【感想・ネタバレ】アカペラ(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

今の状況から脱出したい気持ちが心の奥にあるけれど、どうにもうまくいかない……。
そんな人たちが登場する中編が3作収録されている。

『アカペラ』
衝撃的な作品だった。
両親と上手くいっていない十五歳のたまこは、祖父と仲が良く、友人からも「まる子と友蔵みたい」と言われている。
たまこは祖父が大好きだから、携帯に涙声でいきなり電話がかかってきても気にしていない。
祖父は自分でできることも多いが、認知症なのかな?と思う場面も多々あり、両親が家にいないたまこはヤングケアラーであるように思った。

「十六になったらすぐ、結婚するってじっちゃんと約束したの」
老人ホームに入れられそうになった祖父と駆け落ちし、体の関係を持ったたまこは、担任の先生にそう言った。
そんなたまこは、祖父が入院後目を覚ましたとき、涙を流しながら「悲しい」と思う。
祖父のことを慕っていたたまこが、このとき「悲しい」と思ったのは、祖父がたまこをいつものように「まあこ」と呼ばなかったからだろう。
幼少期に家族が使っていた「タマや」という呼び方をした祖父は、「十六になったら結婚しよう」と言ってくれた祖父ではなくなった。
「まあこ」とは、祖父の最初の奥さんの名前だ。
たまこを「まあこ」と呼ばなくなった祖父は、もしかしたら結婚の約束も、体の関係を持ったことも忘れてしまったのかもしれない。
「結婚したら堂々と母親を追い出せる」という希望が、たまこから抜け落ちてしまったのだと思う。


『ソリチュード』
今の状況も自分もなんとかしたい、ここから逃げ出したいと思っている主人公・春一。
高校生のときに家を出て、流れに身を任せて三十半ばまで生きてきたが、自分がどうしたいのかも分からないでいた。
そんな中、いとこの美緒や彼女の娘である一花、昔の友人の武藤と関わりながら、自分の置かれている立場を少しずつ理解していく。

父親の怒り、母親の気持ち、美緒の両親の気持ち……。
かつて自分に向けられていた大人たちの気持ちに、春一はようやく「そうだったのか」と感じられるようになった。

自分の気持ちが掴めずいつも宙ぶらりんで、どうしたらいいのか分からない。
面倒なことは保留ボタンを押して先送りにしてしまう。
そんな春一が少しずつ他人の気持ちを思い、自分の気持ちにも向き合っていくような話だった。


『ネロリ』
もうすぐ五十歳になる姉・志保子と、体が弱く一度も働いたことがない三十九歳の弟・日出男。
二人暮らしをしているこの姉弟は、二人だけの幸せのために、未来に期待せず、ただ毎日を小さく生きている。
そういう感じがした。

志保子が須賀から結婚を迫られたとき、彼女は掴みかけた未来を、自ら諦めたように見えた。
亡くなった母親の看病を日出男に押しつけてしまった、それがきっかけで日出男の体調が悪化してしまったという後ろめたさ。
それを手放して結婚できない志保子は、その罪悪感にしがみついているようにも思えた。

日出男と付き合っている心温(ここあ)が、唯一の救いだと思った。
未来に薄暗い靄がかかっている姉弟にとって、彼女がひとつの光になるような気がしている。
これからを感じられるラストが良かった。

0
2023年02月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

帯は、
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”家族”をめぐる
三つの物語。

こういう作品を作りたいのだと、
読むたびに思う。
新海 誠
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中学三年のタマコが、老人ホームに入れられそうになる祖父と駆け落ちする「アカペラ」
田舎を飛び出した春一は、父の死をきっかけに20年ぶりに帰郷する。そこで再会を果たしたのは…「ソリチュード」
病弱な弟を献身的に支える志保子。仕事、恋愛、未来の転換期を迎えた時、二人きりの姉弟はどんな選択をするのか「ネロリ」

三篇が収められていますが、
読んだ最初に抱いた感想は、
タイトルの意味でした。

この物語に対してタイトルは、
どういう意味を込めてるんだろう、と。

それを意識しながら読んでいると、
アカペラは、祖父とタマコは仲良しで鼻歌のように歌を歌うからそこかな?と思ったんですが。
でも読み切った後に思ったのは、誰にも伴奏(伴走)してもらえないまま一人で歌い上げるタマコを想像しました。
両親もアテにならない。
祖父は大好きだけど、自分が守らなければいけない。
先生だって、自分の人生を最後まで助けてくれるわけじゃなく。
15歳の少女が、ひとりで決断していかなければいけない。
だけど、タマコが自暴自棄にもならず、本当に最後までタマコらしくて、それがさらに。
もっと周囲のせいにしていいし、周りに甘えれば良いし、我がままになったって良いのに、と。

「ソリチュード」については、結局顔が良い人はなんだかんだと得するんだな、というのが感想でした。(だいぶ荒んでますね、私。苦笑)
どんなにダメ男でも、放っておけない女がいて。
この主人公の春一こそ、周囲のせいにして、こじらせてると思いましたが。苦笑
タマコ見習いなさいよ!と。笑
春一の過去の環境も環境なんですけどね。
だけど、もっと考えて行動してよ!怒)と思ってしまった。笑
登場人物の大体が春一の前だと、ちょっと女になる感じがね。苦笑

「ネロリ」は最初、親子だと思ったら姉弟でした。
日出男は身体が弱くて、ストレスを溜めないで生きていくだけで精いっぱい。
そんな弟を献身的に支える姉。
偏愛というか、まわりが不思議に思うような嫉妬するような距離感。
そんな日常に突如割り込んでくる仕事や恋愛。
家族ではなく、ひとりの男性、女性として。

どれも本当に狭い世界と人間関係のなかで起こる出来事なんだけれど、少し気味が悪かったり、理解できなかったり、それは愛ゆえの歪さでもあって。
そして、見えないところで知らないところで本当に起こっていてもおかしくない物語たち。

アカペラを読む前と後では、表紙に描かれている少女のイメージが大きく変わりました。
多分忘れられない。
すごい絵です。

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2023年08月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

面白かった。とても読みやすい!

中編三編、主人公たちは年代や性別は違うのに、良いなあと思えるあったかさがあった。
そのあったかさは、それぞれの物語に出てくる家族のあったかさかな?と思う。

文庫版あとがきに、昭和の中頃に建った、狭い和室がある安普請の一戸建てが描かれている、というようなことが書かれていた。
個人のプライベートなんてないような狭い家…そこから生まれる距離感は、狭いマンションに住む今の読者にも分かるものなんじゃないかと思う。

著者の他の作品も読んでみたい。

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2022年05月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

短編3作の小説集。
心温まる系のお話かと思いきや、そんな単純なものではなかった!
・アカペラ
単身赴任で不在の父、家出ばかりの母をもつ主人公が、大好きなおじいちゃんを守るために駆け落ちをする。担任の先生やバイト先の店長など、大人らしくない大人達の手を借りながら大好きなおじいちゃんのことだけを考える健気な主人公。ラストが意外すぎる…。これは何エンドと言えばいいのか?ハッピーエンドのようでハッピーエンドではない苦しさ。
というかおじいちゃんと関係をもってしまうくだりはいかがなものなのか…
・ソリチュード
これもラストがわかりやすくないのがいい!心を入れ替えてこうなりました!的なものではなく。自分を省みた上で日常に戻っていく、表面上はかわらないかもだけど、きっと何かが変わっている。なぜか沁みた…
・ネロリ
体の弱い弟のことを第一に考える独身の姉、若いガールフレンドと姉と病院しか外界と関わりのない弟。慎ましやかに生きる兄妹だが、姉のリストラ&婚約で日常が少しずつかわってゆく。
これも最後がおやおやといった流れに。うまくいかないことが多いが、みんなの優しさがじわりと滲み出ているお話。

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2021年08月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ちょっと不思議な家族のカタチってやつでしょうかね~?
私個人は真ん中のお話のソリチュードが好きでした。こんなお兄さんというか、おじさんというかほしかったな~なんて思うし笑でも、いとこ同士でってとこは確かに悩ましいね~苦笑
それでも読み終わった感想は嫌じゃないけど、気になる箇所があるって感じでしょうかね~。

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2014年09月28日

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