【感想・ネタバレ】涙香迷宮のレビュー

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Posted by ブクログ

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暗号ミステリってちょっと腰が引けちゃうというか、あまり考えずに読んで「へー」ってなりがちなタイプなんだけど、これは凄かった。いろは歌は日本人には馴染みのもので、読んでいて「なるほど」と思うことも多くどんどん没頭した。
それにしてもこの怒涛のいろはには圧倒された。どんな頭脳の持ち主なんだろう!だいたい旧仮名遣いやら古語やら、こんなに自在に操れるなんて凄すぎる。
小1のこどもに普通にオセロで負けてしまう私にはとても考えつけそうにないけど、チャレンジしてみようかな(笑)

黒岩涙香については、たぶん高校時代に日本史で軽く教わり、萬朝報を創刊した巌窟王や噫無情の翻訳者であるということくらいは知っていたけれど、こちらも読んでいて圧倒された。すごい人だ。だいたい最初の新聞社で24歳で主筆、30歳で萬朝報創刊。こういう若くして活躍する人がいたのが明治の時代なのかな…と思ったりもした。

牧場智久を探偵役とする小説はシリーズものなんだね。
類子ちゃんと智久くんの可愛いカップルのシリーズなのかな。囲碁も将棋もさっぱりだけど、他のものも読んでみたい。

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2020年08月13日

Posted by ブクログ

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小学生の時、涙香が翻案した「死美人」という小説が結構好きで、大人になってから読みたいと思い青空文庫で探してみたけど見つからなかった。
それが4年前の夏、子どもの頃に読んだ本を実家が送りつけてきた本のなかにそれがあったので読みなおしてみたところ、やっぱり面白かったと当時のブログに書いていました。

晩ご飯を食べながら読み返してみたけど、やっぱり今読むとおどろおどろしいとは言えないし、犯人は想像つくし、何よりフランスが舞台なのに主要人物たちの名前がみんな日本人だし、突っ込みどころが満載だけど、面白かった。
善も悪も変装して騙し合う。
展開は読めるんだけど、だからこそ安心して読めるというか。
うん。読めて満足。明治の探偵小説。』

さて、その涙香がタイトルになっているこの本、坂口安吾の本を読んだ直後に本屋で出会ったのも何かの縁でしょう。
安吾も涙香のファンだしね。

と思って読み始めたら、これシリーズものでした。
まあ全体的に登場人物の書き分けがあまりしっかりされていないので、シリーズのキャラクターが何人出ているのかわかりませんが、あまり問題はありませんでした。

で、この本で作者が書きたかったことって、「黒岩涙香ってすっげ~!」ってことだと思う。
明治に活躍した翻訳・翻案者というだけではなく(「巌窟王」とか「ああ無情」など、涙香のつけた邦題の絶品なことと言ったら!)、教科書にも載っている明治に創刊された新聞「万朝報」の創刊者であり(内村鑑三、幸徳秋水、堺利彦などが記者だった)、競技かるたのルールを統一し…くらいしか知らなかったけど、日本のダ・ヴィンチと言っていいくらいいろいろなことに造詣が深い人なのです。

ほぼほぼ蘊蓄で占められている本文がメインで、殺人事件は多分ミステリとしての体裁を整えるための後付け。
動機もトリックも全然ひねられていない。
 
それならさあ、各登場人物がその道の第一人者ということを活かして、それぞれが自分の得意分野で一節をぶち、最後にそれらの知識を吸収した主人公が真実を暴く、という形にすればいいのにと思いました。
「黒後家蜘蛛の会」のヘンリーみたいに。

だって、高校生の一人勝ちなんですもの。
第一人者たち、謎の解明を丸投げしちゃったから登場人物としてのアイデンティティーが喪失しちゃった。

蘊蓄が好きな私は面白くて一気に読んじゃったけど、京極夏彦の蘊蓄に閉口するような人はこの本には向きません。
囲碁と「いろは歌」に興味のある人はぜひ。

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2019年09月20日

Posted by ブクログ

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「黒岩涙香」という遊芸に通じた知の巨人を巡る暗号ミステリ。暗号解読と殺人事件の解決という二段階からなるが、前者の暗号の凝りに凝った内容に感嘆させられる。作中では涙香の作品として登場人物からの絶賛を浴びているが、それがそのまま作者に対する評価になるのは間違いない。

黒岩涙香という人物は恥ずかしながら知らなかったが、歴史好きには非常に興味深い、文学界の革命児だと知り、その点も非常に勉強になった。歴史記述の部分が細かすぎて物語がそこで止まってしまう感が一部あったが(特に前半)、後半の展開を考えると仕方ないのか。

そして、いろは歌に是非挑戦してみようと思う!

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2019年08月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

評判が良かったので読んでみたくて、シリーズモノだと知ってまずは『囲碁殺人事件』を読んだんだけど、三部作探すのが面倒臭くなって、将棋とトランプを飛ばして本作品に着手した。
そしたら12歳だった智久は全く子供っぽさがなくなった18歳になってて、天才の名をほしいままにしてた。
ちょっと飛ばしたのを失敗したかなと思った(笑)。
脳科学者の須堂なんかも居なくなってて残念。

タイトルの「涙香」は人名なのね。
全然知らなかった。

とある老舗旅館で殺人事件が起きて、たまたま対戦で近隣に来てた智久と担当刑事が知り合いだったことから、智久は現場に立ち会い、解決に向けて頭脳を働かせる。
一方、智久の示唆で見つかった黒岩涙香の隠れ家を発掘調査する涙香研究者達に同行する智久と彼女の類子(彼女できてる!)は、隠れ家の意匠に組み込まれた数々のいろは歌に驚かされる。
そのうち、これも涙香の暗号なんじゃないかと智久が見破る。

いろは歌はみんな竹本さんが作ったわけで、まずそれに圧倒される。けど、正直、付いていけないと言うか、かなり置いていかれた感を感じながら読むことになった。
暗号も、凄いんだけど。凄いんだけど。

とにかく、よくこんなの考えつくな、って感想しかない。
渾身作なのは疑いないけど、面白く読めたかと言われれば、そうでもなかった。ので辛口かもしれないけど☆3つ。
単に自分は暗号モノに向かないのかも。

智久が人間としてほぼ完璧なのがなんか嘘っぽかった(突出した脳味噌の持ち主は性格が歪んでるもんじゃね?、って先入観のせい)。
大事な一戦の前に発掘現場に赴いて、そこから対戦に向かうとか、なんかモヤった。
直前に『囲碁殺人事件』読んだから余計にそう感じたかも。あの作品は対戦前や対戦中の棋士の心理状態がとても良く書けていたから。

ほかにも、台風近づいてきたら大人しく発掘中断して帰りなよ危機管理能力ないな、と思ったし、犯人の動機もちょっと納得行かなかった。
自分の器以上の作品を発表したらむしろその後の苦しみの方が遥かにツライ。それこそ竹本さんが身を持って知ったことだろうに。
そんなんで人殺してたら割に合わない。
…などと思ってしまった私は名声欲が無いからなのかな。

…もしかしたら、暗号部分は凄いけど、ミステリとしてはイマイチなのかも。
ただ、黒岩涙香との関わらせ方はとても巧みだった。
どこまでが史実でどこからが創作なのか、混乱しそうだった。

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2020年08月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

評価
 サプライズ ★☆☆☆☆
 熱中度   ★★☆☆☆
 インパクト ★★★★☆
 キャラクター★★☆☆☆
 読後感   ★★★☆☆
 希少価値  ★☆☆☆☆
 総合評価  ★★★☆☆

● サプライズ ★☆☆☆☆
 菅村悠斎と榊美佐子を殺害した犯人は小峠元春。ミスディレクションとなるような人物も存在しない。そのため,サプライズ感は低い。黒岩涙香の暗号を解読した結果,発見されたお宝が逆文となっているいろは歌というのもサプライズ感はない。

● 熱中度 ★★☆☆☆
 殺人事件には,トリックらしいトリックもなく,魅力的な謎もない。暗号解読部分もロジカル過ぎてあまり楽しめない。なんかすごいことをしているという印象。あまり,先が気にならず,物語を引っ張っていく力に欠ける。ただし,黒岩涙香や連珠,いろは歌などについての雑学知識部分はそれなりに興味深く読める。

● インパクト ★★★★☆
 殺人事件部分は平凡だが,48以上のいろは歌が収録されているので,いろは歌のミステリとしてのインパクトはある。

● キャラクター ★★★☆☆
 牧場智久と武藤類子というシリーズおなじみの主人公。それなりに魅力的に描かれている。しかし,ほかの登場人物がそろって牧場智久を褒め称えているのが,リアリティに欠ける。一人くらい反発する人物がいてもよさそうなのだが。犯人の小峠を含め,涙香マニアの面々や歌人の弥生,被害者の美佐子などそれなりに魅力的だが,いかにも竹本健治作品に出てきそうなタイプのキャラクターばかりである。

● 読後感 ★★★☆☆
 暗号は解けるが,すっきりしたというよりふーんという感じ。ロジカル過ぎるし,古文についての知識がいるので,なるほどそうだったのか…となりにくい。殺人の動機=詰連珠の作者の地位をのっとりたい…というのも分からなくはないのだが,長編ミステリとしてはやや弱い。読後感はよくも悪くもない。

● 希少価値 ★☆☆☆☆
 かなり話題になった作品。しばらくは問題なく手に入る。ただし,10年後,20年後にどうなっているか。それほど面白くないので,手に入りにくくなっている可能性はある。 

● 総合評価 ★★★☆☆
 黒岩涙香,連珠,いろは歌といったいろいろな雑学について書かれている部分は,非常に楽しく読める。竹本健治作品にありがちな分かりにくさ,すっきりしなさはなく,シンプルな作り。それでいて,多数のいろは歌といろは歌に隠された暗号の技巧は見事で,なんか凄いと感じることができる。そのあたりが本格ミステリ大賞を受賞したゆえんだろう。しかし,問題は,「本格ミステリ大賞受賞」とか「超絶技巧の暗号ミステリ」といった賛辞が独り歩きして読む前にハードルが上がり過ぎてしまうことである。はっきり言って,この作品はそれほど面白くない。面白くないが,技巧がすごいので感心するという作品である。そういった意味では玄人向け。話題になっているという理由で買って読んだ人のほとんどは「ふーん。それで」となって,「それほど面白くない」で終わってしまうだろう。
 個人的には竹本健治好きなので,物語の雰囲気と雑学部分は楽しめた。しかし,肝心の殺人事件部分については,短編ミステリ程度のデキ。正直,いろは歌部分と雑学部分を除いた殺人事件部分だけを取り出すと及第点に達しない短編ミステリになるだろう。いろは歌の技巧と雑学部分の面白さに敬意を表してギリギリ★3で。

メモ
老舗旅館,隋宝閣で殺人事件が起こる。刑事の楢津木は,たまたま一緒にいた旧知の牧場智久に現場に来るように依頼。智久は,現場に残された碁石が普通の対局で使う碁石より多いことに気付く。
武藤類子は,友人と参加していたミステリナイトというイベントで,麻生徳司達と知り合いになる。
智久は,黒岩涙香が残した連珠の基本形に残された暗号を解読する。そして,明山にある涙香の隠れ家を発見する。
智久と類子達は,涙香の隠れ家の探索に参加する。その雑談の中,ふとしたヒントから,智久は冒頭の殺人事件の被害者の身元を明らかにする。
涙香の隠れ家で,智久達は,涙香が残したという48のいろは歌を紹介される。そのうちの1つが暗号ではないかと考える。
楢津木から連絡があり,冒頭の殺人事件の被害者が「菅村悠斎」という独居老人であることが分かる。菅村は涙香展の準備会に参加しており,麻生達と会っていた。
智久が落石に遭う。すんでのところで助かる。落石は誰かが故意に落としたものである疑いが強い。
類子の一言から,48のいろは歌の最初の1文字に隠された49番目のいろは歌の存在に気付く。
その歌は椿,榎,楸とあって,鍵となることばが柊であると推理する。
榊美佐子の死体がトイレで発見される。美佐子は智久のコップを使い,毒を飲んで死んでいた。智久は落石により命を狙われ,更にコップに毒を仕込まれていたことになる。
智久は,メンバーの中に菅村悠斎を殺害した人物がいて,自分が真相を暴く前に殺そうとしているのではないかと推理する。
智久は,犯人捜しを中断して,涙香が残した暗号の解読を優先する。柊からひひら+かす→ひひらかす→転として暗号の鍵を探し出し,最終的には28宿のヒキツボシとウルキボシだと見抜く。それぞれに対応する天井のパネルを抜くと,中からさらにいろは歌が見つかる。この2つのいろは歌は逆文になっていた。
暗号を解いた智久が小峠を誘ってトイレに行くと,小峠は智久を殺害しようとする。菅村と美佐子を殺害した犯人は小峠だった。
小峠は菅村が造った詰連珠の問題を奪うために,菅村を殺害していた。

楢津木…刑事
牧場智久…囲碁棋士。探偵役
麻生徳司…黒岩涙香研究科
大館茂…ミステリ評論家
井川邦芳…ゲーム研究家
永田靖久…黒岩涙香マニア
菱山弥生…歌人
小峠元春…パズル作家
緑川拓郎…地元のミステリマニア
榊美沙子…地元のミステリマニア。被害者
家田美津夫…編集者
菅村悠斎…被害者

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2018年04月25日

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