同著者の「具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ」を読んで、日頃の自身の仕事やコミュニケーションの取り方について新たな観点から眺められるようになり、この概念について更に詳しく知りたかったことから本書を手に取った。
抽象化は一見つながりのない事物について「Why」を問うことで見えない関係
...続きを読む性(因果関係/手段と目的/優劣関係)を見出し、全体を一纏めにして俯瞰することができる。関係性を見出すということはすなわちある目的に沿って特別な属性のみを抜き出すことで、言い換えれば「余計なものを捨てる」とも言え、個別性を喪失したことにより適用の自由度が上がる。この「自由度が上がる」とは「次元が増える」とも言い換えられ、例えば「時間」「金」を「資源」という形で抽象化しグルーピングすることで2つの変数を掛け合わせた「時間(長短)×金(高安)」の2次元で意思決定に役立てることができる。
このような抽象化のプロセスは、ある目的に従ってグルーピングを行い、優先順位をつけて余計なものを捨てるという意味での「戦略的思考」の基盤だ。
一方でこのような戦略的思考を目的実現に向けて進めていくとなると抽象化とは別のプロセスを辿らなければならない。自由度が高く応用が利くことで大まかな方針を定めることに向いていても、「健康的な生活を送る」といった抽象的で実行を伴わない場合があるためだ。このような自由度の高さは組織内で個人個人が自分でその目的に従って成果を出す上で選択肢に幅を持たせる一方で、個々人で捉えている解釈が異なるというコミュニケーションギャップが起きる懸念が付きまとう。
実行レベルにまで落とし込むには「問題発見」の抽象化から「問題解決」の具体化のプロセスを経る必要がある。
具体化で問われるのは「How(手段)」であり、抽象化によってグルーピングされた事柄について選択肢を絞り込み、数字や固有名詞を用いて「自由度を下げ」、具体的施策に落とし込んでいく。このように戦略を実行可能なレベルに落とし込む過程は抽象化の「戦略」に対応する「戦術」といえる。
先の「健康的な生活を送る」という人生戦略について考える場合、「健康的な生活」は抽象的で個々人で解釈が異なるし、何をしたらいいかが明らかになってこない。
仮に腎機能の弱い人間が「健康的な生活を送る」ことを目的とした場合、腎機能の低下を抑えるという目的に従って「How」として運動や食生活に着目することになるかもしれない。そこで、目標として「①食生活の最適化/②余計なものを食べない/③定期的に体を動かす」を立てたとする。このままではやはり抽象的で実行には至らない。
食生活を「栄養」という抽象的概念から考えると「塩分」「脂質」などの変数が挙げられる。このような変数の中から腎機能低下を抑えるという目的に向かって「何が本当の問題(変数)か」という観点から考えると「塩分」のコントロールが問題になるだろう。
腎機能の低下を抑えるには成人男性の場合1日6.5g程度であるとすると、これを加味して目標に固有名詞や数字をあてはめることで「①1日の塩分摂取量6.5g/②ランチの外食は月1回/③週2回ジムに行く」など実行可能な内容に落とし込める。
以上のように「具体⇔抽象」思考について考えるということは戦略・戦術の意思決定についてメタ的に意識して考える上で役に立つ。自分と相手の話している単語は同じでも抽象度レベルの差異からすれ違っているかもしれない。あるいは新年の目標が一向に進まないのは目標が具体化が足りなかったり、変数の選択の誤りから目的とかみ合っていないからかもしれない。