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モスクワに入ったフランス軍はたちまち暴徒と化し、放火か失火か、市内の大半が大火で焼かれてしまう。使命感からナポレオン暗殺を試みるピエールだが、捕虜として囚われてしまう。退去途中で偶然、重傷のアンドレイを見つけ、懸命の看護で救おうとするナターシャ。そしてモスクワを占領したはずのナポレオンだったが、そこは“もぬけの殻”で……。
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Posted by ブクログ
1812年のフランス軍のモスクワ侵攻を受け、5巻前半は市民たちの逃走劇、そして後半はいよいよナポレオンの入城と敗走を描く。 この巻では、これまで見られなかったほどにトルストイの愛国心と、ナポレオンへの憎悪が垣間見える。 或いは、侵略する側を非難するがためにナポレオンを批判し、事実の勝者側としてロシ...続きを読むアを持ち上げているのかもしれない。 いずれにしても、フランスの離島生まれという身分から指導力でのし上がりヨーロッパを征服していったナポレオンが、このロシア戦役で遂に力尽きた、というドラマを存分に味わえる記述であった。 何度も主張される、「フランス軍は、モスクワ入城前のボロジノの会戦で致命傷を追った獣であり、待っていればやがて死にゆく」の例えが的を射てわかりやすかった。 自分としては、この巻のクライマックスはアンドレイ公爵の死の場面である。 重傷を負った彼が、かつて自身を裏切ったナターシャと再開する場面に、「汝の敵を愛せ」という耳慣れたフレーズが現実感のある画として捉えられた。 その後の、「全ての人を愛することは、つまり誰も愛さないこと、すなわち生の放棄だ」という心理的発展は物語としては悲しくまた意外に思われたが、死を目前にした人の心理がどのように展開するものか興味深く感じたし、折に触れて読めば、その時時で違ったことを感じるのだろうと思った。 自分の日常生活の中では味わうことのない、宗教的寓意や信仰の美しさを感じられるのも、この物語ならではだ。 いよいよ物語は佳境。 読むほどに、トルストイの主張に自分の考えと似たところを見つけらるのは、少し嬉しく感じる。
第3部第3編と第4部第1~2編を収録。ナポレオンのモスクワ占領から放棄までの多様な人間ドラマが描かれる。 迫るナポレオン軍、逃げるモスクワの人々。脱出間際の騒動のなか、ロストフ家がとる決断が感動を呼ぶ。 負傷したアンドレイが到達する「魂の本質としての愛」――すべてを愛するということは、すなわち神...続きを読むをそのすべての現れにおいて愛することだ――最近のスピリチュアル風に言えば「無条件の愛」ともいえる境地。ここからのナターシャとの再会劇は魂が震えるほど感動した。小説で泣くというのはめったにないことなのだが……。 ニコライとの出会いによって覚醒するマリヤの女性的な魅力。みにくいアヒルの子が美しい白鳥になるかのような変貌ぶりが素晴らしい。これまで苦労に苦労を重ねてきた彼女の、内面・精神世界が表に現れる瞬間でもある。 いっぽうモスクワに残ったピエールもフランス軍との関わりの中で大きく変貌していく。どん底の囚われの生活の中で初めて心の安らぎをえた彼の姿には、余計なものがすべて削ぎ落とされたような清々しさを感じる。しかし軍が退却を始めると大混乱が生じ、ピエールの人柄ゆえにそれまで仲良くしていたフランスの兵士たちが、突如人間らしさを失ってしまう。ここでの「自分と同じ人間を殺すことを無理やり人に強いる力」=この不思議な、無慈悲で破壊的な力という表現は、戦争の恐ろしさをよく表していて心に重くのしかかるものがある。そんななかでピエールもまた、アンドレイとは別の観点から自らの内にある不滅の魂に目覚めていく。 モスクワではフランス軍の規律違反から略奪行為で収拾がつかなくなり、退却までの大混乱が描かれるなか、人物たちの変化が読者へも波及するような深いドラマが展開され、これまでで最も読み応えのある巻だった。
戦争はクライマックスを迎え、ナポレオンがモスクワを占領してから退却していく様子を描いている。さまざまな関係者がさまざまな思惑を持って行動している様子が面白い。立場の違うそれぞれの人物を詳細に描いている筆力はすごい。 「リンゴが熟すまでは木からもいではいけない。熟せばリンゴはひとりでに落ちるのに、未熟...続きを読むなうちにもぐと、果実も木も傷めてしまい、おまけに自分も酸っぱい思いをすることになる」p521 「(人は期待にそぐわぬ情報は無視してしまう)だからクトゥーゾフは、自分が望む情報であればあるほど、それをあえて信じまいと自制していた。この問題に彼は自己の精神力のすべてを注いでいた」p524
文学と歴史の板挟みにあった人間がどう手探りしたか,を知る上では参考になる作品だと思う。当時のロシアの貴族社会,フランスとの距離感,ナポレオン戦争の詳細など。
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