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“カープ女子”ブームの火付け役『球場ラヴァーズ』で人生が変わる!?

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最近、いろんなところで耳にする“カープ女子”。2014年のユーキャン新語・流行語大賞の年間トップテンに選出されるなど、じわじわと知名度を上げている。「なぜ、ほかの球団ではなく“カープ”女子なのか?」という分析は専門誌に任せるとして、ここは「ぶくまる」らしく、“カープ女子”をマンガで学んでしまおうではないか!

球場ラヴァーズ~私が野球に行く理由~ 1巻

紹介する作品は『球場ラヴァーズ~私が野球に行く理由~』(石田敦子 / 少年画報社)。作者の石田敦子さんが、前述のユーキャン新語・流行語大賞の授賞式で表彰されるほど、“カープ女子”の火付け役として認知されているのだ。それもそのはず、連載が始まった2010年は「カープが長く低迷していた時期だったので、カープの漫画なんて隙間産業では、と言われ笑われた」と石田さんは振り返る。“カープ女子”という言葉が使われ始めたのは2013年頃。その先見の明はもちろん、“カープ女子”なるものの存在や生態を方向づけた(?)のも、この『球場ラヴァーズ』なのだ!

主人公は女子高生の松田実央。黒髪の美少女であり、野球のことをまるで知らない“野球処女”(作品からの引用ですよ!)。そんな彼女は、クラスの女子にイジメを受けている。疎外され、金銭を要求され……。ついに援助交際に手を染めようと声をかけた“赤い帽子の男性”に、慰めの言葉をかけられる。しかし、思い余って男性の荷物を奪ってしまった実央。その中には、お金と一緒にカープのオープン戦のチケットが入っていた……。

男性に荷物を返すために、実央はオープン戦の試合会場を訪れる(当然、実央がチケットを持っているから男性が現れることはない)。そこで目にしたのが、全身を真っ赤に染め、声を涸らしながらカープを応援する人々の姿。実央は声をかけてくれたカープファンの妙齢女子・基町勝子と下仁谷みなみに、こう言い放つ。

「他人のこと応援して楽しいですか
応援して どうなるわけじゃないのに
自分に関係ない人がやってる野球に必死になって
ここにいるみんな偽善者みたい」

うわあああ、キツい! 『ドカベン』や『キャプテン』で育ってきた世代には衝撃的な“野球否定”からの始まり。そもそも女子が主人公、しかもプレーをしない、さらにイジメ問題を扱うなど、野球マンガとしては異例づくしなのだ。

さて、上の実央の言葉に対する2人からのアンサーは――。

「状況も立場も気持ちもバラバラの人たちが
ここでだけひとつところをみる
ここは堂々と他人を応援できる場所なの! いいでしょ?」

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この言葉に感化された実央は、月に2回、カープの試合を観戦することを決意。ここから実央は“カープ女子”としての道を歩み始め、勝子とみなみから野球の手ほどきを受けるのだが、実際のカープ選手のエピソードによるその内容がディープで実にいい!

例えば、前田智徳選手がホームランを打つも納得がいかず、「あんなホームランで相手選手に申し訳ない」と言ったエピソード。

黒田博樹選手が、ファンが掲げた横断幕のメッセージ「君が涙を流すなら 君の涙になってやる」を見て、移籍を1年先送りにしたこと。

そう、カープファンでなくても思わず心がぐらつき、図らずもカープを好きになってしまう。そこが『球場ラヴァーズ』の肝だろう。

もうひとつの肝は、実央の成長物語だ。「なんで敵チームに行った選手を応援できるの?」「なんでドラフトは選手がチームを選べないの?」。そんな勝負の世界の不条理や現実に触れることで、実央は自分の置かれている立場を見つめ直し、カープ女子2人の励ましの――時に人生の真実に触れる――言葉を得て、人間として成長を遂げていく。

「野球と球場と赤い帽子の人と
基町さん みなみさんに
運命を変えてもらいました」

カープと出会って1年後、実央はここまでポジティヴに変化する。球場の持つ空気、応援する人々の熱気にすっかり魅了されたのだ。閉じていた心が開かれ、巻を追うごとにコメディータッチに拍車がかかる。実央の父親が西武ファンで、「家庭内に敵出現!」「親子断絶レベル」とワナワナ震える姿は、なんとも愛らしく面白い。そして、最終的に実央はビールの売り子になる。野球は、1人の少女をここまで変える魅力を持っているのだ。

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『球場ラヴァーズ』は、実央の成長を描いた第1章『球場ラヴァーズ~私が野球に行く理由~』の連載終了後、ビールの売り子をしている女子大生を主人公にした第2章『球場ラヴァーズ ~私を野球につれてって~』、実央にカープ愛を指南した基町勝子を主人公にした第3章『球場ラヴァーズ~だって野球が好きじゃけん~』と続く。そして、第4章『こいコイ!〜球場ラヴァーズ〜』は2014年5月から連載中。学校をサボって無為な日々を送る女子中学生が、鯉(カープ)を通じて同級生と恋するラブストーリーだ。

すべての章を通して描かれるのは、カープの魅力、そしてカープによって生き甲斐を見つけ、成長していく女性たちの姿。『球場ラヴァーズ』は、カープの応援マンガであり、同時に女性の、人生の応援マンガでもあるのだ。

ちなみに本日、プロ野球セ・パ両リーグが同時開幕。2015年のカープは“男気”黒田の復帰にマエケンの残留と、嬉しい話題続き。24年ぶりの優勝も夢ではない。『球場ラヴァーズ』を読んでカープを観に行けば、実央のようにアナタの人生も変わるかも!?

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