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村上春樹が『空気さなぎ』を書いていたらベストセラーになったか? 青豆の妊娠の背後にある「結婚の四位一体性」とは? 『1Q84』と村上春樹の主要作品を渉猟し、物語の背後に息づく近代以前の超自然に包まれた神話的世界を探り、そしてポストモダンの時代に生きる我々の姿を描き出す、ユング研究の第一人者による待望の小説論。
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Posted by ブクログ
最初にあとがきを読むべきだった。 どういう観点から論じたか、これを知って読めば、もっとすんなり入っていけたはず。 論者は診療内科の専門家で、ユング派分析を基盤とする。 1Q84論、ということで読み始めたのだが、ひたすらにプリモダン、近代、ポストモダンについて論じ続ける。村上春樹自身が、作家として大事...続きを読むなことは個人的作話システムなので、とインタビュー語っているそうで、意識的にプリモダンの世界を織り込んでいるらしい。 自分は村上春樹を読み込んでいるわけではないが、小説を読んでいなくても引用や紹介で雰囲気はわかる、というより小説の筋自体はここでは重要ではない。そこに織り込まれる超常現象、イニシエーション等のプリモダン世界、そこに明白な解釈を与えてくれている。
村上文学を「夢テキストとして読み解く」との副題には心理学ド素人の私も大変興味を引かれ、手に取った。例えば、「ねじまき鳥クロニクル」における満州を巡るエピソードの中で、ソ連軍・モンゴル兵による「生きたまま川を剥ぐ」という拷問、および砂漠の井戸に突き落とすという「処刑」のシーンが出てくるが、これは実は文...続きを読む化人類学的に見れば「死と再生の儀式」に相当するとの視点など大変新鮮であった。 また、ユングによれば、結婚とは男の自我と女の無意識、及び女の自我と男の無意識との交差的関係である、らしいのだが、これを「1Q84」における天吾とふかえり、及び青豆と新興宗教「さきがけ」のリーダーとの関係に当てはめるくだりも興味深い。 一方、著者は、「相手や精霊と相互浸透していくような、境界のない前近代の時代とは違って、近代意識には禁止や分離があるのが決定的である。それによって、到達できない、あこがれる対象というのが境界の向こう側にできてくる(注:たとえば夏目漱石の「かなわぬ恋」に関する葛藤)」という指摘もしている。 この点については、例えばまさしく生霊が当然のように現世を行き交っている「源氏物語」においても「禁止や分離、それが生む憧れ」は重要なモチーフであるように思われ(例:源氏と藤壺との関係)、それらが前近代にはなかったかのような考え方には若干疑問も感じた。 ともあれ、最低限フロイトとユングの違いくらいはある程度理解してからのほうがもっと面白く読めるのだろうな、とは感じつつも刺激的な本であった。
ユング心理学の研究者が「1Q84」を読み解く。「1Q84」が春樹の中でも、人物の過去を詳細に書いている、ハッピーエンドに終わる独特の本だということ。スプートニクの恋人、めじまき島クロニコル、ハードボイルド・ワンダーランド、海辺のカフカ、1973年のピンボール、ダンス・ダンス、その他の作品の登場人物に...続きを読むついての解説も詳しい。1Q84の主要4人物として、天吾、青豆、リーダー、ふかえりの4人の相姦!関係は興味深い。青豆の妊娠の理由がやっと納得できたように思う。聖なる界、人間界の交叉する四者関係がユングの鍵!頻出する10歳という年齢もユングに関係があるとの説明も興味深い。春樹自身「ノルウェイの森」は、映画化されて初めてこれは女性を描いていると気づいたという!示唆に富んでいる。確かに「僕」という存在は主人公でも、自我でもなく、空気のような存在であることが多い。
プレモダン、近代、ポストモダンという三つに区分し、1Q84にあらわれる人間の意識を描出するという本。 一見、解説本のようだが、実際に読み始めてみると印象が変わった。 著者が1Q84のカウンセリングをしている場に、読者が立ちあっているといったらよいだろうか。 マラソンにおける「並走」という言葉に倣う...続きを読むならば、「並読」というがふさわしい気がする。 最終章が特におもしろく読めた。 私の理解力の乏しさのせいだが、それまでの数章は結局何が言いたかったのかがつかめず、もやっとして終わってしまった。 以前読んだ岩宮恵子さんによる春樹論がおもしろかったが、著者とその岩宮さんがつながりがあるというのは意外だった。
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村上春樹の「物語」―夢テキストとして読み解く―
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