救命救急センターの医師視点による、救急患者やその救命のための医療に関する物語。救命救急センターでの朝の申し送り風景を切り取った形式で書かれている。
ただ、救急医療と聞いて想像するような、ドラマのような医療現場の描写とは一線を画している。本の紹介文には緊迫の医療現場を描いたなどと書かれているけれど、ち
...続きを読むょっと違う印象を受ける。脱力系というか、ある種の諦観というか。タイトルに「それは死体!?」とか「それは無駄!?」とかが並ぶのが象徴的。
とはいえもちろん、やる気のない医者であるとか、そういったことではない。むしろ救命の現場で奮闘してきたからこそのリアルな視点なのだろうと思う。救急医療とは対極にあると考えがちな、緩和ケアとか終末期医療の視点が込められている。それは今でこそ珍しくもないのかもしれないが、著者は最初の著作から一貫してそういう視点を持って書かれているように思われる。
新型コロナや、災害医療チームDMATのことも取り上げられている。
個人的に印象的だったのは、第三話で、頚髄損傷となった患者が人工呼吸を拒否するという話。生きるためには人工呼吸が必要なので、医療としては人工呼吸器の装着を進めるというのが”正解”だし、本書で描かれている医師たちもそのように進めていくのだけれど…。果たして何が正しいのか、救命することが本当に正義なのか、といったような葛藤が垣間見える。