原油、天然ガス、レアアース…資源の地政学を知らずして世界情勢を語るべからず。歴史や経緯を含めた全体を本書で俯瞰できるため、新聞やテレビなどの媒体よりも深い理解を得ることができる。
そもそも産油国ってほとんど中東中心だと思っていたが、中央アジアから北中南米、アフリカまでかなり広い範囲に渡っていると改め
...続きを読むて認識させられた。それに対してコベルトやリチウムなどは中国とコンゴに産地が限定されているのが不気味で、代替材料の実用化が喫緊の問題に感じさせる。
フラッキング技術によるシェール革命で米国がエネルギー自給自足になったことはザックリ知っていたが、ギリシア出身の移民が事業的なリスクを背負いながら突破口を開いた経緯などは知らなかった。しかし従来型と違ってコストがかかることと、大手メジャーのような資本金が少ないプレーヤーが多かったことから価格下落で壊滅的な打撃を受け、業界再編が進んだとのこと。気候変動への対策でフラッキング禁止の勢力もあるがエネルギー安全保障や経済優先の観点からシェールオイル採掘は継続しそう。
ロシアへの制裁でノルドストリーム2が対象になったが、ロシアによる設備の自給を促しただけで供給量全体を見れば米国の制裁は政策ミスだったのではないか。
中国の覇権姿勢によってWTOコンセンサスが終焉した、とは非常に厳しい時代に到達してしまった。日本も安全保障をしっかり見直して東南アジア諸国やインド、米韓との連携を強化する必要がある。
中東ではイスラエルとハマスの戦闘やシリア内戦が騒がれているが、イラン革命の攻勢やトルコによる影響など、まだまだ懸念材料が多く、地域の安定化はまだまだ実現できそうにない印象。イラン革命の思想はいかにも革命的だが、国民国家を否定して中世的なイスラム国家を広めるために他国に部隊や武器を送り込むとは、ただのテロ国家そのものに思わせた。ソレイマニ殺害の事件は大きなニュースになったが、本書を読んでどういう人物か改めて認識を深めることができた。
南シナ海に潜む4人の亡霊が付録としてあるが、非常に面白かった。鄭和ってもともと明朝のムスリム捕虜だったとは…ほかに「海洋の自由」のグラティウス(オランダ)、「海上権力史論」のマハン、戦争は無益と主張したジャーナリストのノーマン・エンジェルが挙げられている