり、50年に一度の流星群を眺めつつ、

「50年後。もっと綺麗に 見える場所知ってるから、案内するよ。」

と軽く言ってみたり、別れ際に勇者から今後のことを尋ねられ、

「100年くらいは 中央諸国を巡る 予定だから。」

と返したり。フリーレンにとっては、10年どころか、50年や100年であっても、些細な時間経過なのでしょう。逆に短命な人間にとっても、数百年から数千年生きる長寿種族の感覚は理解しづらい。そういう感覚のズレがどういう結果を生むのか、心情はどう変化するのかを丁寧に描いた作品なのです。それを少年漫画誌で、しかも連載で、というのがすごい。

もっと人間のことを知っていこう

短命種族であるかつての仲間たちは、一人、また一人と寿命が尽きていきます。フリーレンは表情の変化が乏しく、あまり感情を表に出さないドライな性格のようです。しかし、亡くなった戦友を見送る際、悲しそうな顔を見せない彼女は「薄情」だと陰口を叩かれ、

「…だって私、この人の事 何も知らないし…」

と、泣き出し、もっと彼のことを知ろうとしなかった自分を責めるのです。そして、もっと人間のことを知っていこうと決意します。数百年から数千年生きる長寿種族が、短命種族の感覚を分かろうと努力していく、とも言えるでしょうか。滅多に感情を表に出さない子(?)が、顔をゆがめ涙を流す様は、心を強く揺り動かされます。

タイトルに「葬送」とあるように、フリーレンは死んでいった仲間たちを弔いながら、かつての冒険の足跡を辿っていきます。決して派手ではありませんが、心に沁みる作品です。

葬送のフリーレン

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『葬送のフリーレン』のレビューページ

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