『自公政権とは何か』というタイトルだが、現在の自公政権のみならず過去の連立政権すべてについて非常に丁寧な分析が行われており、「連立政権とは何か」というタイトルの方が中身をよく表しているのではないかと思う。
現代の日本では、1政党が衆参の両院の過半数を握ることは難しく、連立政権の構築とその円滑な運営
...続きを読むが極めて重要となる。必然的に似通わない部分をもつ異なる政党が力を合わせるにあたっては、各連立与党・政府が政策立案過程において交渉と妥協を重ねることになる。意見集約のプロセスをどのように形づくれば円滑な政権運営に繋がるのか、歴代の連立政権はそれぞれ様々な試行錯誤を行ってきた。本書はその歴史を詳細に描写する。
そして、その集大成ともいえるような、歴代で最も安定している連立政権が、現在の自公政権である。政策的に一致しない点も多いはずの両党が、なぜこのような安定政権を維持できているのか。その理由は、互いを理解し合った現実的な意思決定に加え、綿密な選挙協力にもある。特に小選挙区制が導入されてからは「対抗馬を立てない」という大きな行動が必要となり、選挙協力がとりわけ重要になった。農村部を中心に幅広い支持を得る自民党と、学会による都市部を中心とした票田を持ち「自民党のブレーキ役」を自称する公明党は、互いの異なる支持層をうまく補完し合い、選挙区での完璧な棲み分けと比例のバーターによる互恵関係を完成させている。(現制度での「大連立」の難しさも小選挙区を理由に説明できる。)
しかし、自公政権の成功の理由はそれだけではない。互いに組織票を漸減させ、絶対得票率も伸ばせていない両党が一強を保っているのは、投票率の減少と、野党が一大勢力を形成できていないことも原因である。筆者はこの点においても強固な連立構想の重要性を説き、民主党政権の失敗の一因は連立合意の不足にあったとする。
筆者はあとがきにて、2017年の希望の党騒動が執筆の動機となったと述べている。本書の執筆後、旧・立憲民主党は旧・国民民主党と合併して立憲民主党という民主党以来の一大勢力を構築したものの、2021年の衆院選では十分に票を伸ばすことができなかった。その理由を説明するにあたって筆者の主張は未だ有力であり、自公の絶対得票率が依然50%を切っていながらも国政の勢力図が変わらない現状を打破するには、筆者の提言が未だ大いに重要性をもつだろう。非自公勢力の幅広く分散した支持を結集する強固な連立構想なしには、現在の選挙制度が変わりでもしない限り、非自公安定政権は非現実的である (という私の主張を中北先生がこのようにしっかりと形にしてくださりとても嬉しかった)。