【感想・ネタバレ】リスク心理学 ──危機対応から心の本質を理解するのレビュー

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Posted by ブクログ

リスクの二重過程理論について手っ取り早く理解するには最適な本である。ただよく読むと説得の精緻化理論と同じようなもののように思われる。
 これをきっかけにリスクの二重過程理論について学ぶ契機にはなるであろう。

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2021年10月26日

Posted by ブクログ

■そもそも人が何を「立ち向かうべきリスク」としてとらえるかについては、気持ち次第によるもの。このことが、リスクの問題に心の問題が関わってくる理由。
■「危険は実在するがリスクは社会的に構成される」(ポール・スロビック)
■私たちのリスクへの反応は「確率」と「深刻さ」とは別の軸がある。
■統計的なリスク情報は犠牲の規模を伝える適正な情報でありながら、そして、そうであることは頭では理解されながらも、それほど影響力を持たない。
■判断を決める「二つのシステム」(二重過程理論)
 二重過程理論は現在の心理学において人の判断・意思決定研究の基盤を説明するグランドセオリー(幅広い分野に適応できる一般理論)といえ、厳格な理論モデルというよりも一つの人間観のようなもので、様々な意思決定研究のベースになる理論である。
 神経科学的な知見を含めて私たちの判断や意思決定が二重のプロセスに支えられていることが明らかになっている。
■システム1
・素早く自動的に働き大雑把に取るべき方向性を判断する
・感情的で連想により直感的な対象評価を行う
・具体的な事例やイメージにより事態を把握する
■システム1の特徴は直情径行型で思ったことを身軽に実行に移すこと。素早く自動的に無意識的に判断を進めるので知的労働という観点からは負担は小さい。
 直観的な連想で物事を判断し「心地よい──不愉快」といった感情軸に基づいて大雑把な方向性を決定する。
 リスク認知に関して重要な点はシステム1が目に見える画像・映像、ストーリー、具体的な事例などに基づいて状況を把握し、その状況に対する判断も○か×かという単純なものになりがち。
 感情豊かですぐに怒ったり怖がったり同情したりと揺れが大きくスピーディーで行動力はあるがその行動は粗雑。
■システム2
・時間を要し、意識的に思考する。精緻な判断を志向する
・理性的で論理に基づいた意識的な評価を行う
・統計量や数値、抽象的なシンボルや言語により事態を把握する
■システム2の特徴は慎重居士で腰が重いこと。じっくり、しっかりとものを考えるのでその分知的な負担は大きい。
 根拠に基づいて判断し筋の通った正しい決定をしようとするが負担が大きいのであまり積極的に登場しようとはしない。
 リスク認知に関して重要な点としては物事を抽象化した統計量や数値、記号を通じて把握し、精緻な行動方針を計画しようとするところ。
 まじめで理屈っぽいが慎重で白か黒か煮え切らないという人物像が浮かぶ。
■これら二つの思考システムのうち日常生活で優勢に機能するのはシステム1。
 なぜ論理的システム2というものがありながら感覚的システム1が優勢に働くのか。
 人間の身体が長期間にわたる進化の産物として今日の形態になってきたように、人間の心も何十万年もの進化のプロセスを通じてデザインされてきたと考えられる。
 人類はその殆どの期間小集団で移動しながら狩猟採集生活を営んできた。その中で次々に直面する意思決定場面では荒くても素早い判断が必要とされたはず。例えば野生生物の気配を感じたときに狩るか逃げるか、襲われた仲間を助けるか見捨てるかなど。
 このような場面では素早く行動を方向付けるシステム1に依存するしかない。リスク評価に基づいて判断を下そうにもそのような時間的余裕はないし、そもそもデータとモデルに基づいて望ましくない帰結の発生を確率的に予測するというリスク評価は人間が定住し、記録を保存し、文明を築くようになったせいぜい数千年前から可能になったに過ぎない。
 それまでの長い期間人は直観主導のシステム1に依存して判断してきた。その直感的な選択が適切で生き延びることができた個体のみがパートナーと生殖し子孫を残すことができた。
■現代人はシステム1による直感的サバイバー(生き残り)の末裔である。今日各種データを蓄え通信手段を発達させ抽象的な思考によって将来のリスクを定量的に扱えるようになったとはいってもその歴史は数千年にしか過ぎない。心のデザインを大きく変容させるには至っておらず私たちの様々な判断はリスク認知を含めて知的な負担の小さいシステム1思考に依存しがちになる。
■人間は小集団で移動しながら長い狩猟生活を送ってきたが小集団を形成し協力することで生き延びてきたことが私たちの心のデザインに一つの大きな特徴をもたらした。それは具体的な個人に大きな注意を払うということ。
 人間が今日のような文明を築くことができた理由はいろいろとあるが他者と協力できることが主要な理由の一つであることは間違いない。
 集団内での協力関係は個人が生きるために必要不可欠であったし今日でもそれは同じ。
 一方、協力関係の中では相手を騙して自分はコストを払わず利益だけ多く受け取りたいという誘惑が存在する。従って人はコストを払わず利益だけを得ようとする不逞の輩を見抜いお互いに協力し合って成果を分かち合える人を見抜いて関係を取り結ぶことが生き残るために必要になった。
 つまり人にとって大きな課題は自然環境に適応するだけではなく人間関係や人間社会に適応することであった。
 この時関係を持つべき相手、避けるべき相手というのは小集団内部の顔の見える関係にある具体的な人物である。抽象化された統計的な数字としての人間ではない。このため私たちは今でも具体的な個人に大きな注意を払い顔かたちを知りたいと思う。
■顔や名前など個人を特定できる情報とともにある個人の苦境が伝えられ得ると助けてあげたいという気持ちが強まり実際多くの援助が寄せられる。これを「特定可能な犠牲者効果」という。
 統計的に何十万人もの人々が飢餓に直面しているとか何千人もの人が内戦により避難生活を強いられていると伝えられるよりも個人にフォーカスした事例情報は受け手の気持ちに強いインパクトを与え援助行動を引き出しやすくなる。
 新型コロナウイルスによる犠牲者数情報よりも志村けんさんの死が、虐待死の表の中の数字よりも栗原心愛ちゃんの事例が私たちの心を揺さぶるのも根底には同じ心の働きがある。
■人々の判断や行動はシステム1主導で進められ定量的なリスク評価よりも定性的な個別事例や個人に重きを置いたストーリーにより影響される。このため、リスク評価情報が提供されてもそれだけでは心に響かずリスク対応行動も変わらないということが起こる。
 ある意味厄介なことに誰にもシステム2は備わっていて定量的なリスク情報は理解される。このため「なぜ理解されるのに納得されないのか」「どうして行動変容に結び付かないのか」とリスク評価の専門家やリスク管理者からは不可思議に見えるし、自分たちの情報提供は徒労であると感じることにもなる。
 自分のリスク対応が合理的でないことは(システム2的には)分かってはいるけど(システム1的には)やめられないということになる。
■人の心に数字や統計量はあまり響かず、リスクの質的な側面、つまり定性的な側面に強く反応するが、この「自発性」という要素も定性的な側面の一つ。
■「あちらが良くなればこちらが悪化し、こちらが良くなればあちらが悪化する」という関係があるとき両者はトレードオフの関係にあるというがリスクとベネフィットも通常はトレードオフの関係にある。
 ただ、チャンシー・スターの分析で明らかにされたのは両者は単純な正比例の関係にあるのではなく、受容されるリスクの大きさはベネフィットの三乗に比例する、つまり経済的価値が増すと受容されるリスクは飛躍的に大きなものになるということ。
 チャンシー・スターの分析結果のうち、のちの研究により影響を与えたのはもう一つの方の知見で、スキーや喫煙のような能動的に行う行為は自然災害のように通常の日常生活を送るだけで関わることになる受動的なハザードに比べて1000倍もの大きなリスクが許容されているということ。
■社会は一定のリスク/ベネフィット関係でいろいろなハザードを受容しているのではなく自発的に接するハザードと非自発的なハザードとでは別のリスク/ベネフィット関係があって自発的ハザードは高リスクでも受け入れるダブルスタンダード(二重規範)になっている。
■初期のリスク認知研究で明らかにされた事柄のうち特に興味深い点は、リスクとベネフィットのトレードオフが本来とは逆方向に、つまり高リスクなハザードは低ベネフィットであり、低リスクのハザードは高ベネフィットであるという方向に認知されがちということ。
 リスクとベネフィットのトレードオフは通常、高リスク─高ベネフィット、低リスク─低ベネフィットとなるが、様々なハザードを主観的には高リスク─低ベネフィット、低リスク─高ベネフィットと判断しがちということは、人は様々な事物を悪玉と善玉とに分けるよう認識する傾向があることになる。
■もう一つ明らかになった興味深い点はハザードの質的評価項目は関連が深い組み合わせとそうでない組み合わせがあるということ。例えば「重大性」が高く死をもたらすハザードは「恐ろしさ」を強く感じさせこれら二つの項目は強い関連を示したが、このような結果は心理的にはハザードの特徴はすべてバラバラに認知されているのではなく何らかの纏まりを形成していそうだということを意味している。
 様々なハザードに共通する質的特徴の纏まりを明らかにできればそこからリスク認知を決定づける定性的な印象がどのように構成されているのかを明らかにすることができる。
■リスクは「不確実性(可能性や確率)」「望ましくなさ(深刻度)」という要素で構成されるが、私たちのリスク認知は必ずしもそれら二つの要素の評価に基づくものではないということが分かってきた。
■ポール・スロビックらによるリスク認知モデルを簡単に言うと「様々なハザードにはそれぞれいろいろな性質があるが私たちの直感的な見方としては二つの印象の軸にまとめられる」というもの。
 モデルを構成し検証してきた調査方法は先に説明したように多種多様なハザードを対象とし様々な質的側面について一般の人々に回答を求めるというもの。得られたデータに対し関連の強い質的側面項目群をできるだけまとめ関連の弱い項目群同士はできるだけ遠ざける解析手法が適用された。その結果項目群は大きく二つにまとめられた。
 二つのうち一つは「恐ろしさ因子」と呼ばれもう一つは「未知性因子」と呼ばれる。
■「恐ろしさ因子」を構成する印象の項目群
・災害が起こったあと制御が効かない
・恐怖を喚起する
・大惨事となる潜在性がある
・災害の発生を制御できない
・致死的な帰結をもたらす など
■「未知性因子」を構成する印象の項目群
・対象を観察できない
・リスクに曝されている本人がそのことを知り得ない
・悪影響がその場では顕れず後になってから生じる
・新しいハザードである
・科学的にもよく分かっていないところがある など
■感情ヒューリスティック
 ある対象について考えるとき付随して経験する感情の方向性に応じてリスクやベネフィットが直感的に判断されることをヒューリスティックという。
■特に急いで判断することを迫られているとき、つまりシステム2が時間をかけて丁寧に判断を下そうとするのを妨げられるとき感情ヒューリスティックの働きは一層顕著になる。感情ヒューリスティックで判断が進められるとシステム2によって丹念に情報を集め精緻な判断を行うことが難しくなる。
■リスク認知の個人差を説明するために検討されてきた要因のうちでも性差はもっとも初期から取り上げられてきたものの一つ。その結果女性は男性よりもリスク認知が高くリスク回避傾向が強いことが繰り返し確認されてきた。
 女性は男性よりも望ましくない結果になる確率が高いことを予想し、それが起こった場合のダメージは大きいと考える。
 女性がリスクを高く受け止めるのはなぜか。一つの代表的な説明は女性は産む性であるためにリスクに敏感で体力的にも男性より脆弱なのでよりリスクを避けようとするというもの。つまり生物学的な特性によってリスク認知の男女差が先天的に生まれているということ。
 しかし全く別の説明もある。それは人の認識は社会的文化的に構成されるものであり、リスク認知の男女差も社会的文化的に形作られているという考え方。

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2021年10月06日

Posted by ブクログ

どのような状況下で人はリスクを感じ、それを避けたい・避けなくてはと思うのか。
コロナ禍での事例など具体的に想起しやすい事例が提示されており、専門的な説明もわかりやすく感じられた。自分はどんなふうにリスクと向き合っていたかな、と振り返るきっかけになった。

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2023年04月17日

Posted by ブクログ

二重課程理論をベースに、人々のリスク対応のあり方をわかりやすく説明した本。私は大学で心理学を専攻していたため、当時習った用語が数多く登場し、懐かしい気持ちになった。2因子モデル、ヒューリスティクス、アンカリング効果、確証バイアス、ステレオタイプ、公正世界誤謬などなど… これらの用語は、用語としては知っていたものの、コロナ禍の状況における具体例が明示されることで、より身近に感じることができた。人間の認知の仕方のクセがわかることで、自分の直感的な感覚を疑ったり、世の中で起きている現象のメカニズムを俯瞰的に分析したりすることができるので、これらの知識を身に着けることはすごく有益だと思う。

リーダーシップは、二重課程理論における2つのシステムの両方を機能させる必要がある、すなわちシステム2で熟慮した政策を打ち出し、さらに公衆のシステム1に働きかけるようなメッセージを出す必要がある、という指摘や、とりわけ日本ではネガティブに語られやすい「同調圧力」が、ネガティブな側面ばかりではなく、集合知の獲得に役立っている面もある、という指摘は興味深かった。

また本書では、各章の章末に、研究者紹介というコラムが掲載されており、一見研究内容とは無関係に見える、研究者の人となりや、著者とのちょっとしたエピソードが語られるが、これは利用可能性ヒューリスティックを利用して、本書の内容を強く印象付けようとする著者の策略(笑)だと思われる。

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2022年03月19日

Posted by ブクログ

リスク心理学というあまり知られていない学問の基本的な知識がわかる本。
人がリスクを感じる際の心理がわかる。

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2022年11月06日

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