【感想・ネタバレ】グロテスク 下のレビュー

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Posted by ブクログ

そうそう、なんでこの作品読もうと思ったんだっけ、と思っていたくらい、悪意でびったびたにされていた上巻。
そうだ、以前読んだ柚木麻子さんの「BUTTER」だ。
その参考文献にあった、上野千鶴子さんらの作品「毒婦たち 東電OLと木嶋佳苗のあいだ」で本作品が東電OL殺人事件をベースにした作品であり、フェミニズムについて描かれていると知ったんだった。
実際の事件を追うノンフィクション型フィクション。
合計841ページにわたって込められた作家さんの思い。そして、フェミニズムやジェンダーなど、批判もくるであろうテーマに切り込んでいく覚悟。わたしには想像もつかないほどのエネルギーを費やしたんだろう。

上巻ではメインの語り手・ユリコの姉である「わたし」が美しすぎる妹・ユリコと、同じQ女子高の同級生である和恵の、主に二人への悪意をまき散らしていく形で、一人称・ですます調で、生い立ちや学校生活が語られていく。
悪意をまき散らされた二人は全く違う学生生活を送っていたにも関わらず、娼婦という仕事をしており、その結果何者かに殺害された。また、自宅やホテルとは異なった場所で殺害されていたのである。和恵に関しては、昼は大企業で役職のついた会社員をしていたにも関わらず、夜は娼婦という別の顔をもっていたことで、センセーショナルに取り上げられた。

下巻は、世界観が急転。
裁判のシーンから始まる。
被告人の一人語りは、これまでの上巻の物語とは全く異なり、一瞬自分が何の物語を読んでいるのか分からなくなるほど別の姿をしている。そしてその、壮絶な体験と景色。冤罪事件だったこともあり、いきなりそれらを読まされ、読者は被告人に心を持っていかれる。

上巻の山場は<ユリコの手記>、下巻の山場は<和恵の日記>にあるだろう。
<ユリコの手記>では、姉である「わたし」視点において、決めつけられ、押し殺されてしまっているユリコの想いと、ユリコが見てきた現実、ユリコがしてきた罪の告白があった。
<和恵の日記>では、痛々しい心理描写に、わたしは幾度となく耐えられなくなり、後半はお酒を飲みながら読んでいた。解説にも書いてあるけれど、「和恵のこのような行状を『なんて悲惨な…』と受け取ると、『グロテスク』という小説の構造を見誤ります。」
なんと!わたしは見誤っていたのである。
姉である「わたし」の一人語り、被告人の上申書、ユリコの告白、和恵の日記、何が本当であるのかなんて分からない。P450「信用できない語り手」による一人語りは、作中の言葉を借りるならば「憎しみと混乱」を読者に残していく。
ラスト、事件の真相やいかに。

それぞれが悪意でもってぶつかり合い、誰かと比較して、羨んだり蔑んだりして必死に自分を守ってる。
作中の彼女たちのように、実際に悪意を言葉にしたりそれを相手に伝えたり、行動に移したりしなくても。
彼女たちと似たようなことを思うことはあるのではないか。
「悪口が嫌い」、そう言う人もいる。でも、わたしは誰かにそれを吐き出さないと、やっていけないのではないかと思っている。悪口を言う人は、結構的確で鋭い目線をもっていたりする。スパッと言い切る姿に美しさとかっこよさすら感じることもある。わたしはそういう人が好きだ。潔い。

この作品のすごいところは、その、悪口の量と質。
これほど悪口で埋め尽くされた作品をわたしは知らない。
上巻だけでも胃もたれする本作品。
下巻の、和恵の日記の中盤から徐々に、通常モードの自分ではいられなくなってくる筆致に気圧されて、軽く脳を麻痺させないと続きが読めなくなるほどの作品。それでも、最後まで読ませたのは、解説にもある、「闘争心」の強さなんだろう。
和恵が戦っているP452「『世間の論理』。もしくは無限に張り巡らされた差別構造。あるいは競争原理に貫かれた男社会の掟」。
わたしはよく人に「いつもnaonaonao16gは何かと戦っている」と言われる。きっとわたしは自分自身と戦っている。現実の自分と理想の自分との乖離を、必死に埋めようと足掻いている。
和恵の日記は、わたしのこの「乖離」を絶妙に突いてくるのだ。だから、お酒なしには読み進めることができなかったのだ。
この事件が発生した頃は、女性が社会でバリバリ働くことは異質だった。だからこそ、「東電OL殺人事件」なんて名称がついたのだろうけれど。
社会は男社会が前提で、そこに「入って来た」「女」が「男」に合わせないといけない。一方、家の中は女社会が中心で、そこに「入って来た」「男」が「女」に合わせないといけない。いや、そのまま男社会を持ちこんだ家族構造だって根強く存在しているはずだ。
一体、何がフェアなのか。どこかに着地点はないものだろうか。

未だに解決しないこの事件と、未だに日本が遅れをとっているジェンダー問題。
不思議な一致を見た気がする。

1
2021年08月01日

Posted by ブクログ

名門女子高に渦巻く女子高生たちの悪意と欺瞞。「ここは嫌らしいほどの階級社会なのよ」。
「わたし」とユリコは日本人の母とスイス人の父の間に生まれた。母に似た凡庸な容姿の「わたし」に比べ、完璧な美少女の妹のユリコ。家族を嫌う「わたし」は受験しQ女子高に入り、そこで佐藤和恵たち級友と、一見平穏な日々を送っていた。ところが両親と共にスイスに行ったユリコが、母の自殺により「帰国子女」として学園に転校してくる。悪魔的な美貌を持つニンフォマニアのユリコ、競争心をむき出しにし、孤立する途中入学組の和恵。「わたし」は二人を激しく憎み、陥れようとする。

0
2024年01月27日

Posted by ブクログ

上下巻の感想をあわせて。

柚木麻子先生の『BUTTER』のような、女性の強烈な内面を描いた作品が読みたくて手に取った作品です。
奇しくも『BUTTER』同様、実際に起きた事件(東電OL殺人事件)をモデルにした小説とのことで、事件の概要を調べながら読み進めました。

それぞれの登場人物の口から語られる自分自身の姿と他人から見た姿のギャップ、美醜と階級に囚われながらも自分だけは美しく立派であると主張する様はまさに″グロテスク″で痛々しさも感じられましたが、怖いものみたさのようなパワーでストーリーに惹き込まれてしまいました。

この本を読んで桐野夏生先生にハマりました。
他の作品も色々読んでみたいです。

0
2024年01月04日

Posted by ブクログ

この本読んで神泉のお地蔵さんを訪れた
時間は隔てていても、自分の日常生活と地続きの場所で男社会に抗った人がいたことを覚えていたいと思った

0
2023年10月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

女性でいることの難しさを和恵を通して感じた。
死がユリコと和恵を開放したのだとすると、どうにもやるせない気持ちになる。

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2023年07月24日

Posted by ブクログ

心が貧しいが故に、周囲から人が離れる。寂しくなり、自分を必要としてくれる人を欲して、性交に走る。そして、自分を客観視できなくなり、見た目も中身も怪物になる。

私自身、かなり治安の悪い地域で働いていた経験がある。その時にどうしようもない人を何人も見た。そして私はその度に「この人たちは若い頃どんな日々を過ごしていたのだろう」と考えを巡らせていた。この作品は、その答えの一例を見た様だった。

0
2022年12月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

信用鳴らない語り部たちの中で、唯一の真実はユリコは怪物的に美しいと言う事だけ。
その事実を中心に回転していた、女の黒い感情を煮詰めた作品。

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2022年12月01日

Posted by ブクログ

下巻は「どうしてこうなった?」の解説パートだったのかなと。
二人の女性を殺害した中国人の素性パートが意外と長いんですが、これもまたある意味で味わい深いものになっています。
前段でAです。と説明されていたことが、後段で実はBでしたみたいな感じで覆されることがままあり、「え??」と思うこと多数。伏線と回収の仕込みがすごいので、じっくり読まないといけません。
総じて面白かったとは思うのですが、表題の通りグロテスクなので、しばらくいいかなといった気分です。

0
2021年09月05日

Posted by ブクログ

去年のアメトーークの読書芸人の回で光浦靖子が推薦していたのが印象に残っていて、それからずっと頭の隅にありつつ、内容が大変そうだからちょっぴり避けていたところもありつつ。
を、ついに読んでしまった。
結果、とても疲れた。笑

主人公の“私”(最後まで名前は出てこない)には、怪物のように美しい妹のユリコがいた。
妹と似ても似つかぬ容姿の“私”は、常にユリコと比較される人生に幼少期から嫌気が差し、ずっとユリコを妬み憎みそれなのに囚われるという人生を歩んでいた。
元来男好きだったユリコは、モデルを経て娼婦として生きたが、40歳を目前に殺害される。同じ頃殺害された同じく娼婦の和恵は“私”の高校時代の同級生で、大手の建設会社に勤めながら夜は娼婦をしているという謎の経歴が世間の興味を引いた。
階級社会、女同士の嫉妬と足の引っ張り合い、男の中での女の価値、殺人事件…様々な要素が絡み合う「グロテスク」な世界。

1997年に実際起きた、東電OL殺人事件がモチーフとして使われている。
読んだあと検索してみたら、かなり細部まで似せて書かれているみたいで、エリート会社員なのになぜ?という普通の人間であれば持つであろう疑問を、最初は感じずにいられない。
あくまで物語の登場人物である和恵は、真面目で努力家であるものの容姿や社会の中での自分の立ち位置にコンプレックスがあり、エリート会社員でありつつ娼婦として身体を売ることは社会への復讐だったのだと思う。堕ちたのではなく、むしろ上り詰めたのだと。

美しき怪物・ユリコはその容姿だけで男たちを手なずけすいすいと人生を歩んでいくが、心は常に渇いていて、自分の容姿にも人生にも強い執着を持たない。
ある意味で天賦の才を持つユリコは根っからの娼婦で、そんな彼女を“私”は羨み、妬み、それを全く意に介さないユリコをさらに憎むようになる。

そして事件。ユリコ殺しの容疑者として捕まった男は、和恵殺しの疑いもかけられるが…
(下巻冒頭に男の手記がある。事実との違いは?というのも見物)
(ちなみに実際の東電OL~は未解決のままの事件)

コンプレックスは自分を高める要素に繋がることもあるけれど、単純に人や社会を憎む要素になることもある。
幸福の基準が自分のなかに見出だせないままだと、結果的に自分を傷つけることにもなりかねない。

エリート高校(Q学園)を出た三人と、もう一人ミツルという重要人物がいるのだけど、皆違うかたちでエリートコースから逸脱し、世間から見れば幸福とは言いがたい人生を歩んでいる。
でももしかしたら四人とも幸福なのかも知れない。少なくとも“私”以外は。
(Q学園にもモデルがあるらしいけど、本当にこんな学校があるのだとしたら恐ろしい。私なら三日で退学しちゃうレベル)

“私”の感情は共感はできないけど解る気はする。美しすぎる妹を持ってしまった悲劇。
殺されても尚影響を与え続けるのだから、ユリコという女はまさに怪物。

濃いし長いし、読んでて疲れた。笑
でも面白かったのも否めない事実…
ちなみに一番グロテスク度が高いと感じたのは、和恵の日記の章だった。

0
2016年11月11日

Posted by ブクログ

東電OL殺人事件をモチーフにしたと聞いて読んでみた。
読んでいて心がザワザワするくらい、登場人物がみんな情緒不安定で、特に和恵の行動には危機迫るものを感じた。
昼はエリート会社員、夜は娼婦という生活がどんどん彼女を壊したのか、逆にその生活で保たれていた心の安定であの状態なのか、心の闇は深い。

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2024年05月14日

Posted by ブクログ

佐藤和恵の考え方が自分と似てて、読んでるとチクチクした…笑
上下巻あるような小説を読み切ったのは久しぶり。
面白かった。

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2024年01月29日

Posted by ブクログ

最後にきた、東電OLのモデルの方の手記が圧巻…
恐ろしい。
いや、家族も見過ごすのが、悪いような。
唯一専務だけが、真正面から向き合ってきたのが、こういう人が出世するのかーと同僚の山本さんという東大卒の女性が仕事にやり甲斐を見出だせす、早々にあまりイケていない(捻くれた和恵から見ると)彼氏と寿退職する辺りだけ共感出来た。

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2024年01月17日

Posted by ブクログ

わたしはあなたたちとは違うー
世の中の、みんな同じ、という重苦しい圧から抜け出したい。だから最も「ふつう」とは異なる娼婦をする。それは人の頭や心から作り出された空気にとは反対に位置する肉体を通して生きる仕事なのだ。
 だがそれは「ふつう」の世の中からはグロテスクな存在にしか見えない。現実が「生の」世の中だとすれば、その反対は「死」であり、現実を振り切って極端に走ってしまえば、その先には滅亡しか待っていない。

誰もが空っぽであることに耐え切れず、手ごたえがほしくて体を合わせる。それが性に向かわせる。だが空っぽなのは心の方だから、肉体を触ったところで残るのは虚しさだけになる。お金が喜びになるのは形として残るからだ。しかしそれも紙切れに過ぎない。ほしいのは心の充足だから、どんどんお金はどうでもよくなりやすく体を売ることになる。

拒食症になっていったのは、大人の女になることの否定でもある。ガリガリに痩せた体は少年のようだ。お手本となる母親に対してああはなりたくないという否定的な感情が働くことがそうさせる。父親依存が強いことからもそれがうかがえる。同時にいつまでも子どもでいたいということでもある。自立したひとりの女性ではなく。だから一家の大黒柱のような大人として自分が家族を養なわければならないと思いこんでしまったことに耐え切れず、そこから逃れたくて、その反対であるもっとも自由奔放な立場ともいえる性の世界に彼女は入り込む。
空っぽの心を埋めたいと同時に、彼女は子どものままの自分を受け止め甘えさせてくれる存在がほしかったのだ。体を売りながら、そんな相手を探し続けていたのかもしれない。

「わたし」と和恵はあまりにも普通の人すぎて、それに耐えられなかった。
ユリコはその絶対的な美しさから、この世に埋もれることはなかったが逆に孤高の存在となり、それは孤独となり、だから誰彼かまわず交わろうとしたのだろう。より多く交わらなければならないほど、彼女は「ひとり」だったのだ。 

0
2023年12月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

上巻もドロドロだと感じたが、下巻はそれを凌ぐ本当にグロテスク。
最初はユリコ、和恵を殺害したチャンの自白が続く。
この話も、どこまで本当かわからないが、グロテスク。
そして私、ユリコ、和恵、ミツルのその後の人生を描く。

和恵のモデルは東電OL、ミツルはオウム真理教か。
ユリコは娼婦のまま死ぬ。
私』は相変わらず悪意の塊、全く嫌なオンナ。ところが最後に驚きの結末。
ユリコは子どもを産み娼婦のまま死ぬ。
和恵はQ大経済学部卒、有名会社勤務であることを、常日頃からひけらかすことでしか存在意義を示せない。父親が亡くなったことで一家の稼ぎ頭になってしまったのは気の毒ではあるが、妹もいて、和恵だけがここまで頼りにされてしまったのだろう。家族にも問題ありだと思う。
だんだん精神を病み立ちんぼの安い客引きになってしまう。
ミツルは大学入学までは順調だったのにその後つまづき、宗教にはまる。
揃いも揃って…という感じ。

かなり長めの上下巻だが、さすがの筆力でどんどん読める。どうして読んでなかったのか後悔した。

0
2023年11月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

東電OL殺人事件をモデルにしていると知って気になっていた作品。すごく面白いけどオススメしにくい…というようなレビューが多くて躊躇していましたが、やっと読みました。結論、読んでよかったです。
女性を取り巻く美醜の問題は今も根強く続いていると思いました。(なんならInstagramやTikTok、K-popの流行で男女問わず美醜に囚われるようになったかも?)
怪物的美人のユリコも、不美人の和恵も、ビジュアル(に反応する周囲の人間)に翻弄され、最終的には同じ最期を辿ります。

「他人と比べる」ことは人を不幸にするなぁとも。
比べないようにすることはすごく難しいんだけども。

東電OL殺人事件の被害者について、年収一千万のエリートがなんで売春なんか…??という疑問が、もし本書のような事情を抱えてたとしてたらなんら不思議じゃないなと思いました。

物語自体は、カースト制度がある学園、怪物的な美少女の存在、家庭環境に問題アリなメインキャラクター達…と特殊な設定で繰り広げられるけれど、ここでの問題をバラしていくと、リアルな社会でも大小転がってる、人の苦悩にも通じていて、人ごとではないなと考えさせられました…。

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2023年10月14日

Posted by ブクログ

グロかった〜
女の中のドロドロした感情のグロさ爆発
どの女の子の中にも、きっと1ミリくらい必ず共感できるグロさがあると思う(私は和恵に共感しまくりだった…怪物…)それをうまく表現してるのすごい

あと、私は本の題名が本の内容のどこで出てくるのか探すフェチ?見つけると興奮する癖があって、この本は終盤で出てきてグッときた

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2023年09月07日

匿名

購入済み

最近から最後まで登場する人物全員が怖すぎるて、ゾッとしました。ほんとグロテスクです。
共感できそうでいて、誰にも共感できなかったです。
悲しすぎます。

#ドキドキハラハラ #怖い #ダーク

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2023年06月03日

Posted by ブクログ

普段あまり読書をしない私には難しい内容でしたが、あとがきを読んで再読したいなと思う1冊でした。上下通して読んでいて言葉にならない悲しさを感じました。。

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2022年02月27日

Posted by ブクログ

最初のチャンの手記がすごい面白かった。チャンはいいやつかと思ってたけど、全然違った。女を売るのって絶対病むはずなのに、全然病んでない和恵すごいと思った。

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2022年02月01日

Posted by ブクログ

狂っている人しか出てこない話。

チャンの話は長い。
ちょっとしんどい。

最後のオチはどうなんでしょう。
登場人物みんな、面白いほどに狂っていったけど
やっぱりこの方の狂い方は普通じゃない。

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2021年10月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読んで非常にしんどかった〜
何度読むのを止めたことやら。こんな本、初めて!

読んでて自分の不健全な男関係(笑)とダブって、辛かった〜〜〜笑

それもあって、それぞれの孤独感や劣等感とかなんとなく分かる気がして、決して他人事じゃないなーと思った。

いやーしんどかった〜

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2021年09月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

★は5つでもいいと思うのだけれど、一つ減らしたのは最後の「わたし」の章がややピンとこなかったから。
「わたし」に百合雄は「薄いです。僕はもっとディープな方がいい」と言うわけだけど、世の中とディープに関わったからこそ/関わらざるを得なかったからこそ、ユリコと和恵はああいう風になってしまったわけだ。
うならないためには和恵の同僚の山本やアシスタントの子のように生きるのが最善なのだから、その部分と矛盾しているように感じてしまったのだ。
もっとも、著者はそれが最善だとは著者は言っていないし。なにより、著者がそれを最善だとは思っていないような気がする。
たんに、“カエルの子はカエル。カエルの姉もカエル”というオチなのかもしれないけれど。
でも、こういう内容の話でそのオチ?とも思ってしまう。
和恵がなぜそれをしたのか?は描かれていても、始めたのがなぜそれだったのか?はないわけで、それを「わたし」で表したのかとも思うけど、和恵の場合は独りでそれをやり始めたわけだしなぁー。

和恵がなぜそれをしたのか?というのはわかる。
前に読んだ時、自分がなぜそれで納得しなかったんだろう?と不思議なくらい、それは明確に描かれている。
それでも、和恵がそれを始めた経緯と、初めてそれをしたことがこの話に出てこないのは不自然に感じる。
(ついでに言えば、初めてそれをした、つまり、初めてエッチをした「わたし」がそれをどう思ったのかが出てこないのも不自然に思う)
描かれていないといえば、ミツルのエピソードを読みたかったな―。

この話って。
結局、人は、他人の目というストレスにある程度晒されないとどんどんおかしくなっていく、つまり、“♪ありのままのぉ~”になっては絶対いけない、という話だと思うのだ(爆)
それは一つには、厳然たる内側のルールで暮らしているQ女子高の生徒であり、そこでつまはじきにされた「わたし」や和恵であり、和恵の家庭であり、ユリコの特異な成長過程でもあるわけだ。
その構造は、ミツルが入信した宗教団体も全く同じなわけだ。
もっとも、それを描いてしまったら、話のスケールが全然違ってくるだろうから、しょうがないんだろうな―と思うんだけど。
でも、じゃあ「第五章:私がやったわるいこと」で語られるチャンのエピソードはどういう位置づけなんだろう?と思ったのだ。

というのも、実はこの本。上巻はそんなに面白く読んでなかった。
下巻になって、いきなりチャンの話になり。(後で絡んでくるとはいえ)全然関係のない人物であるチャンの話に面食らいつつ、話が進まないことにウンザリしながら読んでいたのだ。
ただ、どの辺だかは憶えていない。チャンの話にいつの間にか夢中になっていて。気づいたら、最後まで読んでいた。
そして、読み終わった後、元となった事件が起きた頃や、この本が書かれた2000年頃を思い返していた時だった。
なるほど。日本自体も他人の目というストレスにある程度晒されてないでどんどんおかしくなっていくという意味で、Q女子高や「わたし」や和恵の世界、あるいはミツルの入信した宗教団体と同じだ(った)と著者は言いたいのかな?と思ったのだ。
この本が書かれた2000年前後といえば、暗かったあの90年代が終るということで、世の中にちょっと明るさが見えていた頃だと思う。
ただ、それは気持ちの明るさであって。実際は、90年代不況のリアルなしわ寄せが我々末端にまで感じられる頃だった。
ただ、大企業等は景気の回復をうっすら感じていたようで。2002年からは、“実感なき景気回復”と言われる「いざなみ景気」が始まるわけだ。
でも、日本の大企業の多くがそこで舵取りを誤った。
時の経団連会長が「雇用や給料アップより、新興国企業に負けないように設備投資や研究開発が優先」と言ったくせして、結果は新興国企業にボロ負け。
そこに2008年のリーマンショックが起きて、雇用や給料を後回しにされた一般庶民を直撃。
90年代不況以降日本人に染みついたデフレマインドをさらに進ませてしまったことで、回り回って企業は商品やサービスを値上げできずに収益を圧迫。
結果、給料は上がらないから、さらにデフレが進むという状況に陥って。
いつの間にかGDPはチャンの母国である中国に抜かれていて、しかも、その差は開いていくばかり。
このままいったら、20年後くらいにはチャンのエピソードがそっくりそのまま私たち日本人の身に起きている…、かもしれない(^^;
もっとも、著者がそこまで見越して、チャンのエピソードを描いたかはわからない。
たぶん、日本の中だけ見がちな私たち日本人を、さらに「わたし」や和恵を、その外に住む他人の目に晒してみたということなのだろう。


第六章でミツルが言っていた、「宗教は修行すればするほどステージが上がっていく。わたしに向いていると思ったわ」というのは、なるほど!と思った。
あの宗教団体の信者の多くは、詰め込み教育時代の受験勉強世代だけど、そういうわかりやすさがあればこそなのかなーと。

やっぱり第六章で、木島がミツルに「ユリコも知らない男に殺されちゃいましたけど、言うなれば本望だったんじゃないでしょうか」、「前から言ってましたよ。いつか客の男に殺されるんじゃないかって。怖いけど、それを待っているところもある」というのを読んだ時は、
あー、そういう人って意外と普通にいるよね、と思った。
ただ、なんでユリコはそうなんだろう?とも思う。
ユリコは上巻で手記が出てくるんだけど、それを踏まえても謎の人物なんだよなー。
「わたし」や和恵、あるいはミツルに比べても、役割を与えられたキャラクター感が強いような気がする。


第七章の和恵の語りに、“地下鉄が外に出た。渋谷駅。あたしはこの瞬間が好きだ。地底から地表へ。ようやく身内に開放感が溢れてくる”とあるが、たぶん、これこそが「あの事件のその人がそれをしていた」の理由なのだろう。
ま、売春はともかく、その感覚は自分もわかる。
というか、この感覚って、ウィークディに会社勤めている人なら誰しも金曜の夜、会社を出た瞬間、それに近いものを味わっているんじゃないだろうか?
いやいや。金曜の夜なんて、疲れ切ってて。一刻も早く帰って寝たいとしか思わないから、なんて人は本気で転職を考えた方がいいと思う(^^ゞ
和恵の語りは、さらに“さあ、これから夜の街を行く。泥の真っただ中へ。亀井の行けない世界に。バイトとアシスタントのたじろぐ世界に。室長の想像もできない世界に”と続く。
これなんかは、ティーンエイジャーの時、渋谷や表参道辺りで遊ぶようになった時の感覚と同じなんだろうな―と思う。
一方で、和恵が客の新井の言ったことに対して思う、“わたしは復讐してやる。会社の面子を潰し、母親の見栄を嘲笑し、妹の名誉を汚し、自分自身を損ねてやるのだ”っていうのは、あくまでその場の強がりであって。それをした理由ではないように思う。
確かに、新井の言う“そういう気持ち(復讐)は誰にでもあるけど、復讐なんかしたって自分が傷つくだけでしょ。
淡々とやるしかないんじゃない”を、Q女子高時代にあれだけ痛い目みても学べないのが和恵なんだとは思う。
でも、一方で、和恵と同じく四大卒として入社した山本がデートしているのを見て、“あたしが求めても得られないものを山本は持っているのだ。いや、山本だけじゃない。仕事ができないと馬鹿にしている女子アシスタントも、無礼極まりない同期の男も……至極当然のように持っているのに、あたしだけが持てないものがある。それが人間関係だった”とあるように、和恵だって、それは心のどこかではをわかっているように思う。
人というのは他人に可愛がってもらわないと幸せになれない。可愛がってもらうには、自分が相手に役に立つ存在と思わせることではなく、なにより相手の気分にそぐうようにすること。和恵や「わたし」のように剣呑でいたら、ミツルのように好意を持ってくれる人まで離れていってしまう。
それは、自分を顧みても、そうだよなーって思うのだ(爆)

社員の湯呑を洗っている山本を見て、和恵は言う。
「どうしてあなたがお茶汲みするの。あたしたちはそんなことのために雇われたんじゃないでしょう」と。
「わたしがしなきゃアシスタントの子たちがしなきゃならない。そういうのは嫌だ」と言う山本に、和恵はさらに言う。
「させときゃいい。それしか仕事がないんだから。あの子たちって、寄ると触ると男の噂話か、服とか化粧のことばっか」と。
すると、山本は言うのだ。
「そうかな。あたしはああいう風に生きたい、と思うことあるな」と。
さらに、「あたしはアシスタントみたいに気楽に勤めたい。そして、時期が来たらこんな会社辞めたい」と続ける。
いやいや。20代前半でそう言ってしまう山本の感覚は、さすがにまだちょっと早いんじゃない?とは思う(^^ゞ
ただ、会社勤めをしていて、20代とか、もしくは30代の前半くらいまで?
そのくらいの頃って、体力があるから。仕事について自分に色々なことを課したり、具体的に言っちゃえば能力主義や成果主義が絶対いいと思いがちだけど。
でも、例えば、ある時、徹夜が出来なくなっていることに気づいて愕然としたりと、人は確実に老いていくわけだ。
それは体力気力が続かなくなっていくだけでなく、病気で入院しなきゃならないことだってあると思うのだ。
そして、それが子供の受験等お金が入用な時と重なったりすることだってあるわけだ。
昔の日本は年功序列終身雇用だったから、たとえそうなったとしても、まだ安心できるところがあったと思うのだ。
安心できるからこそ、誰もが仕事に専念出来て、誰もが仕事に専念したからこそ、日本がここまで経済発展できたという面は間違いなくあると思うのだ。
でも、今、日本の会社は、あるいは日本人は能力主義や成果主義に舵を切ろうとしている。
若い時は一晩で何百万も稼いでいたユリコが、年を経たら和恵と一緒に立ちんぼやってたというエピソード、あるいはチャンのエピソードを、今の、そして、これからの日本人はちゃんと考えた方がいいように思うのだが、ま、それはそれとしてw、和恵というのは、つまり頭でっかちの、今で言う「意識高い系」なのだろう。
論文を書いて、それが新聞に載っても、お客さん相手に仕事をさせてもらえない社員。
仕事というのは屁理屈でもなく、知識でもなく。あんがい、ニコッと笑えるか笑えないかだったりするのかもしれないなーなんて思った。

“誰か声をかけて。
 あたしを誘ってください。
 お願いだから、あたしに優しい言葉をかけてください。
 綺麗だって言って。可愛いって言って。
 お茶でも飲まないかって囁いて。”
上記は、帯にもある和恵の独白なのだが。
でも、和恵が思うほど、世間は学歴重視でもないし、一流企業か否かで差別したりしない。
また、見た目の良し悪しだけで女性の好き嫌いを決めたりしない。
もちろん、そういう人はいるし。その傾向があるのも間違いない。
でも、和恵が思っているほどではないと思うのだ。
ただ、根性が捻じ曲がった女性に対して世間や男が冷たいのは確かだと思う。
世間にとって、あるいは男にとって。女性というのは、ニコッと笑ってくれるか否かなんじゃないだろうか?
そういうことを言うと、今は短絡的に「セクハラだ」と言う人も多いけど(^^;
でも、ナントカのひとつ覚えwのようにそういう前に、もしかしたら、自分はいつの間にかこの話の「わたし」や和恵に近づいているのかもしれない?と思った方がいいように思う。
というか。ニコっと笑うか否かというのは、男にも言えることだろう(^^;


第七章の終わりで、和恵はチャンに言う。
「ねぇ、あたしはしちゃいけないことをしているのかしら」と。
すると、チャンは「この世に、そんなことはひとつもないです」と言うのだが、ここはゾワっときた。
しちゃいけないことはない。でも、それをしたら、まともな世界の住人でいられなくなる。これは、そういう意味なんだろうなーって(^^;
ただ、その“それ”って、和恵の何だったのだろう?
ていうか、その“それ”をするかしないかって、誰の身にも訪れることなのかもしれない。
もしかしたら、自分が気づかないだけで、すでに自分は“それ”をしてしまったのかもしれないし、これからしてまうのかもしれない。
ただ、自分が今いる世界って、本当にまともな世界なんだろうか?とも思ったり(^^ゞ

世の中の間違ったことや理不尽なことを正すのは大事なことだとは思う。
そのために過剰なタテマエを声高に叫ばなきゃならないことだってあるとは思う。
でも、タテマエばかりでがんじがらめになっちゃったら、人はどこかで壊れてしまう。
世間の人は壊れた人を見て、「あの人は何であんなことをしたんだろう?」と嘲笑することでストレスを癒す。
でも、その嘲笑によって新たなタテマエが生まれることで、自分たちがさらに生き辛くなることには気づかない。



最近、手に取る本がどれもイマイチで。
ちょっと読んでは眠くなって…という感じだったんだけど、これは久しぶりに夢中になって読むことができた。
教えてくれた方に感謝!感謝!(^^)/

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2021年08月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

上巻で、こんな考えの人もいるんだと主人公を俯瞰してワクワクしながら読み進めていたが、下巻で一気にしんどくなった、、、
和恵の日記は本当にしんどくて、あと数十ページ!というところでちまちまとしか読み進められなかった。
しかしリタイアは出来ず怖いもの見たさに読み進めてしまう凄さ、本当にフィクションなのか?と疑うレベル
1人でも心地よい、信用できる人間関係を持つのは大事、、

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2023年01月16日

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上巻の延長なら読むのやめようかと思ったが、チャン話がアクセントになってスピードアップ。しかし後半はやっぱり重くて真っ黒。

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2021年09月13日

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上下巻読み切っての感想
間違いなく朝の通勤時間に読むものじゃなかった…
ずーんと心が重くなる。特に下巻。
語り手が分かれていて誰の話も信じられない。
周囲に対する羨望と嫉妬に塗れてるのにそれを受け入れられない人たちの堕落劇。
時代背景が今と違うから全て受け入れられるわけではないけど、いつの時代も女の世界はドロドロしてるし、男女平等なんて幻想だな、と思ってしまった

なんかすごいの読んだなって思うけど、読み返すほどのエネルギーはない…

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2024年04月04日

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ネタバレ

ドロドロ系が好きなので気になって選んでみた
上巻の半分読んだだけで、この内容があと半分と1冊続くなんて、、、最後まで読み終えることができるかちょっと不安にw
下巻では登場人物たちの落ちぶれっぷりがすごい。
堕ちていくことでしか生や自己肯定感を感じられない和恵の日記は読んでいて暗い気持ちになる。

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2023年09月20日

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ありとあらゆるコンプレックスが濃縮されていた
劣等感って社会のシステムに組み込まれた刷り込みでしかないのだけれど、無視しては生きていけない。そんなシステムなんて意に介さず自由に生きていける人達を羨ましく思う
桐野夏生さんの作品は濃厚過ぎて目を背けたくなる部分もあるけれどもその分深く味わうことができる
現実の事件が未だ解決していないことは残念です

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2023年08月04日

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人の悪意に満ちた話。
現実も多かれ少なかれ、そうなのだろう、と思ってみたり。
日本に生まれただけて、すごいアドバンテージあるんだな、って反省しました。
桐野さんの本を読んで、いつも思うのが、作者は、読書を傷つけようと思ってるのかな、なんて。
もちろん、自分で選択して、読んでるんですけど。
再読したいか、と問われたら、返答に困るかな…

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2023年07月11日

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ネタバレ

わたしと、わたしの綺麗な妹と、わたしの同級生2人が登場人物。
わたしの語りから始まってどういう人生を歩んでいるか淡々とかかれます。その後、妹の語りや同級生、殺した犯人の語りまで。
わたしがわたし自身を語るのと、周りからのわたしの評価が違うので誰が本当のことを言っているのかだんだんわからなくなってきました。
最後は同じように堕ちていく。コンプレックスと悪意の塊のような本だったのに読み終わってもキツくなかったのはきっと自分にも覚えのある悪意やコンプレックスだったからかも。

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2022年10月01日

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結構ボリュームある頁数だったからか、適当な読速になるまで少し時間が掛かったが、下巻からは物語の中に入り込み一気に読み終えた。
殺害容疑者の真実味のある嘘はよくここまで吐けるものだと思ったし、娼婦として活動する同級生の転落振りは苦しく呼吸すらし難くなった。
マルボロ婆さんでは、昔桜木町駅近くの福富町で何度か見かけた白粉で顔は真っ白、白いワンピースを着ていたお婆さんを思い出した。
声を掛けられる事はなかったが、掛けられなくて良かったけど、どんな人生だったのか、確かに関心はあるな。

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2022年05月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ユリコを殺したチャン(中国人)の邂逅から始まる。

洞窟に住む程貧しい家庭に育ち妹と出稼ぎの為に日本に来たのだがその途中で妹は死んだ。

しかしそれは嘘で兄も妹もチャンが殺した。
チャンは嘘に塗れた男だった。

そのチャンを和恵はイケメンだと言う。
しかしユリコの姉はイケメンではないと言った。

れは一体どう言う事だ?
美醜は人によって違う。
そう言う事なのか?

読んでる間中グルグル黒い渦が体中を渦巻いてる感じがした。

人間の本性を見た気がする。
しかし、その本性はグロテスクで見ていられない。

ここに出て来る人達は私の中にもいる。

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2022年03月25日

購入済み

複雑

面白さ、切なさ、悲しさ、怖さ。
共感、理解、納得。またその真逆。
ただただ必死に読んだ。
スッキリは何一つしないけど、やはり納得。
色々なモノに憤りを感じながらも、やっぱり切ない。
そんな複雑な思いになる。

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2021年01月30日

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